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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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二泊三日、恐怖の島体験ツアー⑥ 2日目

 朝、ヤヒコが目を覚ますと、ベッドの傍らには骸骨がいた。服装などから察するに、ビリーである。

 しばし2人は真顔で見つめ合った。






 ヤヒコが部屋で朝食をとっている途中、ビリーは部屋の隅で蹲り、泣いていた。骨の眼窩から、どういう仕組みかは知らないが涙があふれていた。

「ううっ……ヤヒコは何で俺には驚いてくれないんだよう……ぐすっ……」

「…………すみません……」

 大変申し訳ない気分になるヤヒコ。だが、驚けないものは驚けないのだ。たとえ無理矢理驚いたふりをしても、きっとばれて可哀想なことになるだろうし、ヤヒコには彼をどう慰めたらよいのかわからなかった。

「もうっ、ビリーさん、そんなに泣いてたらヤヒコ様が美味しくご飯をいただけなくなっちゃうでしょう!」

 怒ったサリーがビリーを部屋から追い出す。開いた扉から、今朝もツアー客達の元気な悲鳴が聞こえてきた。

「今日は皆さん午前中は観光で、午後はゴースト狩りの見学ですよね? ヤヒコ様も何かなさるんですか?」

「俺は午前中は図書館ですね。白銀がゴースト狩りに参加するから自分でも属性付与魔術を覚えたいって言うんで、一緒に行っていいのを選んでやらないといけないんです」

「そうですか。じゃ、ツアーのお客様達はヤヒコ様抜きで頑張らないといけないんですね」

「そうなりますね。っていうか、いつでも俺が案内できるわけじゃないんですから、この島のひとが案内できるようにしておいた方が後々良いですよ」

「それもそうですね」

 扉を閉めても響いてくる階下の悲鳴が耳につくが、それでもここの館の料理は美味しかった。






 ヤヒコが白銀を迎えに訓練場まで行くと、黒狼の姿もあった。彼も訓練に混ぜてもらっていたらしい。

 白銀同様、アンデッドの群れにも良く馴染んでいるようだった。

「おはよう白銀、黒狼」

「おはようござる、殿。今日は黒狼殿も一緒だったのでござるよ」

「おはよー! ここの奴ら結構強いな! ヤヒコも訓練すんの?」

「俺はしねーよ。……あれ? お前のギルドの他の奴らは?」

「何か調子でねーとか言ってついてこなかったぜ。せっかくなんだから一緒に戦ってみればよかったのになー」

 黒狼はホラー系が平気なようだが、他の団員はそうでもなかったらしい。きっと朝から色々な恐怖に見舞われて戦力偵察どころの話ではないのだろう。午後のゴースト狩りに参加する予定らしいが、こんな様子で大丈夫だろうか?

「白銀、図書館行くぞ。ゴースト狩りだし火属性でいいか?」

「そうでござるな。早速行くでござる」

「ええー? ヤヒコはツアー行かねーの? 一緒に乗ろうぜ遊覧船!」

「お前は普通の観光コースなのか。俺達は午前中はどっちのコースとも別行動だぞ。ゴースト狩りには参加するけど」

「ちぇー」

 ちょっとすね気味の黒狼を置いて、ヤヒコ達は図書館へと向かった。






 ツアー客達は朝食後、1階の玄関ホールに集められた。そこで一般観光コースと研究施設見学コースの2つに班分けされ、それぞれの案内人のアンデッドをつけられた。そして目的地に向かうべく、町に出た。この時点で、昨日は馬車に乗っていたせいでわからなかった町中のアンデッド系のはびこり具合に恐れをなすツアー客も少なくなく、町の住人達はびくびくおろおろする客達を暖かく見守った。


 一般観光コースは最初にジェイレット島や周囲の島々を観光遊覧船でひと巡りし、所々の島に降りて自然を満喫、それから本島に戻って灯台に登り、高所からの風景を楽しみ、それから町の中央通りで昼食、というものであった。だが、島々を取り巻く霧の結界のせいでプレイヤー達の視力ではあまり遠くまでは見渡せず、所々に住まうゾンビだのスケルトンだのに怯え、見回りのレイスが霧の中を飛び回り、時々霧の中から飛び出してくるのに驚き、と観光とは別方面で忙しかったようだ。案内人がデュラハンで、首が体にくっついてなかったというのも精神的ダメージの元であったらしい。参加者のうちで黒狼のみは「とっても楽しかった!」と言ってのけたという。ちなみにハヤトもこちらのコースだったが、「二度と行きたくない」と後々語ったとかなんとか。


 研究施設見学コースはその名の通り、ジェイレット島に存在する魔術研究施設を見学した後、ヤヒコも訪れたジェイレット3番通り、通称『魔術師通り』とそのお隣の4番通り、通称『薬屋通り』にあるいくつかの魔術具・魔法薬工房にお邪魔してその仕事の見学、それから一般観光コースの面々と合流して昼食、であった。元々そういう方面に興味があった槐や和子は大喜びし、色々と積極的に話を聞いてまわっていた。エリンとアルトもこちらのコースで、主要ギルド会議で要請されたとおりにこの島でどのような魔術が研究されているのか、どのような系統が得意そうなのかを順当にチェックしていた。だが、専門家ではないのでわからないことも多かったようだ。こちらの案内人はレイスだったため、他のアンデッド系種族よりはまだ平気、という客が多かった。研究者たちにアンデッドでない者もそこそこいたのも良かったらしい。






 ヤヒコが白銀に何とか火属性の属性付加魔術の一番簡単なものを仕込み終わり、ゴースト狩りの集合地点に行くと、他の客達、そして狩りに参加する兵士達は既に揃っていた。

「悪い、遅れたか?」

「いえいえ、皆さん今ついたところですよ」

 クレインもまた参加するらしく、その場に来ていた。

「クレインさん、何かぐったりしてる人が多くありませんか?」

「そうですねえ、特にびっくりポイントは用意してなかったはずなんですがねえ……」

 クレインは首を傾げていた。ヤヒコも首を傾げる。

「まあいいでしょう。見学者の皆さんはこちらのアーテル号に乗ってください」

 クレインの指示により総員は予定された配置につき、こうしてゴースト狩りが開始された。


 今回のゴースト狩りも前回と同じコースで周辺の小島をまわり、ぶよぶよとした灰色のゴースト達を兵士たちは順調に掃討していった。今回はヤヒコと白銀も参加して、火属性魔術や属性付与された武器でゴースト達を薙ぎ払う。『黒狼旅団』の4人も火属性付与魔術が使用できたので、ちゃんと参加することができた。朝の様子からは(黒狼以外は)戦えるだけの気力が残っているのか心配だったが、ちゃんと戦闘できている。途中からは槐や和子も参加して、和気藹々とした狩りとなった。

 今回はどこぞの領主が仕事をさぼっているということもなかったらしく、大型ゴーストも出現せず、安全に狩りを終えることができたのだった。

 無事に宿に帰りついたツアー客達は皆ほっとした様子で、(戦闘でテンションの上がった黒狼以外は)落ち着いた様子で各々の部屋に戻って行った。


 しかし、前回は大型ゴーストが出て皆疲れ果てていたものの、今回は余裕で狩りが終わったわけで。

 全力で油断した客達は再び仕掛けられた館の者達の悪戯に、またもや悲鳴を上げるのだった。






 ちなみに、ヤヒコのところにはビリーが再挑戦しに来ていたが、彼はまた泣いて帰った。

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