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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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閑話 とある新聞記者の話

 ログインして最初に私がすることは、全ての情報サイトと掲示板、それにWikiの更新のチェックだ。情報は水物。速さと鮮度が命なのだ。

 そうしていると、ひとつの情報に目が留まる。


『『黒狼旅団』、『イリーンベルグ漁業協同組合』と協同でリューモーンの滝壺のフィールドボス初撃破に挑戦か』


 確定情報ではないが、スィールー河という大河のフィールドにあるリューモーンの滝周辺を2ギルドの構成員達が連れだって歩いているのを見かけたものが複数いる、と掲示板で噂になっている。これが本当なら、是非とも取材する価値がある。

 滝壺のフィールドボスとは、体長7、8メートルの大きな鯉のモンスターで、良く晴れた日の14時から15時の間に滝壺のど真ん中へ釣り竿をキャストするとポップする。実装されたのはあの『リビングアーマー大量発生事件』と同時期らしい。恐らくは子供の日に因んだイベントの双璧であったのだろうけど、私達プレイヤーは町に大量に攻め込んでくるリビングアーマー達への対処にいっぱいいっぱいで、とてもフィールドを暢気にうろつく余裕なんてなかったのだ。

 リビングアーマー達がいなくなった後、滝壺付近で釣りをした釣り人達の中で条件を満たしてしまった者が出て、その近辺にいたプレイヤー達は一斉に薙ぎ払われたらしい。その後もその大鯉を狩ろうとする者はいたけれど、あまりにも強く、また決まった時間帯に滝壺に近づかなければ害はないため、今まで誰も撃破したことがないんだそうだ。

 きっとあの戦闘狂の『黒狼旅団』団長が話を聞きつけて、ボスの誘い出しのために『漁協』に協力を仰いだに違いない。

 でも、大丈夫だろうか?

 団長の黒狼氏の加護は戦闘力重視の火の神のもの。水属性のモンスターとは相当相性が悪いのではないだろうか。団員達も火属性の加護を持つ者が多いと聞く。加護は皆が欲しがるものだが、同時に弱点属性ともなりうる諸刃の剣なのだ。

 かの大鯉は水属性の全体攻撃魔法や滝壺の水を溢れさせて周りを洪水にする技を持っているはずで、足場も相当悪くなるという話だ。たとえ『漁協』の協力があったとしても、大幅に戦力がダウンしているのではないだろうか。

 だが、もし実際に戦闘が行われるのであれば、記者を自任する私としては、これを取材しに行かなければならない。

 私は早速滝壺に向かうことにした。






 スィールー河は釣りスポットとして人気で、この日も多くの釣り人達で賑わっていた。だが、そのうちの誰もが滝壺を遠巻きにしていた。

 私は、以前ボスと戦闘したパーティーからWikiに提供された情報を元に、安全に戦闘を観察できるであろう場所を探す。

 現在天気は晴れてはいるが少し雲がある。雲が少しでもあるとボスは出てこないらしい。各町のNPCに天気予報のようなことをしてくれる者がいて、それによれば快晴は2日後だという。まあ、天気予報NPCの正答率は約8割で、そこまで信用できるものではないが、きっと攻略に来る面々も天気予報を元に戦闘準備をするだろうから問題ない。

 河沿いは森に包まれていて、その木々がまばらになってくると件の滝壺が見えてくる。

 滝壺の周囲は広い範囲で窪地になり、そこここにまばらに木が生えている程度だ。恐らくボス戦のためにこのような地形にしてあるのだろう。それに、倒木が多いのはボスが窪地を水没させ、その中を泳ぎ回るたびに木々に体当たりして圧し折っているからだという話だ。それもあってこんなに木が少なくなってしまったのだろう。

 私としては安全に取材をするため、こっそり隠れるための遮蔽物が多いほうが嬉しかったのだが、そうもいかないようだ。これはもう、2ギルドに直接取材を申し込んで後方に置いてもらった方が良いかもしれない。

 そんなことを考えつつ、ふと河を見た、その時だった。

 何か赤いモノと黒いモノが同時に目の前をさっと通り抜けた。

 とっさに目で追うと、それは勢いよく跳ね上がる。


 

 鯛。


 鯛だった。



 背中に何か人型のものがしがみついていて、全体が見られたわけではないが、あれはどう見ても大きな鯛だった。


 私は思わずSSを連写した。

 鯛は背中に誰かを乗せたまま、連続で跳ね飛び、滝を登って行く。

 そして、滝の上に消えて行った。

 

 鯛の滝登り。

 そんな馬鹿な。


 背中に誰かが張り付いていたせいで詳しいことが――誰かって誰だ!?


 これはもう、ボス攻略どころの話ではない。

 私はすぐに自分の拠点に戻り、今日の目玉記事として鯛の滝登りの記事を書き、SSを載せた。

 ゲーム内紙版とWeb版共に入稿完了し、仕事をやりきった安堵の溜息をついて、私は正気に戻った。

 こんなことをしている場合じゃなかった……。

 また明日、滝まで行かなくては。恐らく明後日行われるであろうボス攻略までに、取材準備を間に合わせなければ。

この話を衝動書きしてしまったのが、ボス戦編の始まりだったり。

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