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ゲロと誠 〜新宿のダメホスト、夢で沖田総司を極めて歌舞伎町の王になる〜  作者: 桐生宇優


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第二十四章:主従の契約、閨(ねや)のなかの法度

真夜中の歌舞伎町を、一台の高級外車が静かに滑り抜けていった。


向かった先は、西新宿の高層タワーマンション。


その最上階にある麗華の自宅は、アポロンのVIPルーム以上に密閉され、生活感を徹底的に排除した、大理石と冷たいガラスに囲まれた「城」だった。


エントランスの重い扉が閉まった瞬間、麗華はそれまでの張り詰めた空気を抜くように、ふっと小さくため息を漏らした。


だが、彼女が振り返るよりも早く、僕は背後からその細い腰を抱きすくめ、リビングの柔らかな絨毯の上へと押し込んだ。


ドレスの擦れる官能的な音が、静寂に満ちた部屋に響く。


「……っ、ちょっと待って、レイ君。シャワーくらい……」


麗華は小さく抗議の声を上げた。


彼女は歌舞伎町の頂点に君臨するNo.1ソープ嬢。

何千人もの男の性欲を操り、手玉に取り、大金を毟り取ってきたという圧倒的な経験値とプライドがある。

男がどうすれば喜び、どうすれば支配できるか、そのすべてを熟知しているという自負が、彼女の防壁だった。


だが、僕が彼女を見下ろす瞳に宿る「冷徹な愛」の前には、そんな夜のテクニックや経験値など、一陣の風に吹き飛ばされる塵芥ちりあくたに過ぎなかった。


【誇りの融解、本能の覚醒】


「シャワーなんて必要ありません。……僕が欲しいのは、その綺麗な仮面の裏にある、貴方の本当の鳴き声だけだ」


僕は彼女の両手首を頭の上で片手で抑え込み、完全にその身動きを封じた。

新選組の戦場で培われた肉体の合理性は、彼女が仕掛けようとするどんな誘惑の間合いも許さない。


僕は彼女の首筋に唇を寄せ、じわじわと熱を帯びる肌に、容赦なく、しかし狂おしいほど深く舌を滑らせた。


「あ……っ、ん……!」


麗華の口から、それまでの「女王」としての余裕を完全に失った、高くて甘い悲鳴が漏れた。


彼女は知っていたはずだ。


男を悦ばせるための愛撫の仕方も、焦らす方法も。


けれど、僕が彼女に与えているのは、現代の洗練された性愛ではない。


明日をも知れぬ幕末の夜、命を削り合いながら互いの存在を確かめ合った「人斬り」の、凄絶なまでの生命の脈動そのものだった。


お光さんへの純愛を胸に秘めた僕の魂は、目の前の孤独な女を「金」や「欲」で汚すことはしない。

ただ、彼女がひた隠しにしてきた寂しさを、その皮膚の裏側から力尽くで引きずり出し、抱きしめる。


優しさと、圧倒的な暴力性カリスマの同接。


その果てしない矛盾に、麗華の脳内の快楽中枢は一瞬で焼き切られた。


「ダメ……、そんな、触り方……知らない……っ、レイ、君、お願い……!」


麗華の瞳から、ぽろぽろと涙が溢れ、大理石の床を濡らしていく。


No.1としてのプライド、王賀の愛人としての意地、男を支配してきたという自負――そのすべてが、僕の冷徹な愛の炎によって、ドロドロと跡形もなく溶かされていく。


彼女はただの、愛に飢えた素直な一人の女へと、完全に「調教」されていった。


【裏切りの誓い、二重スパイの誕生】


夜が更ける頃、麗華は僕の胸の中に、完全に骨抜きにされた雛鳥のように収まっていた。


スリットの裂けたドレスの間から覗く白い肌には、僕が刻み込んだ情熱の痕が、赤く妖しく浮かび上がっている。彼女の瞳には、もう王賀を恐れる色は微塵もなかった。

あるのは、僕という存在への、狂おしいほどの絶対的な依存と崇拝だけだ。


「……レイ君。私はもう、あの男のところには戻れない」


麗華は僕の胸に顔を埋め、掠れた声で愛おしそうに呟いた。


「王賀は私をただの便利な道具としか思っていないわ。でも、私はあんたの犬になりたい。あんたのためなら、あの男を地獄に突き落としたっていい……」


僕は彼女の濡れた黒髪を優しく撫でながら、耳元で冷たく囁いた。


「いいえ、麗華さん。貴方は王賀社長のところへ戻るんです。……これまで以上に、従順な『愛人』の顔をしてね」


「……え?」


麗華が驚いて顔を上げる。


「あの男を内側から狂わせるんだ。肉体的にも、精神的にも、貴方のその身体と毒で、王賀の判断力を奪ってほしい。……僕たちの新選組が、あのアポロンを、そしてこの街のシステムを完全に掌握するその日まで」


麗華の瞳に、新たな「ゾクゾクとするような悦び」が灯った。


ただ愛されるのではない。僕という絶対的なあるじのために、闇に潜む『二重スパイ(忍び)』として機能すること。

それが、今の彼女にとって最大の快楽となったのだ。


「……分かったわ、私、やる。王賀の脳みそを、私の身体でとろとろに溶かして、あんたにすべての情報を差し出すわ。……だから、終わったら、また私を、こんな風にめちゃくちゃに愛してね」


麗華はそう言うと、僕の首に細い腕を絡め、素直な、どこまでも従順な口づけを求めてきた。


王賀社長の最も身近な牙城が、今、完全に崩壊した。


僕の手に入れた最強の「毒婦」という名の刃が、不夜城の支配者の喉元へ、静かに、しかし確実に突き立てられようとしていた。




【史実解説】

間諜スパイと新選組:新選組は、敵対組織である「御陵衛士」や「長州藩」の内部に何人もの間諜を送り込み、内部から情報を探って壊滅させる戦術(斉藤一の潜入など)を大得意としていました。レイが麗華を二重スパイに仕立て上げるのは、まさに幕末のリアルな暗闘戦術そのものです。

プライドの融解と忠誠: 幕末の志士たちに仕えた芸妓や遊女たちは、一度その男の「器」に惚れ込むと、命を懸けて秘密を守り、裏切り工作に加担しました。麗華がソープ嬢としての経験値を無力化され、レイの支配下に降ったのは、彼が持つ「命懸けの格好良さ」に魂の底から魅了されたからに他なりません。


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