表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/94

洞窟に潜むもの③ まねかれざるもの

 白猫料理店にて食事をとりながら、ヤヒコ達は洞窟のことをエリンに報告していた。どさくさに紛れて白銀と並んだワームの残骸、そしてワームを咥えた地竜のSSも取ってきてあったので、それも見せた。


 洞窟の奥がワームによってさらに長く広く拡張されたこと。

 そのワームを狙って巨大な地竜が住みついていて、自分達はリンゴを置いて逃げてきたこと。

 鉄が採れるようになっていること。


 どれも重要な話である。

 鉄が採れるのはいい話だが、あの大きさのワームと地竜は、中堅プレイヤーがPTを組んで挑戦しても軽く皆殺しにされるような大物であるため、初心者にはとても薦められない場所になってしまったのだ。地竜が大人しい性格であるらしいのがまだ救いではあるが、余計なことをして怒らせるような不届き者がいれば、暴れ出し、すぐ近くにあるこの町にまで被害が及ばないとも限らない。

 当面は、落盤事故が起きて危険なので立ち入らないように、という情報を回すのが一番だ、とエリンは言う。

「中途半端に高いレベルのひとたちの中には、自分達なら倒せるに違いないって言って、強いボスに突っ込んで行って全滅するひとも少なくないの。一般には特別恐ろしい化け物がいるって話は伏せて、主要ギルドのギルドマスターには事実を話して、実際にどんな話に落ち着かせるか、今後地竜をどうするかを相談しないといけないわ。そっとしておくにしても、殺してしまうにしても……」

「情報操作ってやつですか?」

「そうよ。他の人には悪いけど、もしもの時の被害が大きすぎるわ。知らないで入ったひとが襲われてしまっても困るしね。そうでなくても、ワームや竜の素材って高値で取引されるから、無茶してでも狩ろうとするひとが多いの。小さいサイズの竜ならそれでも問題ないかもしれないけど、今回の竜はパーティー単位で狩るには大きすぎる。前に竜の棲家にプレイヤーが立ち入って怒らせてしまったことがあって、サイリュートに洞窟の地竜と同じくらいの大きさの炎竜が攻めてきたことがあるんだけど、その時は、竜を倒すまでに都市の3分の1が崩壊して、NPCの住民もたくさん亡くなったし……。このゲーム、NPCの人も町もプレイヤーの拠点も、何もかもお構いなしに破壊できてしまうのよ。だから、情報占有と言われようとも、この《始まりの町》の平和は最優先で守らなくてはならないの」

 エリンは難しい顔で溜息をつく。

「ワームも地竜も、洞窟から出てこないならそのままにしてもいいかもしれない。……そうね、わざと入口付近を落盤させて塞いでしまって、中から出て来にくいようにするのも手よね。狩る場合はその場で確実に狩れるように、逃げられて人里に被害が出ないように、十分な人員を集めて対策を立てないといけないし……」

「……難しい問題ですね」

 生産系特化の『白猫料理店』のみの手には余る大問題である。万全を期すためには、戦力や人員が豊富な複数の攻略系ギルドに助力を求めるしかないだろう。

「ヤヒコ君も解ってると思うけど、他のひとに言っちゃだめよ? あと、洞窟にあまり近づかないで。もしどうしてもって時でも、コウモリがいるところより深いところまで入らないようにして、ね?」

「……わかりました」

 今のヤヒコのレベルは26。地竜との遭遇から無傷で生還できたのは奇跡に等しい。恐らくは丁度他の獲物で食事をしている途中で、そこまで腹が減っていなかったから見逃されたのだろうと推測される。

 竜ではないが、龍には知り合いがいるヤヒコとしては、竜討伐は複雑な心境になってしまう。しかしだからと言って、ヤヒコには竜を大人しくできる力や伝手があるわけではないため、無責任なことは言えなかった。


 ちなみに、【地竜の鱗】のみならず竜や龍の鱗は、高レベルエンチャントの触媒になるほか、高位の金属――鋼鉄やミスリル、オリハルコンなど――と合金にすることで強力な武器防具の材料になるとのことだったので、売らずに取っておいた。鍛冶スキルが上がれば使うこともあるだろうしとっておけ、とNPC鍛冶ギルドの親方から忠告されたのである。





 

 鍛冶スキルの上昇に伴い、鉱石を消費するスピードも速くなった。最初は青銅、真鍮をはじめとする銅製品、ナイフだの剣だの槍の穂先だのメイスだのカップだのを大量に作っては溶かして材料に戻すのを繰り返し、やっと鉄に手がつけられるようになった。時間もかかるが手間もかかる。鍛冶場が熱すぎて火耐性のスキルレベルが上がりまくった。

 で、またもや鉱石が足りなくなったので、また洞窟に行かねばならなくなった。そろそろ他の本式の鉱山に行ってもいいのだが、場所の取りあいや所属ギルド同士のいがみ合いなどでギスギスして雰囲気がよろしくないらしい。無所属新参の身にはきついだろう。この前地竜に遭遇した地点まで行かなければ問題ないだろうと考え、思い切って洞窟に行くことにした。


 ヤヒコは《始まりの町》の食品関連の店が並ぶ通りに来ていた。白銀には白猫料理店の荷物搬入を手伝わせているし、福助は昼間が苦手なので店の軒下で留守番している。故に、今日は久しぶりにヤヒコと鯛子の2人だけだ。

 彼らがここに来たのは、コウモリ達に上納、否、プレゼントする果物を購入するためだ。幾度か来て顔なじみになった果物屋『マルトミ』――現実に良くある地元商店街にあるような八百屋や果物屋のような構造の店で、丸に富の看板の店だ。ちなみに店主はトミーという短い金髪に緑眼のプレイヤーの男性である――に向かう。今まではリンゴだったが、他の果物でも行けるのか試してみようと思い、何種類か購入するつもりだった。

 店の近くまで来ると、他の客が店の前にいるのが見える。茶褐色の革鎧を着こんだ、日焼けしたような肌に茶褐色の髪、黄色い瞳のがっしりと大柄なその男は、何やらずっと考え込んでいるような顔をしている。その前で、店主のトミーが困った顔をしていた。

「お客さん、買わないならちょっとそこをどいてくださいよ。他の客が店に入れなくなっちまってるしさあ」

「…………」

 返事がない。客の前で溜息をつくわけにもいかず、困りに困ったトミーは、店に向かって来るヤヒコに気づいた。

「あっ、ヤヒコさん、いらっしゃい! 今日もまたリンゴかい?」

「こんにちはトミーさん。今日はリンゴだけじゃなくて他のも買いたいんだけど……バナナとかブドウとか梨とかで良いのある?」

「おう、どれもあるよ! 幾つぐらい欲しい?」

「じゃあ、リンゴ5つ、他のを3つづつくらいで……へ?」

 背後から突然がしっと肩を掴まれた。例の革鎧の男だ。

「え……ちょっとちょっとお客さん、何してんの!」

「えーっと、どちら様ですか……?」

 慌てるトミーとヤヒコ。両人をものともせず、謎の男は、

「――少し失礼する」

 と言って、ヤヒコを店から連れ出した。

「ああ! ヤヒコさーん!」

「ちょっと待ってええええええ!」

 抵抗しようにも、男の力は強く、ヤヒコはあっという間に路地に連れ込まれてしまった。

町やNPC、そしてせっかく頑張って建てた自分の拠点まで破壊されてしまう仕様はプレイヤーたちには絶不評です。

サイリュート侵攻時の惨状にも、プレイヤーからの苦情が殺到しましたが、

運営は「それがリアルというものです」とか言ったとか言わないとかいう噂。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ