アイテムボックス・リベンジ② 魔法って難しい
遅れましたあああああ。スミマセン…。
でもっまだ今日のうちだからっ
まだ今日あと4分くらい残ってるからっ(殴
翌日、今度は始めの島の囮卵14個を全部攫ったヤヒコは、マックス君と出くわす前に《始まりの町》に直行した。
後ろから手鞠鳥の大合唱と、『まってー!』なんて声がしたのはきっと気のせいだろう。
白猫料理店に持ち込むと、エリン達はまた大喜びした。囮卵を出した日の売り上げは普段よりも大きいうえに売り切れないことがないのだそうだ。持ち込むついでにオムライスを4つ持ち帰りで注文する。その分の代金は買い取りの分から差し引いてもらったが、それでも売り上げは6万ほど残った。
「ああ、お供え物なのね。私もよく色々神殿から注文を受けるわよ。」
どこの神殿も加護を受けるのは大変らしい。
差し出された包みは封を開けるまで出来立ての状態が維持される術がかかっているのだという。便利なものだ。
「こういう生活魔術系って、町によって図書館があったりするから、そこで本を借りて覚えるといいわよ。覚えるの大変だけど、役に立つしね。この町にはないけど、イリーンベルグに行くなら、確かあそこにはあったはずだから行ってみたら?」
「ありがとうございます。そうします」
ありがたい情報だ。もしかしたら防水の魔術の本もあるかもしれない。できることなら、物を乾燥させる魔術もあって欲しい。
次はアイテムボックスの材料を槐から借りて、加護をつけてもらいにイリーンベルグまで行かないといけない。
まずは槐の店に行く、が、肝心の店主は寝室に籠っていた。
「槐さーん、お金持ってきましたよ6万くらい」
ドンドンと扉を叩く。店主が寝ているにも拘らず店に入り放題なのは防犯上どうなんだろうか。
中からは、今日は仕事をしない、休む、やる気が起きない、などという寝言が聞こえてくるが、
「さっき囮卵を白猫料理店に売ってきたんですが」
と言い終わらないうちに素晴らしい速さで寝室から、否、店から飛び出していった。パジャマで。
短距離走の選手もかくやという速さであった。素早さにどれだけステ振りしているのだろう。
ちなみに彼のパジャマは、薄萌黄の地に、にゃんこ柄と呼ぶのにふさわしい、デフォルメされた猫の顔が全面に散らされたものだった。往来で我に返ったときの顔が見られないのが非常に残念である。
開けっ放しの寝室のドアの向こうには、大小色とりどりの猫のぬいぐるみの群れと、猫柄のシーツと掛布団、そして大きな黒猫の抱き枕が丸見えになっていた。
どこでこんなに大量の猫グッズを揃えたのだろう。彼自身生産職であることだし全部自作だったりするのだろうか?
ヤヒコは何やらいたたまれない気持ちになり、そっとドアを閉めた。
パジャマ姿のままであることに気が付いてすぐに戻ってくるかと思ったが、彼は全然戻ってこなかった。恐らくそのままの姿で白猫料理店にまで行ってしまったのだろう。
待っている時間が手持無沙汰なので、机に座って龍語の勉強をすることにした。
正直言って難しい。ミミズののたくるようなその文字達には、例えるなら達筆な書道家が勢いに任せてしまったような風がある。きっと生まれて初めて漢字を見る外国人の気持ちはこんなものだろう。
教科書を前にうんうん唸っていると、いつの間にか帰ってきた槐が後ろから覗き込んでいた。手には白猫料理店のものと思しき料理の包み――恐らく囮卵のオムライスだろう――がある。さすがにその姿で店内で食べる勇気がなかったのか、はたまた食べたうえでのお持ち帰りなのか、気になるところではある。
「……なんだそれは」
「龍語練習帳です。海底神殿で水龍の長老から覚えろって言われて押し付けられて……」
「リュウゴ……龍の言語か。解析組が見たら喉から手が出るほど欲しがりそうだな」
「そうなんですか?」
「俺は少なくともそんなものの存在は聞いたことがないな。使用できないのか?」
「?」
なんのこっちゃ、という顔をしたヤヒコに、槐は溜息交じりに解説する。
「一般に出回っている魔術書の類はアイテムボックスにぶち込んでおけば、使用コマンドでそのまま習得できる。初期配布のやつとかな。しかし、各地の図書館にある生活魔法系の魔術書や、他種族言語の魔法書とかは自力で覚えないといけないんだ。あとは、他種族のものでなくとも、攻略のための謎解きの解読のために魔術言語を覚えないといけなかったりするから、解析組の連中や攻略組の一部は普通に魔術書を自力で読んで習得しているな。俺様もエンチャントに使う魔法の関係で既出の言語は全部頭に入れてある」
地味に努力家だった。
ちなみに、このゲームにおける分類は、一般の人間種族が使うのが魔術、異種族が主に使うのが魔法で、魔術よりも威力も消費MPも大きいらしい。魔法職――魔術職と呼ぶべきかもしれないが、便宜上魔法職と呼ばれている――のNPC人族でも、わざわざ他種族の魔法を覚えて使用している者の存在は確認されているそうだ。皆軒並み高レベルらしいが。現在人間種族でしかキャラクリエイトできないのはその差別化のためだろうか。結構人間以外のキャラの要望も多いらしいが、今のところ追加の予定はないらしい。
「俺、最初のやつ頑張って覚えちゃったんですけど……」
「別に悪いことじゃない。NPC連中から魔法職系だと認識されるのは自力で魔法を習得した奴だけだしな。使用コマンドでの習得はいわばインスタントだ。魔法の効力の加減を自分で決められないし、自力習得よりも威力上限が低い。時間と手間はかかるが、魔術言語を覚えておけば自分で魔術を組むこともできる」
難しい話であるが、これから魔法職を続けるなら覚えておいた方がいい話なのだろう。
「あ、そうだ、アイテムボックスの材料なんですけど、材料の段階で一度女神様の加護つけないといけないらしいんです。作る前にちょっと貸してください。イリーンベルグまで行ってくるんで」
「6万じゃ足りんのだが」
「えっ、お、お幾ら万円ぐらいですか?」
「手数料込10万」
「うっ……も1度卵採ってきます……」
こうしてまたマックス君が泣くことが決定したのであった。




