第107話 時間稼ぎ 佐藤千雪の視点
応接室の柱時計が
チッチッチッと時を刻んでいた。
「鈴木さんは先ほど
『現状、考え得る最大の報酬』
と仰いました。
でも。
はたして本当にそうでしょうか?」
私は思いつくままのことを口にした。
「君らしくない発言だね。
【市民】にとって、
これ以上の報酬はないことくらい、
君にもわかってるだろう?」
男はフンッと鼻で笑った。
「報酬が目当てですか・・?
もしそうであれば。
私の分の報酬を差し上げれば、
私を解放してくれますか?」
私は一縷の望みを託して提案した。
「どうやら。
勘違いをしてるようだね。
僕が欲しいのは君だよ。
報酬はオマケみたいなものさ。
世の中。
金では買えないモノもあるからね」
男がにやりと笑った。
「本当にそうでしょうか・・?」
私は一旦カップをテーブルに置いた。
男が首を傾げた。
「・・何が言いたいのかな?」
「私は・・そうは思いません。
お金で買えないモノなんて、
この世にはないと思います。
崇高な理想を掲げている人間も、
目の前に大金を積まれれば、
その醜い本性を現すでしょう。
清廉潔白を謳う人間の
意地やプライドなんて、
札束で頬を叩けば、
一瞬で吹き飛ぶものです」
男が目を丸くした。
「君の口から
そんな言葉を聞くとは意外だね。
まさか。
あえてそんな発言をしたのかい?
僕をガッカリさせるために。
だとしたら・・失敗だね。
君が拝金主義だとしても。
僕は一向に構わないよ。
それとも。
時間稼ぎのつもりかい?」
私の考えは
完全に男に見抜かれていた。
男は
「ははは」
と笑った。
「さあ。
早く答えを聞かせてくれないか?
僕と一緒に来るか。
それとも・・。
これ以上は言わなくても
わかるよね?」
そして男は
静かにハーブティーを飲み干した。




