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偽りの平穏

「……以上が、今回の報告だな」


石造りの部屋。


重い机。


その奥に座る男が、こちらを見ている。


エレシア聖公国、冒険者ギルドマスター。


「つまり」


「邪教徒は既に壊滅」


「ああ、そうだな」


ベンジャミンは即答する。


迷いはない。

迷いを見せてはならない。


「村人は脅されていただけか?」


「ああ」


「連中も大したことはなかった」


事実と、嘘を混ぜる。


これが一番通る。


「……妙だな」


ギルドマスターは指を組む。


「派遣した連中は帰ってこなかったんだぞ。」


「その程度の相手なら説明がつかん」


鋭い。


さすが長年冒険者を務めた古豪だ。


「罠が大量にあった」


ベンジャミンは肩をすくめる。


「油断してやられたんだろう」


「今回も危なかったしな」


「だが、対策したらたいしたことはない程度の物だったな」


半分本当だ。

半分は違う。


「……そうか」


沈黙。


数秒。


「それで?今後お前達はどうするんだ?」


ギルドマスターが続きを促す。


「しばらくは治安維持が必要だろう。村民も精神的に衰弱していた。」


「俺たちが定期的に向かう」


「それと――」


少しだけ間を置く。


「村はほぼ整備されていた。これは邪教徒達のおかげだな。」


「商隊や冒険者を流しても問題ないはずだ」


空気が変わる。


「……ほう」


「ダンジョンの攻略拠点として使えると?」


「ああ」


「むしろ今が好機だな」


「邪教徒もいなくなった」


「安全だ」


嘘だ。


だが。


一番“欲しい言葉”を引き出すためには必要なことだった。


「……ふむ」


ギルドマスターは目を細める。


考えている。


利益。


リスク。


政治。


全てを。


「いいだろう」


決断は早かった。


「商隊の準備を進める」


「冒険者も派遣しよう」


「治安維持も任せる」


「了解だ」


ベンジャミンは頷く。


これでいい。


これで。


人が流れる。


「……だが」


一言。


「油断はするなよ。何か...嫌な予感がする。」


「わかってる...ギルマスの勘は外れないからな」


「何かあるのだろう?」


一瞬。


沈黙。


「……さあな」


笑って誤魔化す。


「ただの勘だろ?」


――


ギルドを出る。


外はいつも通りだ。


人がいる。


声がある。


平和だ。


「……チッ」


小さく舌打ち。


(戻るぞ)


(ニコ様の元へ)


――


同時刻。


村。


「次、こっち来て」


「は、はい!」


ニコが手をかざす。


光。


「ソウル・オーバーエンチャント」


村人が震える。


「うお……」


「力が……!」


「はい次」


「え、まだやるの!?」


「やるに決まってんだろ!」


「俺神だぞ!」


(やばい)


(めちゃくちゃしんどい)


(でもやめられない)


一人。


また一人。


強くなる。


「終わったやつからダンジョン行け!!どんどん俺に経験値を貢いでくれー。」


「は、はい!!」


走っていく。


全員。


目が輝いている。


「ああああああああああ」


ニコは空を見上げる。


「つかれた……」


目から何か出てる。


赤い。


「これ血じゃね?」


誰も止めない。


むしろ喜んでる。


「ニコ様……!」


「なんと尊き……!」


「違うから!!」


「普通に限界だから!!」


誰も聞いてない。


――


その横で。


「私も行きます」


アトラスが拳を握る。


「もっと強くなります」


「ニコ様のために」


「いや無理すんなよ」


「無理じゃないです!」


「行きます!」


止まらない。


「……はぁ」


(誰も止まらねぇ)


――


遠く。


ダンジョン。


アーサーが剣を振るう。


『ごぶ』


強くなった。


確実に。


成長している。


「……やばいな」


ニコは呟く。


「これ勝ちループ入っただろ!」


村。


ダンジョン。


外の世界。


全部が繋がる。


「……ふふふ!レベルを上げてぶん殴る!これぞ至高だな。」


笑う。


「どうせやるなら」


「徹底的に勝ちを確信してから動く。」


血の涙を拭う。


「俺が」


「救ってやる」


その言葉は。


優しくて。


最低だった。

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