アイテムボックス・リベンジ① 金策しましょう
「そりゃ、何の加護もついてないただの耐水性の箱が海底の環境に耐えられるはずありませんよ」
アリーシャは打ちひしがれるヤヒコに追い打ちをかけた。
「でも……高かったのに……ううう……なんで俺は平気なのに荷物がダメになるんですか……」
「最初に来たときは侍女が術を掛けていましたし、今はイリーン様の加護があるからです」
なんで所持品まで加護をくれないのか。
さらに打ちひしがれるヤヒコ。見かねたらしく、アリーシャは溜息をついた。
「……この箱を作った者の腕は悪くないようですね。そんなに濡れないアイテムボックスが欲しいなら、ここでも海上の分殿でもいいですから、全ての材料、そして完成品にイリーン様の加護を掛けてもらうことです。あとはこの真珠の飾りをつければ完璧でしょう」
「えっ、くれるんですか!?」
ヤヒコが伸ばした手は空を切った。
「侍女が言うにはあなた、最近とてもおいしいオムライスを食べたそうではないですか。それと交換です。イリーン様と私の分を持ってきなさい」
「でも、アイテムボックスが完全防水で水圧フリーじゃないとまともな形で持って来れませんよ」
「……チッ。仕方ない、しばらくイリーンベルグの分殿にいますからとっとと持ってらっしゃい」
仮にも巫女が舌打ちってどうよ、とヤヒコは思ったが、懸命にも口には出さなかった。
「――というわけで、もう一度作って欲しいんですけど、どんな材料が必要なんでしょうか?」
「…………壊れるのが早すぎるだろう」
再び槐の店に行き、壊れた鞄を見せると、槐は心底嫌そうな顔をした。
「この俺様の作品をたった1日で壊しやがって」
「ほんとすみません……」
「どれくらいで壊れた?」
「海底に着く前に」
「……もっと上級の材料が必要だな。お前、金はあるのか」
「ぶっちゃけあれがほぼ全財産でした……」
しょんぼりするヤヒコを、憐れむ目で見る槐。
「ま、まあ、卵を頑張って採ってくれば、ある程度は稼げるかもなーなんて」
「卵?」
「あの囮卵を採ってきたの、俺です」
「是非とも採って来い。山と採ってこい」
槐は相当あれが好きらしかった。
そんなわけで再び手鞠鳥の棲家へ。
和子のいる島の卵を取るのは気が引けるので、最初に上陸した島と、もう1つの島で採取することにした。
鳥達をなるべく刺激しないように前かがみになって進む。それでも時折木に登るための踏み台にされた。
地上にいくつか囮を設置して樹上の本命の卵を守ろうという生存戦略なのだろうが、どう考えても手鞠鳥自体に危害を加えられる相手がいるとは思えない。囮なんて作らず、そのまま樹上の巣を守っていた方が労力が少ないのではないだろうか。
この前最初に見つけた地上巣にはまた卵があった。巣は移動しないらしい。4つあったが、全部取るとまたマックス君と争いになると思ったので1つだけ残しておいた。
その島では10個採れた。巣ごとに1つ卵を残してある。2番目の和子の住んでいる島は飛ばしてその次の島に向かった。
そして3番目の島で1つ目の地上巣を見つけたところで、背中にアイテムボックスらしき鞄をつけたマックス君と出くわした。
「げっ」
『あっ』
お互い会いたくなかった相手である。
『やひこさん、またたまごとりにきたんですか!』
「いや、またって、別にお前のと決まってるわけじゃねーし。お前毎日食ってんだろ、少しくらい俺が食ってもいいだろ」
『いったいいくつほしいんです』
「……3つ、かな」
アイテムボックスの容量限界の問題である。この前拾った手鞠鳥の羽根を捨てればもう1ついけるが、何かの役に立つかもしれないと思うと捨てられない。貧乏性である。
『みっつもですか! おおすぎませんか!?』
「……お前今日何個食った?」
『きょうはまだやっつです!』
「十分多いじゃねーか!」
『のこりはぬしさまとごろーのぶんなんです、あきらめてください!』
そういうとマックス君は巻きついてきた。邪眼の構えだ。
とっさに目を瞑り耳をふさぐヤヒコ。徹底抗戦するしかない。
帰りの遅いマックス君を心配して探しに来た和子とゴローさんが見たものは、邪眼であきらめろコール全開のマックス君と、彼に巻きつかれ目を瞑って耐えるヤヒコの姿だった。
「すみません、すみません!」
ぺこぺこぺこぺこ頭を下げる和子。召喚獣がアレではきっといつも苦労してるんだろうな、とヤヒコは思った。彼女がこの島に独りで居ついているのも、あまり他人に迷惑を掛けないようにという配慮からかもしれない。
マックス君の巻きつきから解放されたあと、ステータス画面を確認すると、邪眼耐性が32まで上がっていた。喜んでいいのか悲しんでいいのか、微妙なところである。
『あきらめてもらおうとおもっただけなのに……』
マックス君は見るからに悄気返っていた。主人と同僚に対する善意で行動しているのだろうとは思うし、なるべく人間を傷つけない平和的な方法として邪眼を選んでいるのだろうとは思うが、いかんせん強引に過ぎる。彼はもっと会話や交渉で物事を解決する方法を覚えたほうがいいのではないだろうか。
「……しかたねーな、可哀想だから卵わけてやるよ」
『ほんとですか! やったー!』
「そのかわり……」
この日ヤヒコの邪眼耐性はMAXになった。
その代り、卵は全部マックス君のものになり、またいちから集めなおしになるのであった。




