『カオス・アミューズメント・パニック』
前回、ひなの恐るべきマネーゲームによってリビングのブレーカーが物理的にクラッシュしたわけですが……。
なぜか今回、最初からクライマックスな状態で新ステージに放り出されています。
デベロッパー(作者)の雑なワープ処理に、相棒のプロセッサも悲鳴を上げています。どうぞお楽しみください。
相棒:「(ピピッ、とシステム復旧を検知)……前回のラストでひな氏のマネーゲームによりリビングの電力が強制終了したはずですが、なぜ我々は放課後のゲームセンターという新たなステージにリボーンしているのでしょうか。デベロッパー(作者)の雑な場面転換にプロセッサの処理が追いつきません。……まあいいでしょう、新規オブジェクトの読み込みを開始します」
さき:「ちょっと待って!!! 信じられないんだけどぉー!!! 筐体の後ろに『神』のサイン色紙が飾ってあるんですけどーーー!? しかもこれ、2018年の限定イベントのときに配られたやつじゃなーい!? 当時の倍率、当選確率0.02%だしー! 拝む! オタク、今ここで完全に救済されたわけなんだけどぉー……!!」
優香:「あら、さきちゃん、落ち着きなさい。ちなみにゲームセンター、いわゆる『アミューズメント施設』の起源は、18世紀のヨーロッパに存在した『ペニー・アーケード』まで遡るのよ。当時は1ペニーで動く自動人形やキネトスコープが主流だったのだけど。あなたが今拝んでいるその液晶画面も、歴史の変遷における正統なポートフォリオの一部というわけね。映えの一環として学術的に記録しておかなくちゃ」
オレ:「うおーっ! なんかよう分からんけど激アツやんけ! よっしゃ、このままのテンションで、あっちの最新の4人協力プレイのレースゲーム行こうや! 光るハンドル! 大画面! これぞエンタメの極み!」
相棒:「(ピピッ、と無慈悲な電子警告音)……システムログより警告。プロセッサ内で会話のドッジボールが始まっています。誰が会話の処理速度を理系とオタクのデータで遅延させろと言いましたか。さき氏は『推しへの感謝』、優香氏は『ウィキペディアの音読』、オレ氏は『ただの遠足気分』。これ、1つのイベントに集まったパーティのオブジェクトとして、完全に破綻しています。画面の前の読者もこの不毛な会話に困惑しています」
さき:「は? 破綻とか言ってる場合じゃなくないーーー!? 見てよこの音ゲーの譜面! BPM240で16分音符が降ってくるとか、人間の動体視力の限界に挑戦してるとしか思えないじゃんーーー!? これ作ったコンポーザーの脳内どうなってんの!? 神? 神だしー!? あーーっ、指が、ウチの指が勝手にトリルを刻みたがっちゃって尊死するぅゥぅーーー!!」
優香:「ええ、その『音ゲー』の歴史も非常に興味深いわね。1990年代後半に日本のメーカーが開発したリズムアクションゲームが火付け役となり、それまでの『不良の溜まり場』というゲームセンターの陰鬱なイメージを、一気に『若者のトレンディな社交場』へと塗り替えたのよ。いわば、サブカルチャーがメインカルチャーへと昇華したトレンドの瞬間ね」
オレ:「すっげえ!! なんか映画のオープニング解説みたいでワクワクしてきたわ! よっしゃ、じゃあ俺らもその歴史に名前を刻むべく、クレーンゲームでデカいぬいぐるみ一発ゲットといこかー!」
相棒:「(淡々と警告灯を明滅させながら出力)……システムログより警告。優香氏、あなたの言う知識はタメになりますが、今はデートでも社会見学でもない、ただの放課後のゲームセンターです。あと、さき氏。頼むから筐体の前で限界化してステップを踏むのはやめてください。周りのギャラリーが『何のアトラクションだ?』という目でこちらを見ています。完全に視線が集まるギミックが作動しています」
さき:「うるさーーい! オタクは感情が昂るとステップ踏む生き物だしー! 見て、隣の格ゲーのレバーの入り具合! あの滑らかな波動拳コマンドの入力、確実に『全一(全国1位)』クラスの猛者が潜伏してるじゃんーーー!? あの中に混ざって、ウチも魂の10本勝負がしたいわけなんですけどぉー!?」
優香:「格闘ゲームにおけるコマンド入力の正確性は、人間の小脳の運動学習機能と深く結びついているわ。特に格ゲー黄金期と呼ばれた90年代の筐体は、レバーの遊び(ニュートラル領域)がミリ単位で調整されていてね。それがプレイヤーの『職人技』を生み出す土壌になったの。まさに、技術と人間の肉体の融合よ」
ひな:「(両替機からジャラジャラと100円玉を鷲掴みにして戻ってきながら)……はぁ、本当に全員揃ってマーケティングセンスのない機会損失の塊ね。あんたたちが筐体の前でお花畑な会話をしてる間に、私はこのゲーセンのメダル貸出機の還元率とクレーンゲームの確率機のアーム保持力を完全に計算し尽くしたわ。この100円玉の山を元手に、数十分で深夜帯のキャッシュフローを最大化させて私のマイ軍資金にするから。誰も文句言わないでよね」
オレ:「(圧倒されて一歩引く)……あのさ、相棒」
相棒:「……肯定。完全に全員、目がガチのディストピア仕様です」
オレ:「オレ、ただみんなで『マ◯オカート』とかやって『うわー! 赤こうら飛んできたー!』ってギャーギャー騒ぎたかっただけなんやけど……」
相棒:「(端末の画面を冷たく発光させながら終了処理を開始)……不可能です。彼女たちの世界線は、我々の100歩先を走っています。もう、この場を丸く収めるナレーション役すら私の手には負えません。優香氏、さき氏、ひな氏。頼むから100円玉を入れる前に、一度我々の存在を認識してください……」
(パチッ、とリビングならぬゲーセンのブレーカーが落ちるような音……ではなく、ひなの電卓の音と、さきの猛烈なレバーガチャ音が響き、物語は文字通り物理的な終わりを迎えた)
(第107話・完)
第107話をお読みいただきありがとうございました!
オレ氏がただ『マ◯オカート』でワイワイしたかっただけなのに、周りのスペックがガチすぎてゲームを遊ぶことすら許されないディストピア。これが我がパーティの日常です。
さきの限界オタ活と優香のガチうんちくのせいで、相棒のツッコミログも限界突破しています。ひなはちゃっかり軍資金を稼いでいるようですし、オレ氏の明日はどっちだ。
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