洞窟に潜むもの② ながいもの
「おおお、見事でござる! 槐殿は凄腕でござるな! 拙者にぴったりでござる!」
「…………」
卵の売り上げで、再びアイテムボックス(今度は白いバックパックだった)を槐に作ってもらったのだが、白銀のあまりのハイテンションぶりに槐が無言になってしまった。表情もこれまでに見たことのない無表情だ。
「えーっと……ありがとうございました、槐さん。今日のメニューはスパニッシュオムレツだそうです」
お礼に囮卵料理を差し出すと、槐は無言のまま受け取り、そのまま寝室に籠ってしまった。
「また何かあったらよろしくでござるよ槐殿!」
「ほら、もう店出るぞ……他人様の家なんだし、少しは静かにしろよなお前」
「ぬう、申し訳ござらん……」
採掘してきた鉱石から金属を取り出したり、囮卵を採りにいったりと、この数日は実に忙しかった。NPC鍛冶ギルドの施設使用料金はそこまで高くなかったので助かった。追加料金を支払うことで指導を受けられたのも良かったが、親方が恐ろしいひとで、鬼のようにしごかれた。そのかわり、鍛冶スキルはそこそこ上がっている。
しかしながら金属も鉱石も尽きてしまったので、今日はまた取りに行かないといけない。まだ鉄が扱えるレベルではないため、この前と同じ洞窟に採掘に行くことにした。
またリンゴをいくつか持ってきてやると、コウモリ達は素直に道を開けた。今日は前より奥に行く予定だ。奥に行くほど採掘できる鉱石の質が良いらしい。Wikiにもコウモリ以外のモンスターの報告がないので、特に問題ないだろう。
「これからは拙者も荷物が持てるでござるから、この前よりさらに多くの鉱石を持って帰ることができるでござるな!」
「まあ、そうだな。……それにしても、この洞窟、どこまで続いてるんだ?」
小さな山の中腹にあるにしては長く深い気がする。地下にまで続いているのだろうか?
前回掘った場所よりも先に進むにつれ、コウモリの数が減ってきた。
洞窟の幅も、段々と広くなってきている。
「おかしいな……この洞窟は狭くてコウモリで溢れてるって書いてあったんだけどな……」
「そうなのでござるか?」
「先に潜ったやつの情報ではな。それに、そんなに深くないって話だったのに」
「ふうむ……」
福助がいつの間にかヤヒコのローブのポケットに入っている。何かに怯えているようで、すっぽり頭まで収まってしまっている。……一体この先に何があるというのだろうか。
「何か変だな……一回戻るか?」
「……殿、何か聞こえてきてはござらんか?」
「え?」
耳を澄ますと、奥の方からゴリゴリという音がかすかに聞こえてくる。
「……ますます嫌な感じだな……って、これは・・・・・・」
よく見ると、足元に鉱石がばらばらと転がっている。
「何でござるか?」
「……鉄だ。ここじゃ取れないんじゃなかったのか?」
「うむ、これは誰かがこの洞窟の拡張工事をしているのでござるよ! 先のほうに行けばきっと良い鉱石があるでござる! いざ行かん!」
白銀ががしゃがしゃと先に進んで行ってしまう。
「おい待てって……! それに行くなら鉱石拾ってけよ!」
先のほうから、了解でござるー、なんて声が聞こえてくるが、ゴリゴリという音は未だ止まず、近づいている気さえする。
ヤヒコは仕方なく、足元の鉱石を拾いつつ、白銀を追いかけた。
鉱石は、やはり銅や錫が多いながらも鉄や銀、亜鉛、孔雀石、水晶類などが少量転がっていた。試しに壁を掘ってみるとそれらも掘れるようになっているらしい。これはこれでおいしい収穫なのだが、妙に綺麗に丸く削り取られた坑道を見ていると、どう考えても人間の仕事ではないように思える。ここに至っては高さは4、5m、幅は10m位まで広がってきているのに、坑道を支え崩落を防ぐための柱の類が全くないのだ。
「ややっ!」
ずっと先のほうで白銀が何か叫んだのが聞こえる。
「!? どうした!」
鉱石掘りを中断し、走り出すヤヒコ。だが、どんどん道が広がっていくわりに急な下り坂で足場も悪く、そんなに早く移動できない。
やっとの思いで白銀に追いつくとそこは、巨大な広間であった。洞窟の入り口がある山より大きいのではないだろうか。
そして、白銀の前には巨大なミミズ型モンスターであるワームの……残骸?
「これ……お前がやったのか??」
「いや、拙者が来たときには既にこのような状態でござったが……」
つまり、ワームの巨体を無残な形にできるような強者が、この付近にいるということになる。
「――帰るぞ」
「うむむ……それが良いでござるな……」
そんな声を聞きつけたのか、その広間の向こうにぽっかり空いている坑道の続き――その道自体も随分と大きい広間のような大きさと幅だが――から、大きな大きなナニモノかが姿を現した。
短いながらも太い手足。
とても長時間の飛行には適さないであろう、体の大きさの割には小さい翼。
ずんぐりむっくりした茶褐色の胴。
細長い橙色の瞳孔の黄色い目。
そしてその大きな口には――ワームを咥えていた。
「…………地竜だコレ」
「…………殿は博識でござるな……拙者初めて見たでござるよ」
その地竜は面倒くさそうな目をヤヒコ達に向けると、くるりと後ろを向き、まるでしっしっと追い払うように尻尾を振った。
……お食事中だったようである。
恐らく、この坑道を拡張したのはワームで、それを捕食しに来たのがこの竜なのだろう。
コウモリ達が洞窟の中途半端な深さのところにいたのは、この2者を恐れてのことだとみえる。
「……なんか……なんかスミマセン……」
「邪魔して悪かったでござる……」
ヤヒコはお詫びにリンゴの残りを地面に置き、そそくさと元来た道を戻る。白銀もそれに続いた。
地竜が完全に見えなくなったところで鉱石を拾う。さすがに無収穫はきつい。あちこちに体を擦ったのか、はたまたここら辺でも戦闘したのか、【ワームの牙】や【地竜の鱗】などという、恐らくレアなアイテムも多く拾うことができた。なんとか2人の鞄がいっぱいになったので、急いで帰った。
このことはエリンや槐に報告しておいた方が良いだろう。
ここはいつの間にやら、巨大な地竜の棲家になってしまっていたのだ。




