二泊三日、恐怖の島体験ツアー① 企画
大鯉討伐に駆り出され手から数日後。
ヤヒコが白猫料理店本店を訪れると、エリンに真剣な顔をして手招きされ、あれよと言う間に彼女の私室に引っ張り込まれてしまった。
「一体どうしたんですか? 何か問題でも起こったんですか?」
エリンに個室に招かれるときはいつも何かしらの事件に巻き込まれているような気がして、気の浮かないヤヒコ。そんなヤヒコに、エリンは真剣な顔でこう言った。
「ヤヒコ君、私をジェイレット島に連れて行ってほしいの」
「え。いきなりどうしたんですか」
困惑するヤヒコを前に、彼女は既に厄介事とセットの存在になってしまったホワイトボードをひっぱり出した。それにはすでに細かい字で色々と書き込んであった。
「昨日、主要ギルド間会議があったんだけど、そこでうちと『黒狼旅団』と『漁協』の連名で、あなたから聞いたジェイレット島の情報を出したの。もちろん、ヤヒコ君の名前は伏せておいて、海上移動方法を持った匿名のプレイヤーと言うことにしておいたわ。そしたら、たった一人の情報では確度がないとかなんとか言われちゃってね、3ギルド合同で調査してきてくれって言われたのよ……」
しょっぱい顔でエリンは続ける。
「もちろん報酬は出すわ。『白猫料理店』と『黒狼旅団』、そして『漁協』の3ギルド合同の調査隊を、ジェイレット島まで連れて行ってほしいのよ」
「でも、むこうとしては単に脅かして大丈夫な観光客が欲しいってだけですよ。大体調査って、一体何を調査する気なんですか?」
「ヤヒコ君が言ったように、本当に安全な場所かどうか、よ。今もいわゆる『魔族領域』の魔族達とはにらみ合いが続いているわけだし、事情をある程度以上知っているプレイヤー達は魔族との接触に敏感になっているの。そこに来て、観光客を受け入れます、なんて場所が出てきたら、罠なんじゃないかって勘ぐる人も多いのよ」
「罠だなんて……」
あの人の良いアンデッド達の住むのんびりした島が罠や策謀などと関連があるとは、ヤヒコにはとても思えなかった。
「うーん、案内してもいいですけど、あちらで変な騒ぎ起こされると俺が困るんですけど」
「そこらへんは考慮して調査隊のメンバーは組ませてもらうわ」
「とりあえず、何人くらいになるんですか? あんまり多いとむこうもびっくりするんじゃないかと思います」
「……何人くらいまでオーケーなのかしら?」
「それは……」
「まあ、本人に聞くのが一番だよな……」
ヤヒコは鯛子の背に乗り、一路ジェイレット島を目指していた。
天気は良いが波は少し高い。そんな海路をすいすいと泳ぐ鯛子。《始まりの町》近郊の浜辺から島までの距離は、海底神殿までの距離の1.5倍ほどであり、結構遠い。
「何て言おう……普通に観光客が来たいって言ってます、でいいかな……」
「それでいいのではござらんか? 実際観光しに来るのでござるし」
やがて深い霧に包まれた島が見えてきて、ヤヒコは指輪を装備していることを確認し、霧の壁の中に突入する。すると、レイスが飛んで来る。今日は男性のレイスだ。
「いらっしゃいませ、お客様」
「こんにちは、案内よろしくお願いします」
ヤヒコが挨拶に答えると、彼は青白い光のカンテラでヤヒコ達を先導しはじめる。その後を追っていくと、じきに港に着いた。港の中は霧が立ち込め、見通しが悪い。荷運びをしている人々とぶつからないように、気をつけて歩かねばならなかった。
港から町に入ると、領主の館まで歩く。この前は馬車だったのでそこまで距離を感じなかったが、徒歩だと結構な距離があることに気づく。ヤヒコ達がてくてく歩いていると、早速見知った顔に出会った。
「よおヤヒコ! 元気にしてたか?」
ゴースト狩りの時に一緒にいた、スケルトンのビリーであった。その後ろにはデュラハンのピエール、そしてリビングアーマーのグラウの姿もある。
「お久しぶりです、皆さん。お仕事ですか?」
「そうだよ。3人一組で順繰りに町中を警邏しているんだ」
「お疲れ様です」
「今日はどうしたんだ? 観光か?」
「いや、観光のことで、クレインさんにちょっと相談事があって来たんです」
「そうか、領主様なら今の時期は仕事も少ないし、暇してると思うから、館に行けば会えると思うぜ」
「ありがとうございます。行ってみます」
3人とはそこで別れ、再びクレインの館へと歩き出す。やはりこの町のNPCは基本的にいい人だと思う。
背後から「やっべー、あいつ脅かすの忘れてたわ!」などと聞こえるのもご愛嬌というものだろう。
さらに15分ほど歩いてクレインの館に着くと、門番にクレインに会いに来た旨を伝える。この前招かれたこともあってだろうか、門番からも歓迎され、ヤヒコ達はすぐに中へと通された。そのまま20階まで行っていいというので、転移魔法陣を使用して20階まで行き、クレインの書斎のドアをノックする。
「ヤヒコ君、いらっしゃい」
クレインはすぐにドアを開けて中に招き入れてくれた。
彼の書斎は相変わらずの散らかりようで、ヤヒコ達は再び苦労して書類の道を抜け、クレインの机に辿りつく。
「あれからどうです、元気にしてました?」
「はい、ちょっと大きな狩りに参加させられたりしましたけど、まあ元気でやってます」
レイスのメイドさんが人数分のお茶を持ってきてくれて、それを飲みながらの話となった。
ヤヒコは早速用件を話しだす。
「今日ここに来たのは、この前言ってた観光客のことです」
「ほほう」
「町に戻ってからこの島のことを話したんですけど、そんな島が本当にあるのかって感じで、あるなら連れて行ってみろって言われちゃったんですよ。で、何人くらいならこの島につれてきていいのかな、とお聞きしに来たんです」
「なるほど……そういえばこの島は、人間族からは縁遠い地域にありますもんねえ」
うんうん、と頷くクレイン。
「確かに、にわかには信じがたいことなのかもしれませんねえ、アンデッドが生きた人間の客を呼んでるなんて。そうすると……ふむ、これはあれですね」
立ち上がるクレイン。腕をひと振りすると、散らかった荷物の山の中から何か大きな黒っぽい板が飛び出してきて、空中に制止する。
「……まさか、黒板……?」
嫌な予感のするヤヒコ。この流れはどこかで見たことのある流れだ。
そんなヤヒコの前でどこからか取り出したチョークで、クレインは黒板に大きな字で、それを書いた。
「これしかありませんね!」
『二泊三日、恐怖の島体験ツアー』、と。




