第3話 麗人
「どちら様でしょう」
ふいに。
背後から声がした。
僕は驚いて、
先生に叱られた子供のように
恐る恐る振り向いた。
声の主を見て、
僕は言葉を失った。
その声色から、
女性だと思っていた。
だが・・。
果たしてそれが正しいのか。
僕には判断がつかなかった。
仕立てのよい黒のスラックスに、
皺ひとつない真っ白なシャツ。
両肩には黒いサスペンダーを掛け、
首元には蝶ネクタイを締めていた。
色白できめの細かい肌とは対照的に、
黒く艶のある髪は、
女性としては短く、
男性ならば長い部類に入るだろう。
切れ長の鋭い目には、
睨まれた者を
一瞬で黙らせてしまいそうな
凄みがあった。
スッと通った鼻筋は高く、
薄い唇は鮮やかな赤に染まっていた。
身長は僕と同じくらい。
女性ならば高いといえるが、
男性であれば平均的な身長だろう。
年の頃は20代半ばか。
いずれにしても。
恐ろしいほどの美人だった。
この浮世離れした美しさは、
現実のモノなのか。
僕は完全に目を奪われていた。
「どうされましたか?」
その人物がふたたび口を開いた。
その時。
僕の目がシャツの胸元の
小さな膨らみを捉えた。
そこでようやく。
僕はその人物が
女性であることを理解した。
男装の麗人。
女性にしては凛々しすぎて、
男性にしては美しすぎる。
「あ、あの・・。
鈴木です・・」
僕は慌てて、
ポケットから招待状を取り出して
彼女に見せた。
男装の麗人は
招待状に目を落とすと
微かに首を傾げた。
感情のないロボット。
アンドロイドのようだと思った。
彼女はすぐに僕の方へ視線を戻した。
「本日ご招待されたのは
鈴木社長のはずですが・・。
もしかして。
ご令息でございますか?」
僕は首を縦に振った。
男装の麗人は
それで納得したのか、
小さく頷いた。
「鈴木太
様ですね。
お待ちしておりました。
玄関を入られて
廊下を左にお進みください。
突き当たりの部屋が
応接室となっております」
そう言って、
彼女は胸ポケットから、
1枚のトランプを出した。
僕は首を傾げつつ、
そのカードを受け取った。
何の変哲もないカードだった。
それは『クラブの6』だった。
「鈴木様は【市民】となります。
カードは
このままお持ちになっても、
破棄されても構いません。
ですが。
お持ちになる場合には、
くれぐれも他のお客様に
見られぬよう、
しっかりと保管して下さい」
そして彼女は深々と頭を下げた。
僕はもう一度手の中のカードに
目を落とした。
彼女の説明は
十分に納得できるものではなかった。
中でも『他のお客様』
という点が引っ掛かった。
客は僕1人ではないようだ。
僕は彼女に気付かれないよう
小さく舌打ちをした。
「それともう一つ・・」




