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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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昼寝と誤解

 悪夢のようなイベントが終了してから数日後。


 ヤヒコは《始まりの町》の近くの小さな森でレベル上げをしていた。

 この森の浅い部分には弱いモンスター、奥の部分には初心者には辛い程度に強いモンスターがいるので、森に入ってちょっとしたところで芋虫型モンスターを火魔術で丸焼きにしているのだ。

 このゲームはスキルを使用すればするほどスキルレベルが上がるので、火属性の攻撃に弱い虫系モンスターを標的にすることで、火魔術のスキル上げを兼ねているのだった。

 この芋虫たちからは、その強さにしては質の良い糸が取れるため、召喚士の中では複数の芋虫と契約し、養蚕の真似事をして生産職に売り込んでいる者もいると聞く。

 火魔術で焼き殺しても糸が取れるところがゲーム的だな、とヤヒコは思うが、そこまでリアルにされたら何の実入りもなくなってしまうので、細かいことはスルーしておいた。実は虫は火に弱いくせに、この糸は耐火性だから問題なくドロップしたという事実を彼は知らなかったのだが、それは実際に糸を使用する職人でもない彼にはあまり関係のないことであった。


「……またか」

 この森に入ってから、妙な視線をことあるごとに感じるのだ。

 最初のうちはモンスターか、すわPKか、と警戒していたヤヒコだが、何日も続くし、悪意の類を感じない視線なので気にしないことにした。念のために鯛子にはできる範囲での警戒を頼んである。白銀には森の周りでマラソンをするように言いつけてある。傍にいると騒がしいせいで獲物に気づかれ、不意打ちできなくなるからだ。

 そのまま芋虫狩りを続けること2時間。さすがに疲れてきたので休憩することにした。

 森の浅い部分で木にもたれて座る。今日のゲーム内天気は良い日和である。地域によっても違うらしいが、本日の《始まりの町》近辺は、暖かく、適度に風も吹いて、実に良い天気であった。






 何か、ちくっと刺されたような気がして、ヤヒコは首筋に手をやった。

 そのままナニカを握って放り投げる。

 きー!という声が聞こえたような気がしたが――






 ――いつの間にか寝入っていたらしい。

 何とも不用心なことだった。森の入り口付近のモンスターはノンアクティブだが、どこかの間抜けが森の奥から強いモンスターに追いかけられて逃げてくることもあるかもしれないのだ。

「しまったな……。暗くなってきてるし、もう町に戻るか。つーか、白銀のやつはまだ走ってんのか……?」

 立ち上がったヤヒコの膝から何かが転がり落ちた。

「ききっ」

 転がり落ちたそいつは、ばさばさっと羽ばたき、ヤヒコの服の裾に飛びつき、ぶら下がった。

「…………へ?」

 黒くて手のひらサイズのそいつは、コウモリだった。






「この子は、あの森の深いところにいるブラッドサッカーっていうモンスターだよ。要するに吸血コウモリだね」

 白猫料理店で兎ステーキを3つ頼んで食べていると、ヤヒコの服にぶら下がって手を離さないコウモリを見たサーシャが教えてくれた。何故3つ頼んだのかというと、1つは自分の分、1つは鯛子に食べさせる分で、もう1つは白銀も飲食が可能であると主張したからである。その空っぽの胴体のどこに行くのかわからないが、彼は兜のバイザーを跳ね上げ、そこから肉を体に放り込んでいる。ヤヒコは胴の前側を外させて肉片を投じて見たのだが、胴体の中を落ちる途中、胴の中ほどで肉片がするりと消えてしまったのだ。これで味も判るし栄養も取れるというのだから、魔法生物とは驚異の生き物だ。

「適度に痛めつけてから、自分の血を吸わせてやれば契約できるって、前に他の召喚士さんが言ってたなー」

「全っ然そんな記憶がないんだけどな……そういえばなんかどこかでちくっと痛かったような……昼寝してた間に血でも吸われたのか? それで契約と勘違いされたのか??」

 ひたすら困惑するヤヒコの服にぶら下がっていたコウモリは、腕に移動すると咬みついた。

「いってーな! 何すんだコイツ!」

 思わずフォークを取り落しそうになるヤヒコを他所に、コウモリはチューチュー吸血している。

「あはは、定期的に吸血させないとダメらしいよ? 他には果物も食べるそうだけどね。その召喚士さんは他の吸血モンスターとも契約したせいでいつも貧血気味だって言ってたし。……その子も、他の仲間が食事してるから、食べたくなっちゃったんじゃないかな?」

「……俺、もっと計画的に契約相手決めるつもりだったのにな……」

 これでヤヒコの契約した召喚獣は3体目である。

「いいじゃない、コウモリは夜目も利くし、暗所での戦闘には欠かせないらしいよ?」

「うーん……まあ、飛行系が入るのは悪くないんだけどな」

 しばらくして満腹になったらしいコウモリは、ヤヒコのローブのポケットに滑り込む。

「ややっ、そこは拙者の特等席でござるよ! 別のところにして欲しいでござる!」

「勝手に決めるんじゃねーよ! もう片方ポケットあるから、そこでいいだろ?」

「むむむむむ……」

 次はどんなモンスターと契約するのが良いのだろう。

 ここまで場当たり的に契約してきてしまっているヤヒコは、今度こそ将来計画を立てようと決心するのだった。


悪意はありませんでした、食欲だけです。


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