再びの金策と誤算
ヤヒコは自分の財布とにらめっこしていた。
彼はソロのレベル35にしてはお金持ちだったが、鍛冶の修業をしたり、知り合いのストーカーを追っ払ったり、どこぞの島に行ったり、変なボス討伐に巻き込まれたりした結果、そんなにお金持ちじゃなくなってしまったのである。
ボス撃破の報酬やエリンからのジェイレット島ツアー企画の謝礼は貰っていたが、それでもなんだか心もとない。防具は新調したばかりだが、武器のほうはこれから買い換えないといけない、鍛冶に加えて木工のスキルも上げないといけないと思うと、さらに心配になってくる金額であった。
「……金策、しよう」
ヤヒコは心を決めた。そう、再びの囮卵狩りである。
ヤヒコ達は早速鯛子の背に乗り手鞠鳥達の島に向かう。地道にソロでちまちま狩りをしてもお金なんてそうそう貯まらないし、一人でボス級の獲物を狙うだけのレベルも技量もない。鍛冶の腕前もとても他人様に売りつけられるような良い製品は作れないとなると、囮卵のような単価も高く需要も高いレア物の採取を狙うしかない。
島に到着すると、浜辺に鯛子と白銀を待たせ、すぐに森に入る。森の中は時折ぴょんぴょんという手鞠鳥の鳴き声がするだけで、後は静かなものだった。
「今日は鳥が大人しいな……今のうちに卵採っちまうか」
すでに場所を覚えてしまった囮の地上巣をまわり、卵を回収していく。手鞠鳥の姿は見ないものの、樹上の本命の巣には手を出さなかった。さすがにレイドボス級の鳥の恨みを買いたくはない。まだマックス君は来ていないらしく、どの巣にも卵が入っていた。ヤヒコは容赦なく卵を回収していき、ひとつめの島の巣をまわりきった。
「次の島に行くか……」
そう呟いて浜辺に向かったヤヒコはぎょっとした。浜辺を覆い尽くす勢いで手鞠鳥が待ち構えていたのである。
「おお、殿、お帰りでござる。何だか可愛らしい鳥達がいっぱい来たでござるよ!」
白銀は手鞠鳥に集られつつフワモコなその体を暢気に愛でている。
「道理で森の中にいないと思ったら……!」
手鞠鳥達はあっという間にヤヒコを取り囲むと、つぶらな瞳でヤヒコに迫った。何事かを訴えかけるかのようなその視線は、正直言って怖い。数はこの前取り囲まれた時の倍はいた。
「殿は懐かれておるのでござるな!」
「違う、絶対なんか違う感じがする……お前ら、何が望みだ!」
そんなことを叫ぶヤヒコだが、鳥から返事が返ってくるはずもなく、手鞠鳥達はひたすらにヤヒコを取り囲んだ。その輪は段々と狭まっていき、終いにはヤヒコの背の鞄をつつきだした。
「まさか、餌か!? でも今俺やれるもん何も持ってないぞ!」
恐らく、この前の炒り豆作りの時にこいつは餌をくれる奴だと覚えられてしまったのだろう。
手鞠鳥はヤヒコのポケットを覗いて福助を驚かせ、腰に下がった壺を覗き込み、財布にまで顔を突っ込み、ヤヒコが自分達の望むものを持っていないと知ると、ぴょんぴょんぴょんぴょんと大合唱を始めた。大ブーイングである。
「くそっ、何でこんな目に……」
鞄の中に吸血鬼対策の炒り豆があることはあるのだが、それを与えるわけにはいかない。なにしろ現在どこの町でも大豆は購入制限がかかっていて一度に1、2袋くらいづつしか買えない上にすぐに売り切れるのだ。
「わかった、わかったから、何か食い物買ってくればいいんだろ、こんちきしょー!」
そんなヤヒコのやけっぱちの言葉を理解したのか、手鞠鳥達が道を開ける。ヤヒコが森に入ってからもう一度浜辺に出てくるところを狙う所と言い、こいつらは無駄に頭が良いようだ。ヤヒコが鯛子に乗ると、手鞠鳥が1羽ヤヒコの背中の鞄の上に乗る。お目付け役まで付いてくるらしい。
白銀には相変わらず鳥達がまとわりついている。人質なのだろうか、とりあえず身動きできそうにないようだった。
「……仕方ない、何か買ってくるか……白銀は大人しくそこで待ってろよ」
「了解でござる!」
どうしようもないので、ヘタレなヤヒコは《始まりの町》まで手鞠鳥を連れて戻ることにした。
《始まりの町》まで戻ると、ヤヒコはまっすぐNPCの穀物店に向かう。さっさと用事を済ませたかったのだ。
手鞠鳥は最初は大人しく背中の鞄の上に乗っかっていたが、そのうち飽きてきたのかヤヒコの頭の上や肩に移動したり、どう見てもサイズ違いなポケットに入ろうと試みたりして福助と揉めていた。福助としては、ヤヒコのポケットは自分と白銀のものであると思っているらしく、どうにかして手鞠鳥を追い払おうときーきー鳴いて威嚇していた。そんなわけで、きーきーぴょんぴょんとヤヒコの周りは大変うるさい。道行く人々がちらちらと目を向けてくるので恥ずかしい思いをするヤヒコであった。
穀物屋に到着すると、手鞠鳥はヤヒコの肩から降りて店の中を勝手に進んでいく。
「おう、いらっしゃい……ってなんだこいつは」
店の主人は店内を我が物顔で徘徊する手鞠鳥に目を丸くした。
「おっさん、大豆残ってるか?」
「大豆は今日の分はもうねえな」
ヤヒコが店の主人と話している間、手鞠鳥はあちらこちらを見てまわると、「ぴょん!」と鳴いては翼で穀物の袋を押す。これを買え、と言う主張だろう。
「ええと、トウモロコシに、ヒエにアワか……おっさん、2袋づつくれ」
「おう、いいけどよ……鳥の使いかよ、大変だな」
「どうしても餌やらねーと離れてくれねーんだよ……」
店の主人に冷やかされながらもヤヒコは手鞠鳥の要求する品を購入した。鞄にしまうと、手鞠鳥は満足したようにぴょんとひと鳴きして再びヤヒコの肩に乗る。
これで島に戻って餌をやればミッションコンプリートのはずである。
島に戻ると、白銀はきゃっきゃうふふと手鞠鳥達と戯れていた。思ったよりこういう生き物が好きらしい。
浜辺で穀物の袋を1つづつ開けてやると、手鞠鳥達はあっという間にそれに群がった。ヤヒコの肩に乗っていたやつも、それに混じって穀物をついばんでいる。
「……今のうちに逃げるか。白銀!」
「なんでござるか?」
「逃げるからお前、小さくなれ。それから次の島ではポケットから出ないようにしろ」
「しかし、鳥達が……」
「鳥のことはいいから、あいつらは餌欲しいだけだから!」
かくしてヤヒコ達は手鞠鳥達が餌に群がっているうちに島を逃げ出した。




