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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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鯛子、陸に上がる

 次の島で、ヤヒコは浜辺にもう一つづつ買ってあった餌の袋を最初からぶちまけてしまった。瞬く間に森から手鞠鳥達が飛び出してきて、餌に群がる。その隙に、ヤヒコはその島の囮卵を集めてまわった。

 こうなってしまっては、これからは餌を持ってこなければ卵は集められないだろう。餌代は卵を1つ売れば楽々回収できる程度だからいいものの、鉱山のコウモリと言い、色々な生き物に餌をたかられている現状に、ヤヒコはちょっと涙が出てきた。いくら安全な採集行動のためとはいえ、情けなさすぎる。

 誰に妨害されることもなく、卵を集め終ったヤヒコは首を傾げる。

「……おかしいな。いつもならここら辺でマックス君と遭遇してもいいはず……」

 そう。いつもならマックス君が卵を採りに来た所に遭遇し、1人と1匹は激しい追いかけっこを繰り広げるはずなのだ。

「…………まあ、来ないんならそれでいいか。楽だし」

 ヤヒコは未だに餌に食いつく手鞠鳥達を尻目に島を離れた。向かう先は《始まりの町》だ。






「ちょっとすみません、お話があるのですが」

 ヤヒコが囮卵の入った鞄を背負い《始まりの町》に入ると、深緑のローブを着た背の高い男が話しかけてきた。

 ローブと同じ色の髪、橙色のつり目に銀縁丸メガネをかけたその男は、ヤヒコを手招きして路地に連れ込むと、その背中の鞄を指さし、

「あなたがお持ちの卵を全てお譲りいただけませんか?もちろん相応の代金はお支払いします」

などと言う。

 元々売るために持ってきた卵である。白猫料理店に持っていこうとは思っていたが、そっちよりも高く売れるなら問題ない。ヤヒコは二つ返事で売ろうとしたが、何かが引っかかる。


 なぜこいつは卵を持っていることを知っている?


 もう一度男の顔を見る。知らない顔だ。そのはずなのだが、なぜか強烈な既視感があった。

「…………えーっと、前にどこかで」

「もうばれるとは……やひこさんはあなどれませんね』

 ヤヒコがセリフを言い終わらないうちに目の前の男の姿がぐにゃりと歪み――次の瞬間、目の前にいたのは蛇のマックス君だった。

「尻尾だすの早ッ」

 もうちょっと粘ってもよかったのではないか。こちらはどこかで会ったことがあるかどうか聞こうとしただけで、正体を言い当てたわけでもないのに。

「てーか、今の格好何だよ。大体お前蛇なのに金持ってんのかよ」

『さきほどのは、どうしてもたまごがほしくて、やひこさんをおいかけようといろいろがんばってみたらできました。おかねはにんげんにばけられるようになったので、ぬしさまがおこづかいをくれました!』

 自慢げに胸を張るマックス君に、ヤヒコは呆れた目を向ける。

「……もう、何でもアリだなお前」

 その時、ヤヒコの腰の壺から鯛子が飛び出してきた。

「あ! ちょっ……なにしてんだ!」

『ひからびてしまいますよ、たいこさん!』

 慌てる一人と一匹の制止を振り切り、鯛子は地面でひと跳ねすると、空中で淡く紅く光った。

「町中で津波はやめろお!」

『たいこさん、まさか……!』

紅い光は大きくなると弾けて消え、そこには紅い衣、薄紅色の髪に黒い瞳の少女が立っていた。

「     え? ……えええええええ!?」






「で? 結局いつから変身できたんだよ」

 ヤヒコと白銀と人型鯛子、そして再び人に化けたマックス君の4人?で白猫料理店本店に移動し、個室に入ったところでヤヒコが切り出す。個室を頼んだ時に、エリンが物凄くこちらを興味深そうに見ていたのが印象的だった。

「……その……あの……ごめんなさい……」

 鈴を転がすような可愛らしい、しかし蚊の鳴くような小さい声で、人型鯛子が謝る。鯛の姿だとだいぶアグレッシブな彼女は、どうやら人型だとやたら気が弱くなるらしい。

「別に怒ってるわけじゃないんだ、ただ、あの津波案件の時、そんな感じの格好になってたような気がしてさ…」

 卵料理を大量に注文し、ひとりでたらふくほおばっているマックス君を横目に、ヤヒコはため息をつく。

 もし人型になれるのが早々にわかっていたなら、もっと意思疎通が容易かったのではないだろうか。

「……人型になれるようになったのは、ついこの前のことなのです。今まではヤヒコさまのレベルが足りず、私の能力に大幅な制限がかかっておりましたので……必殺技もめったに使えませんでしたし……」

「まじかよ……。今はもう解除されたのか?」

「いえ、まだです……。この姿も、そう長くは持ちません。今の状態だと、週に一度、2時間程度が限度だと思います……」

「俺のレベルが足りないのか……」

 必殺技とは、あの大津波や水竜巻のことだろう。制限がなければもっと自由に使えるというなら、鯛子の実力とはどれほどのものだろうか。

「マックス君はどうなんだ? どれくらいの時間変身してられるんだ?」

「うーん、計ったことないですね。30分くらいは平気だと思いますが、頑張ればもっといけるんじゃないでしょうか」

 数人分の料理をすでに食べつくしたマックス君が考え込むようなしぐさをする。人間型になるとやたらと流暢になるこの蛇も、強力なスキルや便利スキルをいくつも使いこなし、実力の底が知れない。こんな奴を倒して召喚獣にした和子さんは一体何者なのだろうか。

「とにかく、しばらくはほとんど鯛の姿のままってことでいいのか?」

「はい……すみません……」

「いや、謝んなくていいんだけど……ていうか白銀、お前静かだな、どうしたんだ」

「…………駄目でござる」

 料理を注文もせずに黙っていた白銀がぽつりとこぼす。

「駄目って何が」

「拙者、どうやっても人型に変身できないでござるよ……!」

「お前は今のままで十分じゃねーかな……」

 静かだと思ったら、ずっと変身できないかどうか頑張っていたらしい。しかし、彼は今のままでも喋れるし、ある意味人型ではあるので、そんなに問題ないのではないかとヤヒコは思った。

「違うのでござる、この流れ、拙者や福助殿も人型に変身して殿を驚かせるべきところでござるよ!」

「きー!」

「そんな流れはいらねーから!」

 白銀と福助は揃って怪気炎を上げている。その様子に溜息をつくヤヒコに、フレンドメッセージが届いた。

「誰だ……エリンさんから?」

 そのメッセージには『ちょっと部屋から出て来れる?』などと書かれている。恐らくは個室に連れ込んだ見慣れぬ面々のことを聞きたいのであろう。

「ちょっと席外すぞ」

 事情説明のため、ヤヒコは仕方なく個室を出た。 

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