吸血鬼にご注意① 夜道にご注意
ヤヒコ達がイリーンベルグから《始まりの町》に戻ってくると、町全体の雰囲気がおかしかった。道行く人々が妙に周囲を警戒しているとか、道端の其処此処でこそこそ話をしているとか。何となく落ち着きがないのだ。
「……何かあったのか? エリンさんとこ行って聞いてみるか……」
「それがいいでござるな! エリン殿は物知りでござるからなあ。それにあの店の料理は美味いものばかりでござる。拙者大変気に入ってるでござるよ!」
「確かになあ」
「それはそうと、これはきっとこの町ですごい事件が起きたに違いないでござるよ! 殺人鬼が出たとか怪盗が出たとか、そんなところでござるな!」
「なんでそんなにわくわくしてるんだよ……」
白猫料理店本店に行くと、丁度エリンが仕入れから戻ってきたところだった。
「あら、ヤヒコ君! 久しぶりじゃない、どこ行ってたの?」
「ちょっと海底神殿で海竜捕まえるの手伝わされてまして……その後はイリーンベルグに行ってました。この町にはついさっき戻って来たところです」
「ああ、急に船の被害が出なくなったのって、イリーン神殿関係の話なのね」
「はい。何でも、若い海竜達の間で船を引っくり返して人間をびっくりさせるのが流行ってたとかで、大人の海竜とか水龍とかと一緒に犯人捕まえに行ってたんですよ。で、迷惑をかけた罰として、しばらく閉じ込めて飯抜きしたうえで海運の手伝いをさせるんだとか言ってました」
「それは大変だったわね、お疲れ様。これで物流が安定すればいいんだけれど。……そうだ、イリーンベルグでは何かなかったの?」
「いや……? 図書館に行ったり、『黒狼旅団』のギルマスと会ったくらいで、特に変な話はなかったですね」
「ふーん……そっか……」
エリンは何やら考え込む様子である。
「町で何かあったんですか?」
「うん、ちょっとね……」
「やはり事件でござるか! 拙者達も何か手伝えることがあるならお手伝いするでござるよ!」
「ありがとう白銀君! 早速だけど、荷物運びお願いしていい?」
「もちろんでござる!」
白銀は荷物を運びに行ってしまう。彼には話を聞かれたくないようだ。
「……大事件ですか?」
「うん、大事件なのよ。夜道を歩いていると、フードを深くかぶった人物に話しかけられて、気がついたら朝になっているんですって。ヤヒコ君が丁度町からいなくなったあたりかな、そんな事件が起き始めたのは」
「気がついたら朝って、その間どうなってたんですか?」
「肝心の本人たちが覚えてないのよ。話しかけられて、ふっと急に気が遠くなって、朝になったらどこか道端で倒れてるのを発見されるの。しばらく倦怠感と疲労感があるだけで、他に体に異常はないみたいなんだけど、その後も急に体がふらつくってひともいてね……」
「なんか吸血鬼みたいですね。被害者の首筋、よく見たら歯形ついてたりして」
「…………」
「えっ、どうしたんですか? まさか本当に――」
冗談のつもりで言ってみたヤヒコの腕をつかみ、エリンは店内へ、奥の方へと連れ込んだ。
そこは初めて入る部屋で、広めの室内に置いてある丁度や装飾からどことなく可愛らしい印象を受ける。
そんな中、壁際に可愛げのないホワイトボードがあって、そこには各地の地図と思われるものが無数に貼ってあった。そのどれにも番号が振られた赤いシールと青いシールが無数についている。
「本当に吸血鬼なんですか!?」
「……私、色々な伝手をたどって、どこの町のどの場所で話しかけられた覚えがあるか、その後どこで見つかったかを調べたんだけどね、事件が起こってるところってね、どこも海から遠いのよ。港がある町でも、町の内陸部でしか起こってないみたい」
「え」
「ヤヒコ君が言うにはイリーンベルグではそんなことなかったんでしょ? あそこは私も行ったことあるけど、海女神の神殿がある関係で海の種族が良く町に来るでしょ、だから町中に水路が張り巡らせてある。……吸血鬼は流れる水を渡れないって言うじゃない、もしかしたら、本当に……」
「ちょっと待ってください、このゲームって吸血鬼いるんですか?」
「いるわ。今の攻略最前線のひとつ、『魔族領域』と呼ばれている、魔族が多く住んでいる地域に」
「プレイヤーは魔族と仲悪いんですか?」
「……ファーストコンタクトが悪かったんだと思うの。最初にその地域に行ったプレイヤーがモンスターと間違えて、ばったり会ったそこら辺の魔族住民に攻撃しちゃってね、正直なとこ、今戦争状態なのよ」
「……和平とかは? っていうか、謝らなかったんですか?」
「試みてるけど、対プレイヤー感情が最悪みたいでね、難しいんじゃないかしら」
「あの……もしかして、この前のリビングアーマー大発生って、いよいよプレイヤーの本拠地に攻め来てたんじゃないですか?」
「…………どうしよう、関係あるかもしれないわ……ちょっと他のギルドに連絡取らなきゃ!」
《始まりの町》に帰って来るなりいきなり大変なことになってしまったようだ。




