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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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アイテムボックス・リベンジ④ やっと完成!特注品

「ていっ」

 ぼこっ

「やっ」

 ばきっ


 ヤヒコは《始まりの町》をでて少ししたところで、杖でモンスターを殴っていた。言うまでもなくレベル上げである。

 これまで困難が目白押しでそんな暇もなかったが、アイテムボックスが完成するまでのこの3日間はフリーだったので、レベル上げに精を出すことにしたのだ。

  《始まりの町》周辺のモンスターは初心者への配慮であろうか、ノンアクティブ、すなわちこちらの存在を認識しても襲いかかってこず、こちらが攻撃して初めて反撃してくる大人しいモンスターばかりなので、今のヤヒコにはうってつけの修業の場であった。

 いつの間にかレベル4まで上がっていたのが、今ではレベル14。もう少ししたらもっと良い武器防具を装備できるようになる。装備品には装備できるレベルの制限というものがあって、弱いキャラが装備の力のみで無双できないようになっているのだ。ヤヒコが最初にローブと杖を購入するときに一番弱いものを選択した理由はそこにあった。


 今ヤヒコが集中してねらっているのはトビウサギという名の兎型モンスターである。こいつを倒すと戦利品としてウサギの肉と皮が手に入るため、料理人や皮革工を目指す初心者が集中して狩る傾向にある。他にもウィンドスパローというまんま雀の鳥型モンスターからは鳥肉の他に羽根が剥げ、それは最下級の矢の材料になる。料理も矢も消耗品であるため、いつでも一定の需要があるアイテムであった。


 魔法職なのに何故肉弾戦を挑んでいるのか?

 答えは簡単である。戦闘に使える魔法を覚えるのがめんどくさかったのだ。

 ヤヒコとしては、この3日はレベル上げと素材集めをして、肉を焼いて料理スキルを上げ、皮をなめして皮革工スキルを上げ、羽根を矢弾職人に売りとばして、そのお金で魔術書をまとめ買いし、集中して覚えてしまおうという魂胆だった。

 そうは言っても、最下級の肉料理となめし皮などはとてもプレイヤー相手に売れるものではなく、かといってとっておけるほどアイテムボックスに空きがあるわけでもなく、それらは結局自家消費分以外はNPC店舗でまとめ売りされたのだった。






「槐さーん、3日経ちましたけど、アイテムボックスのほうはどうなりましたかー?」

 防犯意識が皆無な扉を開け店に入ると、槐が今度は作業台に突っ伏していた。また、というかいつものように寝ているようだ。

 作業台の上には黒革の鞄が置いてあった。見たところ、ショルダーとバックパックとキャリーの3WAY旅行鞄のようだ。このファンタジー世界でこんな現実の旅行品店に置いてあるようなものにお目にかかるとは思わなかった。カート部分とかどうやって作ったのだろう。プラスチックのような樹脂系はさすがにないだろうから金属であろう。

「あのー……槐さーん、大丈夫ですか? 起きてくださいよー」

 揺さぶっても起きる気配がない。

 仕方なく彼が起きるまで龍語の習得に励むことにした。そしてヤヒコが単語を鬼のような勢いで書き連ねていたその時であった。

 いきなりゆっくりと扉が音もなく開き始めた、と思ったら急に勢いよく閉まり、外から雷が落ちるような音が響いてきた。そしてそれきり何の音もしなくなる。

「!?」

 一体何が起きたというのか。唖然とするヤヒコを他所に、槐がむくりと起き上がる。

「……泥棒か。最近多くて敵わんな、引っ越すか」

「な、なんですか今の!?」

「犯罪者除けに決まっている。そういう連中が来たら発動するトラップを仕掛けてある」

 ヤヒコは肝が冷えた。いったいどういう基準で発動させているのかわからないが、自分が喰らったらまず間違いなくお陀仏であろう。

「えっと、鍵を閉めたりはしないんですか?」

「いちいち面倒くさい。ピッキングするやつもいるしな。それよりは常時発動トラップのほうがいい」

 鍵のひとつふたつくらい何ほどの苦労でもないだろうに、それを省略するためのトラップの数々のほうが手間がかかっているような気がするが、工房には色々と高価な素材も置いているようだし、必要な設備だということかもしれない。


「とりあえずお前のアイテムボックスのほうは作り終わった。収納可能数は50。しばらくはこれで何とかなるだろ。これを持ってけ」

「ありがとうございます! でも、なんでリアルな旅行鞄なんですか?」

「……イメージが海底旅行だった。最初はオールドなトランク型にしてやろうかとも思ったが、それだと手提げになるし、背負い紐をつけるのにはイメージが合わないからな」

 これを神殿まで持っていき、加護を受ければ完了である。

「ところで、今日は卵は……」

「今日のメニューはだし巻き卵だと甘い卵焼きだそうです。預かってきました」

「でかした」






 ちなみに、加護の取得のついでに、それらの卵焼きはヤヒコの手によってイリーンベルグの神殿にもたらされ、アリーシャはさらにご機嫌になって海底へ戻っていった。

 このところ卵の採取量が減ってしょぼくれていたマックス君にも食べさせたところ、大興奮していた。今まで卵は生でしか食べたことがなかったらしい。彼に和子やゴローさんの分もお土産として預けたが、果たして彼女たちのところまで無事届いたのだろうか。






「ひと仕事片付いたし良い機会だ。この作業所も手狭になってきたし、もっと広い物件を探すか」

「えっ、槐さんどっか行っちゃうんですか! 移転先決まったら教えてください」

「……仕事は終わっただろ。もう来る必要もないだろうが」

「そんな! これから先のお仕事は誰に依頼すればいいっていうんですか!」

「…………フレ登録してやるから、引っ越したら教えてやるから、黙れうるさい!」


アイテムボックス一つに4話、いや、5話かかりましたね!

ノリはあれです、ジ〇ノでヨバクリ呼ばわりされるまでの道、みたいな。

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