紬さんは反省する
間違った回答をしてしまったらしいチャラ男は、「ええ!? なんでぇ!?」と異を唱えている。
唱えたいのは紬も同じだが、どうやら引っかけ問題だったようで、問題文には続きがあるみたいだ。
「いいですか? ちゃんと最後までよく聞いてくださいね。お供の動物たちは、犬、猿、あともう一匹は……雉ですが、このキジは昔からよく歌や句として詠まれております。松尾芭蕉が詠んだ句を諳じてください」
――――むずっ!
いや難しいよ!
せめて句を紹介して、詠んだ人物を当てるとかならまだイケるけど『諳じる』ってなんだよ! 諳じさせるの!? なにゆえ!? 一問目から正解者ヘタしたらいないやつだよ!
……と、まったく答えのわからない紬は、内心でツッコミまくるが、そこでピンポーンとボタンを押したのはジンだ。
ジンはフッと微笑をこぼしながら、やたらいい声で回答する。
「『父母の しきりに恋し 雉の声』」
「はい正解ぃ!」
「マジか!?」
これには思わず、回答者席の後ろで見守っていた紬は声に出して驚いた。
観客もおお! と感心してざわめいている。
「まさか『マカイ』という異国の地からお越しの方が、この問題を解いてしまうとは驚きですね! よほど日本文化を勉強されたのでしょうか?」
「まあな。松尾芭蕉が高野山で詠んだ句だったか……このくらいの知識なら、我にとっては幼稚園で習うお遊戯レベルだ」
「強気な発言! なんとも強気な発言です! これはまたしてもこのペアが独走なるか!?」
――――そのあとも、ジンの快進撃はどんどん続いた。
「ジャイアントパンダの学名を答えよ!」
ピンポーン
「アイルロポダメラノレウカ!」
「正解!」
「驚くほど長いことで有名な、タイの首都・バンコクの正式名称をフルで答えよ!」
ピンポーン
「クルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロックポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット!」
「正解!」
「食虫植物の代表種五つを答えよ!」
ピンポーン
「ハエトリソウ属、ムシトリスミレ属、ネペンテス属、モウセンゴケ属、サラセニア属!」
「正解!」
「世界で一番長い川……はナイル川ですが、その長さを答えよ!」
ピンポーン
「6,650キロメートル!」
「正解!」
「漫画家が使う技法のひとつ、髪などで光が当たっている光沢部分の表現法を答えよ!」
ピンポーン
「ツヤベタ!」
「正解!」
くっそ、最後しかわからん……!
見守る紬はもうおいてけぼりで、もはやクイズを応援するというよりは、マニアックな知識のお披露目会を観賞している感じだ。
他の代表者たちもとっくのとうに諦め、「バンコクの首都なげえーすげー」やら「へえ、食虫植物にもいろいろあるんだな」やら、己が参加者であることを忘れて、完全にテレビ越しで見ている視聴者的な反応になっている。
「ていうかこの最終決戦、お題が誰の提案なのかいろいろおかし……」
「はい、終了おおおー!」
紬が根本的なところにもツッコもうとしたら、ちょうど司会者がクイズ終了の合図を高らかに告げた(発案者が司会者の可能性もある)。
もちろん、結果は聞くまでもなく、ジンの圧勝である。
「ジンさん!」
「おお、ツムギ! どうであった、我の勇姿は!」
回答者席が片付けられ、ステージ後方の席まで戻ってきたジンに、紬は素直に「すごかったですよ!」と称賛を送る。
「まさかあんなに、逆にフルで答えられたらちょっと引かれそうな知識まで……本当にびっくりしました。私との相談権とかいらなかったですね。相談されてもぶっちゃけわかりませんし」
「そうであろう、そうであろう。正直なところ、ツムギは我のことを舐めていただろうからな」
「はい! くっそ舐めていました!」
「ま、真正面から言われると傷つくな……」
「やっぱりジンさんって、普段はアホでも魔人なんですね。普段はアホでも!」
紬は褒めながらディスっていることにも気づかず、己の認識を反省した。
ついつい人間臭すぎて、尻尾も巻角も見えない今、魔人要素が希釈水で薄められたコーラ並みに薄かったが、さすがは出来る『魔人アシスタント』である。
「紬もお絵かきのときすごかったけど、ジンさんもすごいねー! これはマジのマジで優勝しちゃうんじゃない?」
「有り得そうよね。それにしても、ジンさんって改めて何者なのよ……。どこにある国かも不明だけど、『マカイ』の人はみんなああなの? ものすごいイケメンな上に頭もいいの?」
「なあ、アズマ。ジャイアントパンダの学名なんて初めて知ったな」
「だな、カズマ。アイル……なんだっけ、アイルランド?」
観客席の声も流れてきたが、なにはともあれ、こうしてひとつめのお題は紬無双、ふたつめのお題はジン無双で勝利を収められた。
絆ポイントはもう他の追随を許さないくらい、紬たちのペアはダントツで稼いでいる。
「もう勝ったも同然だな、ツムギよ。優勝賞品の『キラリンスペースガールズ限定グッズ』は、もうじき我々の手に……」
「それ負ける方の悪役っぽいですよ、ジンさん! 油断は禁物です!」
「安心しろ、奴は四天王でも最弱……」
「一回言ってみたかっただけだろう、その台詞」
あくどい顔でフフフと笑うジンを窘めつつ、実は紬も「これは勝ったな」と希望を抱いていた。いや、死亡フラグを自ら打ちてないよう、声にしては言わないが。
フラグを立てた上で、もし『ベタ漫画体質』な心田がここにいたら、確実にベタな目に遇ってしまうだろう。
それはさておき、次のゲームの準備が整った司会者が、マイクを持ち直して大仰に手を広げ、「さあ、次でいよいよラストのゲームです!」と宣言する。
「――――その名も『以心伝心ゲーム』!」
以心伝心? と、紬とジンは顔を見合わせて首を傾げる。
「これは例えば、『好きな色』というお題が出た場合、男性側は自分の好きな色をそのまま書いてください。逆に女性側は、男性側の答えを予想して書くのです。一致すれば正解! まさにペア同士の理解度が試される、絆こそがすべてのゲームです!」





