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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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洞窟に潜むもの① そらをとぶもの

 ヤヒコ達は件の洞窟の前にいた。

「真っ暗でやな感じだな……夜目ナイトサイトの魔術を覚えておいて良かったぜ」

 ヤヒコは魔術を使用コマンドで覚えないため、いちいち魔術の習得に時間がかかる。これから先、どんな状況に陥るかわからないので、魔術は先々のことまで考えて、予め習得しなければならないのだ。灯火ライトと夜目とどちらを先に覚えるかも迷ったが、暗闇で下手に明かりをつけていると敵の標的になり易いかも、という判断で夜目の魔術を先にした。

 鶴嘴は一番安い50ゴルのものをまずは10本用意した。結構壊れやすいとWikiに書いてあったが、どのくらいの頻度で壊れるかがわからないのと、あとは白銀にも掘らせようという魂胆でこの数である。

「《ナイトサイト》! ……んじゃ、行くか。白銀、お前にも術掛けたほうが良いか?」

「いや、拙者一応魔族の端くれでござるので、夜目スキルはすでに習得済みでござる」

「夜目はスキルにも存在するのか。MP消費しなさそうだし便利だな、それ。今度練習してみるか……暗いところに籠ればいいのか……?」

 そんなことを話しつつ、一行は洞窟の中へと入っていった。


 夜目の魔術のお蔭で、周囲が薄暗い程度の視界を確保できていた。

 天井は低く、白銀がぎりぎり頭を下げずに済む程度であるが、時折背後から、

「ぬおっ」

 とか、

「いたたっ」

 などという声が聞こえてくるので、恐らく頭をぶつけそうになったりぶつけたりしているのだろう。

「なんか、奥に行くとコウモリが出てくるから、そのあたりで適当に掘ってれば出るらしいな」

「ふむ、拙者採掘のことはさっぱりでござるから、適当でいいのは助かるでござるな」

 ちなみに、契約した吸血コウモリ――名前は福助にした――はというと、一行の先頭を、まるで先導するように飛び、時々天井にとまってヤヒコ達が追い付くのを待っている。洞窟の外ではポケットに収まっていたので、暗いところのほうが好きなようだ。

 鯛子はずっと腰の壺の中である。時折跳ねる水音が聞こえるが、彼女は暗くても平気なのだろうか?


 足元に気を付けながら進むこと十数分。福助がヤヒコのところに戻ってきて、背中のアイテムボックスをかりかり引っ掻きはじめた。

「おいこら、せっかく作ってもらったんだから、やめろよな!」

 町で福助のおやつにいくつかリンゴを買ってきてあるので、それが目当てだろう。

 ヤヒコは鞄からリンゴを取り出すといくつかに切り分けてやる。

「あっ」

 福助はリンゴを一切れ攫うと、そのまま奥の方へ飛んで行ってしまう。

「えええ、ちょっと待てって!」

 仕方なく後を追いかけると――

「福助ー! ……っていっぱいいる……」

 天井にびっしりとコウモリが張り付いていて、どれがどれやらわからない。

 かろうじて、リンゴを持っているのが福助だろう。よく見ると、彼の体は首の白い毛以外は真っ黒で目は赤いが、他のコウモリ達は少し灰色がかった茶色の体色で目は黒い。福助は丁度他のコウモリにリンゴを手渡しているところだった。

「……付け届けってやつか」

 恐らくヤヒコのためにしてくれたのだとは思うが、コウモリの世界も世知辛いものである。いや、ゲーム内のみのことだろうが。

 仕方ないので地面に小さく切り分けたリンゴをいくつも置いてやると、コウモリ達が群がった。この洞窟のコウモリは果実食らしい。これで安全に採掘できるなら安いものである。

 鯛子も欲しがったので、何切れか壺に入れてやる。

「多分ここら辺で掘ればいいんだろうな」

「拙者も頑張るでござる!」

 しばらくするとコウモリ達はめいめいにリンゴを抱えて天井に退避していったので、ヤヒコと白銀は鶴嘴で地面を掘りはじめた。


 暗い洞窟の中、カーン、カーン、と鶴嘴の音だけが響く。

 いくつかそれらしい鉱石を掘り出している。《鑑定》スキルを習得しておいて良かった。ここで掘れるのは銅と錫のようだ。青銅器でも作れというのだろうか。

「本当は鉄のが良いけどな……スキル不足で扱えないんだろうな、きっと」

「千里の道も一歩から。殿もこれから頑張れば問題ないでござるよ!」

 その通りと言えばそうなのだが、白銀に言われると妙に腹立たしい。

 ヤヒコの鞄がいっぱいになったところで採掘を中止する。

 結局鶴嘴は10本中7本が折れてしまっていた。【折れた鶴嘴】というアイテムとして残っているので、木工や鍛冶のスキルがあれば修理もできるのだろう。一応取っておくことにした。

「おーし、帰るぞ。福助も戻ってこーい!」

 天井でリンゴを食べたり他のコウモリ達と戯れていた福助に声を掛けると、飛んで来てヤヒコの肩に掴まる。ついでに咬みついて血を吸うのは勘弁してほしい。


 元来た道を戻るが、特に誰とも会わなかった。鉱山と言えば、もっと高レベル向け地域に良いものがいくつかあるのをWikiで確認済みなので、ここに来るのは本当に素人かレベル上げする者だけなのだろう。

「なんか今日は疲れたな……全身が痛い……」

「大丈夫でござるか殿! 良ければ拙者に負ぶさるでござるよ!」

「いや、それは恥ずかしいからやめろ」

 そういえば、白銀は自分の剣だけであとは何も持っていない。これだけ筋力も体力もあるのに手ぶらなのはもったいないので、今度また槐にアイテムボックスを作ってもらった方が良いだろうと思うが、そのための金策を考えると頭が痛い。

 卵があの高値で売れるのは、精々漁協の漁獲高が平常に戻るまでだろうし、これからしばらくはまたマックス君に泣いてもらおう、と思うヤヒコであった。


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