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ゲロと誠 〜新宿のダメホスト、夢で沖田総司を極めて歌舞伎町の王になる〜  作者: 桐生宇優


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第五章:試衛館の化け物、白刃の屠殺

前書き:【閲覧注意】

※本章より、暴力・流血・身体損壊に関するR15レベルの残酷描写が含まれます。真剣を用いた殺陣や幕末の冷酷なリアリティを追求しているため、苦手な方はご注意ください。

パチ、パチ、と。


試衛館の床板を叩く木刀の音が、いつしか以前とは違う音に変わっていた。


かつては重苦しい鈍器がぶつかる音だった。だが、今の惣次郎が振るう木刀は、空気を「切断」し、肉を「断ち切る」名刀のような、冷たく、飢えた音を立てていた。


時の流れは加速していた。


新宿の「レイ」としての記憶は、泥のように濁り、幕末の太陽と汗の匂いが、僕の新しいリアリティとなっていた。


十代半ばへと成長した惣次郎の肉体は、現代の僕が持っていた卑屈さや他人への恐怖を、敵の隙を察知する凄絶な直感へと昇華させ、その内に「人斬り」の天才を完全に開花させていた。


「惣次郎。……また、お前は鞘に入らぬ刀になったな」


稽古の後、土方さんが、少し離れた場所で、静かに、けれどどこか畏怖を込めた瞳で僕を見ていた。


その日、道場には試衛館の面々ではなない、他流の浪人たちが三人。


「道場破り」を気取って挑んできた彼らは、近藤さんも土方さんも出番がないまま、九歳の頃の「惣次郎」の変わり果てた姿に、その魂までもを粉砕されていた。


圧倒的な、無双


それは、稽古などではなかった。


ただの、屠殺だった。


「近藤勇、不在か。ならば、俺がこの道場の看板を頂戴する!」


そう言って、先頭の男が木刀を中段に構えた。腕に覚えがある、少し肥えた男だ。


新宿の「レイ」なら、すぐに土下座して謝っただろう。


だが、今の僕、惣次郎の肉体は、男が構えた瞬間に、その重心のわずかなブレと、喉元の隙を見抜いていた。


(……浅い。……そこに、突く)


――閃、閃、閃!


三段突き。


それは以前、土方さんが喉元で止めた、あの「突き」の完成形だった。


現代のレイが、客の顔色を見てわずかな不満を察知するように、惣次郎の超感覚は、敵のガードが完成する前の「空白」を捉えていた。


――ゴキッ、メキッ、ドグッ!!


一瞬のうちに繰り出された三回の突きが、名刀のような鋭さで男の喉元、鎖骨、そして腹部に直撃した。


木刀は男の肉に「刺さった」のではない。


その衝撃波が内部を粉砕し、男の喉笛を潰し、鎖骨を砕き、内臓を破裂させた。


「が、はっ……あ、あ……」


男は声にならない悲鳴を上げ、口から血と、何か砕けた肉片のようなものを吐き散らしながら、崩れ落ちた。


「……ひ、化け物……!!」


残りの二人が、恐怖に顔を歪めて同時に襲いかかってきた。


だが、その動きは、惣次郎の目には、コンビニの冷たいパスタよりも「価値のない」ものに見えた。


彼らが木刀を振り下ろすより速く、惣次郎の体は動き、その軌道を紙一重でかわした。


メキメキッ、ゴリッ!!


かわした勢いのまま、惣次郎は木刀を横に払い、二人の男の手首を、その骨ごと完璧に砕いた。


手首が、ありえない角度で曲がる。


木刀が、骨と肉を砕く、凄惨な音が道場に響き渡った。


「ぎ、あああああぁぁぁっ!!」


彼らが叫ぶより速く、惣次郎は砕けた手首を見逃さず、上段から木刀を振り下ろした。


ドグシャァァァンッ!!


木刀が、一人の男の前頭骨を直撃した。


木刀が折れる音ではない。男の頭蓋が陥没し、脳髄が、その砕けた骨と共に飛び散る音がした。


男は一瞬、硬直した後、そのまま泥のように床に崩れ落ちた。


道場の黒光りする床板が、男の血と、脳髄で、凄惨に汚れ、幕末という時代の「法度ルール」を無慈悲に描き出していた。


鬼の兄弟、その完成


道場には、悶絶する一人の男と、再起不能の男たちが。


折れた木刀の破片。

そして、血と脳髄が、新宿のネオンよりも鮮烈に、僕の瞳に映っていた。


その惨状の中で、惣次郎レイは、静かに、無表情で佇んでいた。


かつての、現代のレイが持っていた恐怖や、忌避感は、もはやない。


今の僕の中にあるのは、自分の放った「突き」の完璧さと、その圧倒的な無双感に、魂が恍惚として塗りつぶされていく感覚。


(……痛くない。怖くない。……すごく、上質だ)


新宿での、僕は偽物だった。


客を騙し、先輩に媚び、自分が誰なのかも分からなくなるまで酒を飲み干す、ゴミだった。


けれど、ここでは。

この十代半ばの少年の体の中にいる僕は、ただの「惣次郎」として、かけがえのない、本物の天才として迎え入れられている。


「……惣次郎、お前はもう、鞘に入らぬ刀だ」


土方さんが、僕の肩に、冷たい手を置いた。

その瞳には、以前の冷徹な「殺意」はなく、どこか満足げな、けれど底知れない闇を含んだ光が灯っていた。


「……迷いは、死を招く。……組織を破る。……次こそは、容赦せん。……『誠』の旗の下、死ぬ覚悟がなければ、この道場を去れ」


土方さんの言葉は、規律のため、目的のためならば、愛する弟分さえも切り捨てかねない――そんな絶対的な冷酷さが、そこにはあった。


新宿の「レイ」という偽物は消え、僕は沖田惣次郎として、この鬼の副長の影の中に、一歩ずつ飲み込まれていった。


「……はい、土方さん」


僕の口から出たのは、子供らしい、けれどどこか諦めに満ちた声だった。


愛されている。


その事実が、この狂った幕末という時代の、何よりも残酷な「法度ルール」となって、僕の胸に深く刻み込まれた。


【史実解説】

黒船来航(1853年): マシュー・ペリー率いる米艦隊が浦賀に現れた事件。これにより、200年以上続いた「徳川の平和パス・トクガワーナ」が終焉を迎えました。当時の江戸市民はパニックに陥りましたが、同時に「これからは実力のある者がのし上がれる時代が来る」と予感した若者も多かったのです。

試衛館の面々: この時期の近藤勇、土方歳三、沖田総司(当時は惣次郎)たちは、多摩や江戸の周辺で剣術を教える「農民出身の武術家」に近い存在でした。彼らにとって、身分制度を飛び越えて幕府に仕えるチャンスなど、本来はあり得ないことでした。

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