57.困憊
凛生彩の一喝が効いたのか、鬼達はキャンプ場の予約客を迎えるための準備を精力的に行なっていた。
「鬼樹さん、仕事先の人達が来るのでコテージの予約をお願いします」
凛生彩はコテージの予約を入れるために管理棟の受付カウンターの前にいた。
鬼樹は予約帳を取り出してパラパラとページをめくりながら、
「いつが良いですか?」
「来週以降で、平日がいいのですが……」
「来週の水木か、再来週の火木が空いています。来月の中旬以降は桜の見頃になるので花見客で連日予約が埋まってしまうんですよ」
「そうしたら……来週の木曜日でお願いします。人数は4人で夕食のバーベキューセットと朝食セットを人数分お願いします」
「わかりました。木曜日一泊4名様。バーベキューセットと朝食セットを人数分・・・と。凛生彩さんの分はどうしますか?」
「私は仕事の打ち合わせとここの案内が終わったら屋敷に帰ります。朝食も屋敷で済ませてからキャンプ場に来ますので私の分は必要ありません」
「承知しました」
凛生彩は予約を終わらせて一度仕事部屋に戻り、レイコと一緒に昼食を軽く済ませた。
「私は午後からキャンプ場の手伝いをしますが、レイコさんはどうしますか?」
「私はのんびりさせてもらおうかな・・・あちこち見て回っているよ」
「わかりました。では、いってきます!」
凛生彩はスタッフ全員が身につけているデニムのワーキングエプロンを着て管理棟に戻った。
エプロンには【凛生彩】の名札を付けた。
【時雨】【福】の名札も作ってそれぞれのエプロンに凛生彩が手づから付けた。付けてあげたかった。もしかしたらと思って【レイコ】の名札も作ったが、今日はそれを引き出しにそっと仕舞った。
「鬼樹さん、午後からよろしくお願いします」
鬼樹は恐縮しながらも朝の灯魄の言葉を思い出していた。
「では、13時からチェックインになりますので、今日は受け付け業務を主にお願いします。予約の電話も入りますのでそちらもお願いできれば・・・わからないことがあれば時雨と福に聞いてください」
「わかりました。時雨、福、よろしくね!」
「はい!」
「お任せください!」
―― 時刻は12時30分
キャンプ場の門が開かれた。
受付カウンターにいる凛生彩はソワソワと落ち着きがなく予約帳を何度も確認していた。
「凛生彩さん、今日の予約はコテージ4組、全て一泊。オートキャンプは一泊が2組、二泊が3組です。着いたお客様の名前と人数を確認してください。その後の説明や案内は私と福でします。あと、キャンプ場の予約は電話でのみ受け付けていますので、電話がなったら出てください。この予約票の上から順番に聞いてもらえば必要事項は聞けますので大丈夫です」
凛生彩は時雨の説明に緊張の面持ちでうんうんと頷き、予約票を見ながら何度も上から順番に質問事項を確認していた。
駐車場に1台のミニバンが停まった。
「さあ、凛生彩さん。頑張りましょう!」
時雨が凛生彩を鼓舞した。
「凛生彩さん、僕らを頼ってね!」
福が凛生彩の顔を覗き込み、ニコッと笑って励ました。
次から次へと予約客が予約受付カウンターを訪れた。
凛生彩は来訪客の名前と人数を確認してから時雨と福へ引き継ぎを行なった。
名前と人数を確認の後に二人に引き継ぐを繰り返し、ようやく最後の予約客の受け付けを終わらせた。
来訪客たちは皆んな笑顔だった。
その笑顔が凛生彩のやりがいにも繋がった。
慌ただしい時間はあっという間に過ぎて、夕刻の店内は薪を買い足す人やキャンプ用品などを見て回る人たちの和やかな雰囲気に包まれていた。
来訪客たちはそれぞれのスペースでそれぞれのキャンプを楽しんでいるのだろう。そんな事を思いながらぼんやりと夕焼けの空を眺めていると、
「そろそろ屋敷に帰ろうか・・・」
凛生彩の横にレイコが立っていた。
鬼樹も受付カウンターにいる凛生彩に近づいてきて、
「今日は助かりました。帰りの車はスタッフ専用駐車場で待機しています」
そう言い残して直ぐに客の対応に戻っていった。
凛生彩は帰り支度をしてレイコと一緒にスタッフ専用駐車場に向かうと、黒のミニバンの運転席に時雨が座りエンジンをかけて凛生彩たちを待っていた。
「えっ、時雨は運転ができるの?」
「はい。ちゃんと運転免許を持っていますので安心してお乗りください」
「いつの間に……」
驚いている凛生彩の背を押して、レイコはミニバンの後部座席へ乗り込んだ。
「お待たせしました」
福が助手席に乗り込み、四人を乗せたミニバンは帰路へ着いた。
屋敷に着くと気が緩んだのか、凛生彩は身体が重くなるのを感じた。
「ただいま、戻りました」
玄関を開けると灯魄の姿は見えないが気配は感じられた。
凛生彩は靴を脱ぎ、「よいしょっ」と声をかけながら玄関の小上がりに足をかけて重たい身体を持ち上げた。
『荷物を部屋に持っていかないと』と思いながらも徐々に重力に逆らえなくなる身体を持て余した凛生彩は囲炉裏端の座椅子に腰を下ろした。
「ただいまぁ・・・って、凛生彩どうしたの? 大変・・・いま主様を呼んでくるわね」
レイコは先に屋敷に入ったはずの凛生彩が囲炉裏端でぐったりしているのを見つけて、慌てて灯魄を呼びにいった。
次話の更新まで少しお時間をいただきます




