そして伝説の「極悪勇者」へ
私が魔王城へ「謝罪訪問」に向かい、ただ頭を下げてお詫びをしただけで魔王軍が涙目で全面降伏してから、一ヶ月が過ぎた。
魔王軍と人間界の間には歴史的な不戦条約が結ばれ、世界には数百年の時を経て、真の平和が訪れた。
魔王城から無事に(?)王都へと戻った私は、王宮の大広間に招かれていた。
「面を上げよ、人類の偉大なる救世主・ザックスよ!」
王座に座る国王陛下をはじめ、国の重鎮、聖女セラフィナ、勇者翔くん、そしてギルドマスターのガルガンなど、世界の重鎮たちが勢揃いし、私に熱い視線を注いでいる。
「貴殿は、単身で魔王城へ乗り込み、その圧倒的な『威厳』と『覇気』のみで魔王軍を戦わずして屈服させた。この前人未到の偉業に対し、国家最大の栄誉と、新たな称号を授与する!」
大きなファンファーレが響き渡り、国王から煌びやかな金色の勲章と、額縁に入った表彰状が贈られた。
そこに記されていた私の新しい称号は――
『極悪至高なる黒の神聖勇者(※周囲の読者からは「裏社会の支配者」と通称される)』
(……うん、やっぱり『極悪』って入っちゃうんだね。知ってた)
私は内心で遠い目をしながらも、前世の営業マン時代に培った完璧なペコペコおじぎで表彰状を受け取った。
「感謝いたします、国王陛下。これからも世界の平和のために、微力ながら尽力いたします」
私が感謝の言葉を述べようと、いつものドスの利いた超低音ボイスを響かせた。
すると、国王をはじめとする重鎮たちは「――ふっ、この世界はオレの庭だ。余計なマネをしたら、いつでも魔王城のように屈服させてやる」という冷酷な宣言として受け取り、「ひ、ひぃぃっ! 勿体無きお言葉……!」と一斉に恐縮して頭を下げたのだった。
* * *
それから、さらに月日は流れて。
王都の街並みは、今日も平和そのものだった。
私が黒コートをなびかせて散歩に出かけると、道行く人々がモーセの十戒のようにサッと道を開け、深々と頭を下げる。
「あっ、ザックス様だ! 今日も王都の平和を守ってくださっている!」
「ザックス様のおかげで、この街の犯罪率は奇跡の0%継続中だよ!」
路地裏では、かつてカツアゲをしていたチンピラたちが「ザックス様、今日も街のゴミ拾い完了しました!」と笑顔で挙手をしてくる。
大衆食堂に入れば、店主が「ザックス様! 本日の特選お肉、お代は要りません(※ちゃんとお金は置いていきます)!」と涙目で肉を差し出してくる。
ギルドに戻れば、エルフの聖女セラフィナが「ザックス様、お茶の用意ができております」と甲々しく世話を焼き、本物の勇者・翔くんが「師匠! 今日の廊下の拭き掃除、完了しました!」と爽やかな笑顔で雑巾を掲げてくる。
「……はぁ。やっぱり、俺の顔は一生このままで、みんなの勘違いも解けそうにないな」
私はギルドの窓辺で、あたたかい紅茶を一口飲みながら、ふっと小さく苦笑した。
見た目は身長二メートルの最凶の犯罪者。
中身はピュアで平和が大好きな、ただの元社畜。
どれだけ優しく接しようとしても、どれだけ平和的に解決しようとしても、世界のシステムと人々の勘違いは、私を「最凶にして最強の英雄」として祭り上げ続けるだろう。
でも、まあ――
「みんなが笑顔で、平和に暮らせているなら……これでいいのかな」
私は青く澄み渡る異世界の空を見上げ、前世では決して味わえなかった穏やかな風を感じながら、心からの優しい笑顔(※周囲からは「世界を再び手中に収めた魔王の笑み」に見える)を浮かべるのだった。




