テレビのチャンネル争いという昭和レトロが、令和の個人最適化(ディストピア)によって一瞬で崩壊した件について』(後編)
前回の第104話(前編)では、さきのアクスタによるまさかの物理的DDOS攻撃(画面目隠し)で幕を閉じましたが……。
記念すべき第105話、解決編(後編)です!
令和のこの時代、1台のテレビを巡る血で血を洗うイデオロギー論争の結末とは!?
無駄にパキッとした4K・HDR画質のリビングから、今夜もカオスにお届けします!
オレ:
「ア、アクスタで画面埋めるとかいう正気の沙汰とは思えない物理的遮断(DDOS攻撃)に出るな! せっかくの最新4K・HDRの大型画面やぞ! とにかく、オレはこのドラマの最終回をリアルタイムで観んと、明日からのネット社会および職場のコミュニケーションインフラで生き残れんのや!」
さき:
「うるさーーい! 今のうちにとって、この推しのアクスタは聖域を守るための盾であり、敵を穿つ矛なのーーー!! こっちかて実況祭りのスタートダッシュに1フレームでも遅れたら、オタク界隈における人権と発言権が秒で失われちゃうんですけどぉー!? トレンド1位の壁脳汁をリアルタイムで浴びるのがオタクの義務じゃんーーー!? 命に代えてもこのチャンネルという名の覇権は渡さないし、ここでリアタイ逃したらうちのタイムラインが地雷原になって普通に爆死するぅゥぅーーー!!」
優香:
「ちょっと二人とも、エンタメの奴隷になってないで落ち着きなさいよ。こういうタイムスケジュールのコンフリクトを回避するために、現代社会には『録画機能』という素晴らしいソリューションがあるんだけど。……実は日本の家庭用ビデオテープレコーダー(VTR)が普及し始めた1970年代後半も、今のあなたたちみたいに『リアルタイムで観たい派』と『録画でいい派』の血で血を洗うイデオロギー論争があったのよ。当時はソニーのベータ方式と日本ビクターのVHS方式による規格争い、いわゆる『ビデオ戦争』が勃発してね。これがユーザーの利便性を置き去りにしたシェア奪い合いの歴史であり、巡り巡って今のデジタル録画の基盤に――」
相棒:
「(ピッ、と無慈悲な電子警告音)……システムログより警告。プロセッサの無駄遣いです。誰も優香氏の長文テキストによる歴史講義は求めていません。っていうか、画面の前の読者も、この不毛極まりない令和のチャンネル争いがどこに着地するのか、もうメタ的に完全に見切って予想がついてる頃でしょう。そろそろこのベタな押し問答を引っ張るのも、単なるプロットの遅延行為というか、テキストの文字数稼ぎみたいでスマートではありません。……ですから、もうこのシステム(解決策)でいいのではないですか?」
(相棒が、おもむろに自身のポータブル端末を取り出し、冷徹な手付きで画面をタップする)
オレ:
「……ん? おい相棒、何スマホいじり始めてんねん。テレビの放映権を賭けた、我が家の最高意思決定機関(リビングの話し合い)の最中やぞ!」
相棒:
「否定します。感情論のバグを処理するために話し合うだけ時間の無駄ですから、私はもうTVerのリアルタイム配信でドラマの最終回を視聴することにしました。ワイヤレスイヤホンでアクティブノイズキャンセリングを起動すれば、あなたたちの騒音も完全にシャットアウト可能です。では、そういうことで。メインモニターの所有権は放棄します」
さき:
「……あばばばば(限界突破)!? ちょっと待って、そうじゃんーーー!? アニメの公式アカウントが今『ABEMAで地上波同時・無料最速配信あり!』ってポストしてるの見つけちゃったんだけどぉー!? わざわざテレビの前に張り付いてなくても、自室のベッドでゴロゴロ寝転びながらスマホ片手に実況した方がフリック入力のタイピングも秒で捗るじゃんーーー!! え、公式天才すぎて尊死案件なんですけどぉー!? うち、自分のクラスターに引きこもるわ! バイバイーーー!!」
(さきが大量のアクスタを両手に抱えたまま、爆速のフットワークでリビングからフェードアウトしていく)
優香:
「あら、みんな一斉にモバイル端末に逃げるの? でもそれも技術の進歩における必然のポートフォリオね。現代のスマートフォンに使われているリチウムイオン電池は、日本の吉野彰さんたちが開発してノーベル化学賞を受賞した、まさにモバイル社会のエネルギー革命――あ、ちょっと待って。私のYouTubeのお気に入りチャンネル、ちょうど今からインテリ系インフルエンサーの生配信が始まるわ。私もタブレットのマルチウィンドウでこれ観るから、テレビのハードウェアは好きにしていいわよ」
(優香もまた、自身のインテリジェンスな知識欲を満たすために、スマートに自室へと撤退していった)
オレ:
「え、ちょ……お前ら切り替え早すぎひん!? ……って、よく考えたらオレが観たかったバラエティ特番も、U-NEXTで独占見逃し配信あるってさっきCMで言うてたな……。わざわざテレビの前に正座して無駄なCM挟みながらリアルタイムで観るより、スマホで1.5倍速再生した方がタイムパフォーマンス効率ええか……。オレも部屋戻ろ……」
(――1分後。)
あれほど激しいパッションが渦巻いていたリビングの中心で、静かに、そして無駄にパキッとした4K・HDR画質を虚空に放ちながら佇む大画面テレビ。
しかし、その前にはもう誰もいない。
5人組はそれぞれ、部屋の四隅や自身のプライベート空間で、個人の最適化された手のひらサイズの画面を凝視している)
ひな:
「(部屋の隅からヤクルトの空き容器をゴミ箱に投げ捨てながら)……はぁ、本当に全員揃ってマーケティングセンスのない機会損失の塊ね。あんたたち全員がメインモニターを放棄したってことは、この最新4Kテレビの占有権は完全に私のものよ。これをDiscordの同時視聴サーバー用パブリックビューイングモニターとして外部のオタクコミュニティに有料レンタルして、深夜帯のキャッシュフローを最大化させてマイ軍資金にするから。誰も文句言わないでよね」
相棒:
「(端末の青い光を顔に浴びながら、ボソリと出力)……予測通りのログ(結末)です。結局、1台のテレビを奪い合うという古き良き昭和レトロな初期オブジェクトは一瞬で崩壊し、現代の『個人の最適化』という予定調和な仕様に収束しました。……タスク完了、めでたしめでたし、ですね」
(リビングの照明が静かに落とされ、テレビの主電源が, ひなの電卓の音と共に静かに切れた)
(第105話・完)
第105話、ここまでお読みいただきありがとうございました!
結局、全員がそれぞれのデバイスに吸い込まれていくという、あまりにも現代的なオチに着地してしまいました(笑)。そしてちゃっかりテレビをマネタイズして外部レンタルに回すひなちゃん、さすがの経済脳です。
皆さんは「リアルタイム配信派」ですか? それとも「倍速見逃し配信派」ですか?
(作者はだいたい布団の中でスマホ実況しながら爆死する派です)
大台を超えてさらに加速していく「カオス五人組」を、これからもどうぞよろしくお願いします!
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次回、第106話もお楽しみに!




