黒霧の騎士⑤ イベント終了のお知らせ
「ふーん、召喚士がねえ」
白いローブを着た亜麻色の髪に金色の瞳の青年は呟いた。
目の前の若草色の髪と瞳の少年から、今回のイベントモンスターが召喚士と契約可能であるという報告があったのだ。
『白猫料理店』のギルドマスターからの情報であるというから、確度は高いだろう。
「ええ、なんでも2名契約に成功しているとか。うちの召喚士にも試させてはどうでしょう?」
「うん、いいね。そうしよう」
青年は立ち上がる。
段々と数が減ってきたとはいえ、まだ敵は沸いてきている。彼は休憩を切り上げ、ギルド内の召喚士に招集をかけ、契約を試みさせることにした。
「……カガセさん、何か悩み事でも? 最近作戦会議の途中でも上の空ですよ」
「うん、ちょっとね。リアルの友達がこのゲームを始めたっていうんだけど、連絡しても返事が来なくてさ。どうしてるのかなー、と」
「どこにいるかわかってるんですか?」
「それがね、召喚士で始めたってこと以外、名前も姿も何にもわからないんだなあ、これが」
困ったね、と攻略ギルド『明けの明星』のギルドマスターであるカガセは呟く。まるで困っていないような顔で。
「召喚士ですか。魔法職ならうちで面倒見てあげられますね。初期召喚獣は何だったんでしょう?」
「うーん……なんかね、鯛だって」
「え! 鯛ってまさか……」
「うん、もしかしたらと思ったんだけど、最初にリアルで愚痴りに来たっきり、本人に全く会えなくてね……」
「召喚士は団長室に集合してくださーい! 団長直々にお話がありますよー!」
オレンジ色の髪をポニーテールにした山吹色の瞳の少女が精いっぱいの声を張り上げ、団員たちに招集をかけている。
「おいおいカリンちゃん、フツーにギルドチャット使えばいいんじゃねーかい?」
灰色の髪に灰色の瞳の無精髭の中年男が呆れた顔で少女に声を掛ける。
「良いんです、チャットと肉声と併用してますから。それに、こういうふうにした方が気合が入るってもんです!」
「そーかいそーかい、ご苦労なこった」
「やじろべえさんも、召喚士なんですから急いでくださいね! ほら、早く!」
「へーいへい」
男を見送った後、少女はしまった、という顔をしてもう一度叫ぶ。
「交戦中、巡回中以外の各隊の隊長、副隊長さんも一緒に、団長室までお願いしまーす!」
「……これで6体目か」
「拙者達すっごい頑張ってるでござるな!」
ヤヒコ達は沿岸部の村々を回り、化け物を倒していった。彼のレベルはすでに23まで上がっている。
化け物の動きが鈍くとろいためか、初めの村ほどの被害を受けているところは他には無かったのは幸いだった。1か所などは村人全員が逃げ出した後の空っぽの村を化け物が破壊しているところだった。化け物共は全体的に、どうにもお頭がよろしくないようだ。契約の前後のこの落差は一体どういうことなのか、運営を問い詰めてみたい気もする。
白銀の他には契約できた相手はいなかったので、一発目で契約成功したのは相当運の良いことだったのだろう。
「ちょっと疲れたな、休憩するか……」
「では拙者は素振りでもしているでござるよ!」
「休めっつってんだろーが!」
どうにもこの鎧、脳筋すぎて困る。悪気はないのだろう。どちらかというと良いヤツなのだろうが、騒がしく、気が休まらない。どうしたものだろう、とヤヒコは思案するが、良い案は何も浮かんでこなかった。
結局ヤヒコは木陰で休み、白銀は木陰で腹筋をはじめ、鯛子はゆったりと深みを泳いで休むこととなった。……約一名休んでいるのかよくわからない者もいたが。
どんよりと曇った空を見上げ、休憩を取ること十数分、突然ピンポンパンポーン、と館内放送のチャイムのような音が鳴り渡った。
「! なんだなんだ!?」
ヤヒコは立ち上がり、当たりを見回すが何もない。
「? 殿、どうなさったのでござるか?」
どうやら白銀には聞こえていないらしい。
と、ヤヒコの前に仮想ウィンドウが自動で開かれ、そこには運営からのアナウンスがあった。
※運営からのお知らせ※
『ソード&マジック・ファンタジアストーリー』をプレイしていただき、ありがとうございます。
この度、ゴールデンウィーク並びにこどもの日に因み、期間限定クエストを開催いたしておりました。
突然現れた魔物により蹂躙され滅亡の危機にあったこの世界は、プレイヤーの皆様の尽力により守られ、魔物達は見事退けられ、世界に平穏が戻りました!
つきましては、皆様に記念品として五月人形(ハウジング調度品)と柏餅×3(食料アイテム)を配布させていただきます!
それに加えまして、皆様の中でも特に功績の大きいギルド上位5位、また個人上位10名様には、特別賞品を配布させていただきます!
それでは、皆様お疲れ様でした。
次回のイベントをお楽しみに!
これからも『ソード&マジック・ファンタジアストーリー』を宜しくお願いいたします。
「え? これだけ?」
呆然としたヤヒコが呟く。
皆がこれだけ苦労して、たったこれだけの景品。
運営は一体何を考えてこの何の脈絡もないイベントを実装したというのか。
「つーか、ストーリーもへったくれもねーな……」
その場にへたり込んだヤヒコには、ただただ脱力感しかなかった。怒る気力も、怒鳴り散らす元気もない。
「もうやだつかれた……」
ヤヒコはそのまま突っ伏した。
「殿? ……殿! しっかりするでござるーー!」
白銀は慌てて周りを走り回った。
ぱしゃん。
鯛子はひとつ跳ねた。
後でエリンに聞いたところによると、世界各地で猛威を振るっていたイベントモンスター達は、チャイムの音と共に一斉に消え去ったらしい。
その日、ヤヒコと同じように無気力状態に陥ったプレイヤー達で、各地は死屍累々の有様であったという。
のちにこのイベントは『リビングアーマー大量発生事件』、または『アーマーラッシュ事件』などと呼ばれ、ソーマジ史上五指に数えられる黒歴史イベントとして語り継がれることになったとか。
ゴールデンウィークだからって季節イベントネタをやろうと思った結果がこれだよ!
主人公の周辺以外のところで事件の対応をしている人々がちらほら出てきましたね。
一応彼らは今後出てくる予定ではいるんですが、予定は未定といいますのでいつになるかはちょっと……結構先になるんじゃないかと思います。




