二泊三日、恐怖の島体験ツアー② 立案
「まずは手始めに10人前後でテストしてみましょうか。この町の観光名所をピックアップして、あと買い物もしたいですよね……」
「え、えっと、クレインさん……?」
クレインは何かのスイッチが入ってしまったらしく、黒板にいろいろ書きだしながら、ツアー構想を立て始めてしまった。ヤヒコも自分が話を振ってしまったせいで始まったので止めようがない。
「ヤヒコ君、ここに最初に来そうな人ってどんな人です?」
「うーん、料理人さんとか、普段漁師やってる人とか、狩りばっかりしてる人達とか……」
3つのギルドを大まかに説明できる言葉を探すが、そんな言葉しか出てこなかった。
「全くまとまりがありませんね……。料理人さんはともかく、何で漁師さんと狩人さんがうちに来たがるんでしょうね」
「漁師の方は知りませんけど、狩人の方は知らない場所に行けば知らない獲物に出会えると思ってるような人たちですね」
「ゴースト狩りに参加したと言ったら羨ましがってる者もいたでござるよ」
「料理人さんは普通に観光したいみたいです。あとは、前からこちらに来たがってた職人さんとかは、多分この島の技術面に興味があると思います」
ついでなので槐も連れて来たらいいだろう。あとは知り合いと言えば和子さんとその手下達だろうか。彼女達も連れてきてみたい。後で誘いに行こうと思うヤヒコであった。
「難しいですねえ、興味が全部バラバラだし、ひと先ずは無難な観光旅行にしておいた方が良いかも……」
クレインはうんうん唸りだしてしまう。
「えーっと、いくつかテーマごとに案内するコースを決めて、事前にどのコースをまわりたいか聞いておくってどうでしょう? 島内見物メインのコースとか、図書館とか研究施設見学メインのコースとか」
「なるほど、いい案ですね。あとはどういう風に日程を組みましょうかね」
「狩人達は戦うのが大好きでござるから、ゴースト狩りに連れていったらどうでござろうか?」
「ふむ、また近々狩ろうと思ってましたし、丁度良いかもしれませんね」
こうして、彼等は頭を突き合わせてツアー予定を組み始めたのであった。
「で、俺様も参加していいってことか?」
「はい。どんなところに行きたいとか、どんなものが見たいとか、希望ありますか?」
海底神殿にて、ヤヒコはツアーの仮日程表を片手に槐を誘いに来ていた。
槐は一時寝込んでいたが、もう大分体調も良くなったようで、この様子なら観光にも行けそうだった。吸血鬼の襲撃も、島にはさすがに仕掛けて来れないだろう。
「そうだな……お前が着ているその色々エンチャントされてるローブ、その島で買ったんだろう? 俺様はそういう工房に興味がある。あとはこの図書館だの研究施設だのを見てまわるコースだな」
「わかりました、伝えておきますね」
槐と別れ、ヤヒコは海底神殿を出る。向かうは手鞠鳥の島だ。
手鞠鳥の住む3つの島のひとつ、和子の住む島に着くと、和子は丁度家の外にハンモックを出してのんびり日向ぼっこをしていた。すぐ傍では熊のゴローさんやマックス君も丸くなって寝ている。
「和子さん、お久しぶりです」
「あ、ヤヒコさん、こんにちはー」
和子は相変わらず上から下まで漆黒の悪の魔術師ルックである。柔和な顔つきに全く似合っていないことこの上ない。
「突然ですけど和子さん、アンデッドの住む島って興味あります?」
「え? 何ですかそれ?」
ヤヒコは仮日程表を見せながら、ジェイレット島のことを話していく。
ダメ出しは意外なところから来た。
『そんなのだめにきまってますよ!』
マックス君だった。
『そんなおばけがいっぱいのこわいところ、いくわけないじゃないですか! ねえ、ぬしさま』
「面白そう! この島周遊観光船とか乗ってみたいです。あと、魔術具工房に興味ありますね!」
『えええ!』
半分涙目のマックス君を置いてきぼりにして、彼の飼い主は是非とも参加したいとのことであった。
『そ、そんな、そんなこわいところに……なんでわざわざいくんですか、ぬしさまー!』
マックス君の抗議の声をBGMにして、ヤヒコは《始まりの町》へ戻ることにした。肝心のエリン達に話をしないといけないのだ。
「というわけで、10人くらいでよろしくお願いします」
エリンに仮日程表を見せるヤヒコ。
「……何なの? この『二泊三日、恐怖の島体験ツアー』って……」
「俺がつけたんじゃないんで。向うのひとが立てた企画なんで」
「一体何考えてるのよ……」
難しい顔をしながらも、エリンは仮日程表に目を通す。
「で、これを見て、どこか重点的に行きたいところとかありますか? 買い物し倒したいとか、観光一本でとか」
「私は普通にいろいろ見てまわれたらいいと思うけど……。もっとアンデッドに興味がありそうだった『極星騎士団』とか『明けの明星』とかが外せない用事があるとかで不参加になっちゃったのよね。そこら辺のひと達なら、研究施設とか見てまわりたがったでしょうけど。ゴースト狩りは『黒狼旅団』が興味持ちそうね……。これはちょっとどこをまわるか、会議で決をとらないといけないわ。結論は明日でいいかしら?」
「いいですよ、まだ時間はありますんで」
エリンは早速チャットによる会議に入ると言って部屋の奥に引っ込んでしまった。大所帯には仕方のないことだ。
これで希望案をクレインのところに持って帰ったら、実際の日程を組むことになるだろう。




