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残春はさ迷える子羊達のコンチェルト  作者: Mr.M
第8楽章 フェア・ゲーム

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89/114

第89話 銃声 4時

遊戯室の柱時計が

コツコツコツと時を刻んでいた。


「・・貴方は。

 その狼が・・誰なのか、

 ご存じなのですか?」

千雪が躊躇いがちに口を開いた。

「くっくっく。

 郷田を殺す機会があった人間は、

 限られている。

 前にも話したが。

 容疑者は

 その到着順から考えると・・。

 宮崎と・・そしてあんただよ、

 鈴木さん」

西岡の言葉に

千雪が小さく息を呑んだのがわかった。

僕が反論しようと

口を開きかけるよりも先に、

西岡がさらに続けた。

「他にも候補者はいる。

 1階を散策していた俺。

 第一発見者の六条も考えられる。

 この4人の中で除外できるのは、

 お嬢ちゃんの推理通り・・。

 六条だけだ。

 つまり。

 容疑者は3人に絞られる」

千雪が小さく頷くのが見えた。

「次に。

 郷田の死体に刺さっていた包丁。

 あれは厨房にある他の包丁とは、

 明らかにデザインが違っていた。

 つまり。

 あの凶器は支給品だと推測できる。

 それを踏まえて。

 俺を含めた3人の容疑者に

 与えられた支給品を

 考えてみると、

 1つだけ

 明らかに浮いたものがある。

 それが。

 あんたの腕時計だ。

 俺の偽造パスポートや

 宮崎の牢屋の鍵は、

 そう簡単に

 用意できるものじゃない。

 だが。

 腕時計に関してはどうだ?

 どこにでもある、

 ごくありふれた物だ」

「・・前にも説明したはずだけど?

 これは。

 『オーデマ・ピゲ』の

 ロイヤルオークで、

 僕みたいな人間が、

 簡単に買える代物じゃない」

「別に買わなくても

 手に入れる方法はあるぜ。

 それに。

 このご時世。

 稼ぎ方は千差万別。

 あんたが大富豪でも、

 不思議じゃない。

 さらに。

 その腕時計が

 本当に高級品だとは、

 俺達にはわからない。

 あんたがそう言ってるだけで、

 単なる安物の

 量産品とも限らないからな」

「馬鹿馬鹿しい。

 それなら。

 彼女に与えられた支給品だって、

 簡単に

 用意できるんじゃないのかい?

 今時の女子高生は、

 避妊具の1つや2つくらい

 持ち歩いているさ」

そこまで話した時、

千雪が蔑むような目で

僕を見ていることに気付いた。

「あっ・・い、いや。

 今のは一般論であって・・。

 君がそうとは言ってないんだ。

 あくまで可能性の話さ・・」

僕は慌てて付け加えた。

「どちらにせよ。

 車椅子のお嬢ちゃんには、

 2階の郷田を

 殺すことはできないんだぜ」

そう言って、

西岡は

「くっくっく」

と笑った。

「何か反論はあるか、狼さんよ?」

西岡は

空になったジンジャーエールの瓶を

手の中で弄びながら、

にやにやと顔を歪めていた。

千雪は

カルーア・ミルクの入ったグラスを

ギュッと握りしめていた。

僕を見つめるその瞳には、

恐怖の色が浮かんでいた。

「くっくっく。

 もういいだろ。

 演技はやめて腹を割って話そうぜ」


その時。

遊戯室の柱時計が

ボーンボーンと4時を告げた。


「・・はぁ。

 君の与太話に付き合うのは、

 もううんざりだよ」

僕は徐に拳銃を抜くと西岡に向けた。

「す、鈴木さんっ!」

千雪が小さな悲鳴を上げた。

「無理するな。

 扱えないだろ?」

一方、

西岡は冷静だった。

「試すかい?

 さっき。

 六条さんの死体を見つけた後。

 試し撃ちをしたんだ。

 防音設備のおかげで

 音は外に漏れなかったようだけど」

「チッ・・」

西岡が恨めしそうに

拳銃を睨み付けた。

「す、鈴木さん・・。

 落ち着いて下さい!」

「彼はどうしても。

 僕に郷田さん殺しの罪を

 着せたいようだ」

僕は西岡から視線を外さず、

千雪に語り掛けた。

西岡が口元を歪め、

「くっくっく」

と笑った。

「そう言えば。

 まだ答えを聞いてなかったな。

 最初に廊下で見た時、

 あんたのバッグから

 覗いていたあの包丁は、

 一体どこに消えたんだ?」

「それは君の見間違えだと

 言ったはずだけど?」

「誤魔化すなよ。

 あの包丁の柄は郷田の死体に・・」


パンッ!


乾いた破裂音が部屋に響いた。


「きゃあああああぁぁぁ!」

次の瞬間。

少女の悲鳴が僕の耳を切り裂いた。

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