全力ですれ違う
「まー君の好きな食べものは~やっぱこれだよね! 『ひじきのまぜご飯』!」
「俺の好きな食いものは、『ひじきのまぜご飯』!」
「お見事! 正解です!」
ギャルペアはピタリと正解。
意外と落ち着いた和食派だった。
「やったー! いんげんの和えものと悩んだんだけど、こっちにしてよかった!』「さすがみきりんだぜ! あと湯豆腐もいいよなあ」「筑前煮とも悩んだのー」とラブラブいちゃついている。そしてチョイスがひたすらしぶい。
「西田先輩の好きな食べもの『卵焼き』です。それも砂糖多めの甘いやつですね。先輩が小学校一年生の頃、仕事でお忙しいお母様が、運動会の日に合わせて時間がない中、焦がしながら作ったというハートフルエピソードがあります。先輩は好きなものは最後まで取っておくタイプですが、お母様の卵焼きだけはついつい真っ先に食べてしまうんです。他にも先輩は……」
「俺の答えは『甘めな卵焼き』」
「お見事! 正解です!」
中学生ペアもピタリと正解。
というかピタリと以上に正解。
「母さんのことまでよく知ってるな」「し、調べましたので……その、好きな人のことだから」「それって……」「な、なんでもないです」と青春劇を繰り広げているが、やはり西田先輩は出来るだけ遠くへ逃げた方がよさそうだ。
そして紬とジンのペアはというと……。
「前にはじめてファミレスに連れて行ったとき、ジンさんはこれを嬉々として食べていました。自信あります、間違いありません。答えはずばり、『ふわふわキャラメルパンケーキ』!」
「我の好きな食べ物は『チゲ』だな」(【チゲ】自体が【鍋物(鍋料理)】という意味なので【チゲ鍋】にすると意味がおかしくなります。)
「ブブー! はいハズレ!」
「――――なんでだよ!」
紬は思わず、画用紙とペンをツッコミと共にテーブルに叩きつけた。ブブーとかお茶目にも効果音を口で言った司会者は、「器物破損はダメですよー」などとほざいているが知ったことか。
「チゲ!? なんでチゲ!? よりによってチゲ!? おまえどのシーンでそんなもの食べてた!? 何ページの何コマ目だ言ってみろ!」
「落ち着くのだツムギよ! ま、魔界にいた頃に、人間界から料理本が流れてきて、それを参考に魔王と鍋パをしたのだ! 紬と人間界で食べたご飯も捨てがたかったが、魔王と試行錯誤しながら作った思い出がよみがえって、つい……」
「魔人と魔王がほのぼの鍋かこんでじゃねー!」
アットホームかよ!
おどろおどろしい魔王の城で、きゃっきゃっと鍋パが行われている様は、想像すればどこまでもシュールだった。どちらが鍋将軍をするかで揉めたらしい。平和か。
まあそんなジンの心温まるメモリアルは置いといて、さっそく一問目から外してしまったのは由々しき事態だ。
これヤバいんじゃね? と、紬に緊張が走る。
「ドンマイドンマイ、次行ってみよー!」
「二人の絆を見せてちょうだい」
悠由たちから激励が飛ぶが、その絆とやらが極薄のあぶらとり紙のようにぺらっぺらだから困っているのだが。なぜかジンは胸を張り、「うむ、次こそは大丈夫だ! 紬なら必ず当ててくれるはずだぞ!」と自信満々でこちらのハードルを上げている。
紬はさりげなくテーブルの下でジンの脛を蹴っておいた。
――――そして、紬の悪い予感は的中してしまう。
『相手or自分の一番恥ずかしかったエピソードを答えてください』という問いでは。
ギャルペアは付き合いたての頃のほのぼのエピソード、青春ペアは「だから彼女、なぜ知っている?」という幼少期の失敗エピソードをまたしても見事に当ててみせた。(むしろいよいよギャルペアの方が平和で青春ペアの方がヤバみが増してきた)
だがそこでも、紬たちは大ハズレ。
紬は『お化け屋敷で萌えキャラみたいな悲鳴を挙げたこと』と書き、ジンは『ツムギのお気に入りのフィギュアの腕を折ってしまい、慌ててアロンアルファでくっつけたこと』と答え、プチ戦争にさえ発展した。
「あのフィギュアやっぱりかー! なんか腕のつき方が不自然だと思ったんですよ! あれ? こんな関節異次元だっけ? みたいな! というかそれ懺悔でしょ! どこが恥ずかしかったエピソード!?」
「そんなミスをした己が恥ずかしかったのだ……! まさかあの完全なる造形美に傷をつけてしまうとは……。ごめんツムギゆるして!」
「許さんわ!」
言い争う二人は、それはそれで痴話喧嘩にしか見えなかったのだけれど、本人たちはあくまで真剣だ。
なお補足しておくなら、なんのフィギュアかは明確にしなかったため、ツムギの公開ヲタバレは免れた。普通にアニメキャラのフィギュアである。
ついでにジン的には、『お化け屋敷で萌えキャラみたいな悲鳴を挙げたこと』は決して恥ずかしいことではなく、止むを得ない生理現象だと開き直っていた。
他にも『体を最初に洗うところ』、『苦手なもの』、『行ってみたい場所』やらいろいろとお題が出されたが、他ペアは青春ペアが一歩リードで、ギャルペアと両者どちらもほぼ満点回答のデッドヒード。
観客席も大いに沸いた。
反して、紬とジンはぶっちぎりの最下位だ。
というか無得点である。
「ジンさん……私たち、まずは交換日記からはじめた方がいいのかもしれませんね……」
「と、遠い目をするなツムギよ! 次の問題が当たれば、こう、巻き返せる可能性もあるぞ! 勝負は最後までわからぬものだ! 諦めないで! 走り抜いて!」
「次でラスト問題じゃん! 可能性ゼロじゃん!」
うわーんとすでにお通夜モードで嘆いている紬だが、内心ではせめてラストくらい当てたい気持ちもあるにはあった。優勝はたぶんもう無理だが、最後くらい華々しく勝ち取って散りたい。
しかしここまでくると、観客席は青春ペアとギャルペアのどちらが勝つかを賭けていて、紬たちには見向きもしていない。ちょっと前までは応援してくれていた悠由たちも、「青春ペアにアイス二つ!」「ならギャルペアに購買のパン!」と競り合っていた。
圧倒的な裏切りである。
「せめてラスト問題、なにか確実に当てられるような、ラッキーなお題だといいんだけど……」
「――――さて、盛り上がってきました戦いもここらでフィナーレです! 最後のお題はこちら!」
紬の切実な呟きに重なるように、司会者がラストのお題を意気揚々と発表する。
その内容に、紬は目を見開いた。





