ジンさんのIQは1億らしい
結果的に言うと、お絵描き対決は紬たちの圧勝だった。
次々と繰り出される、いったいどう描いたら伝わるのかわからない『ダイオウグソクムシ』やら、『パルテノン神殿』やら、『ミトコンドリア』やら、『アクアパッツァ』という謎のお題にも柔軟に対応し、確実に勝ち点をあげていった。
ラストの『司会者の顔を描け』というお題では、思わず司会者が「あの、これ持ち帰ってもいいですか?」と思わず司会中に素で尋ねてしまうクオリティのものを仕上げてみせた。
悠由たちも「紬ったら、あんな特技があったのね」と感心しきりだ。
「やったな、ツムギ! 我が軍の完全勝利だぞ!」
「ええ、つい大人げなく本気を出してしまいました……しかし、悪くない」
絆ポイントも稼げて、紬とジンはご満悦だった。いそいそと自分の似顔絵を懐に仕舞った司会者は、サクッと次のお題に移行する。
「さて、お絵描き対決は一組の圧勝でしたが、次は他のペアもがんばってくださいね! それでは、『ペアの絆を確かめよう~私たちの愛は以心伝心マジ卍~』ゲーム! 次のお題はこちら! ずばり『早押しクイズ対決』です! 私が問題をランダムで出しますので、ペアのどちらかが代表で答えて頂きます。なお三回だけ、ペア同士での相談も可です。知識に自身のあるペアの方、どうぞ回答者席へ!」
「――――ふむ、ここは我がいこう」
紬がなにか言う前に、ジンがスッとプラチナブロンドの髪を揺らして立ち上がる。
出来るスタッフが風のように用意したクイズの回答者席に、堂々と歩み出そうとする魔人を、紬は慌てて引き留めた。
「ちょ、ちょっと待ってください、ジンさん! クイズなんて答えられるんですか? 魔界知識じゃダメなんですよ? この世界の知識が必要なんですから!」
紬の心配ももっともだ。
ジンがスポンジ並みの驚きの吸収力で、この世界の知識をどんどん取り入れたことは紬も知っている。普段はアホな言動が多くて忘れがちだが、ものすごく頭がいいことも。
しかし、魔人は魔人。
この世界のクイズなんて、より人間サイドの細かい知識が求められるだろう。若干常識的な知識ですらたまにズレているジンが、健闘できるかは一抹の不安を覚えてしまう。
「安心しろ、ツムギ。人間のクイズなど恐れるに足りん。我のIQは1億ある」
「その発言がもうIQ低そうなんですが本当に大丈夫ですか。幼稚園児が間違って自慢するみたいな数字ですけど大丈夫ですか」
「魔界でも全知全能の悪魔と『しりとり』をして、三日間の死闘の末に我が勝利を収めたことがある。我の『ス攻め』が利いたようだな……魔界の歴史に残る壮絶な戦いだった」
「すみません、やっぱり私が代表やるんで。ジンさんは隅っこで素数でも数えていてください」
「なぜだツムギィ!?」
引っ込んでいなさい、ステイ、ハウス。
そう紬は冷ややかな目でジンを諌めたが、ジンはよほど自信があるのか「やだやだやだ! 我が代表やるったらやる! 絶対に勝てるんだぞー!」と駄々をこねている。尻尾が見えていたら、激しく床に叩きつけて抗議していたことだろう。
そうこうしている間に他のペアは代表を決め、すでに回答者席に着席していた。
どちらも男側が代表のようで、「まー君、がんばってぇ!」やら「西田先輩、お、応援しています!」やら、女性側から黄色い声援が交互に飛び交っている。
「おおー! ヒロインがヒーローを支援する図が美しいですね! ヒーロー対決なるか!? これは盛り上がりそうです!」
司会者もそれを後押しするようなコメントをしている。
え、ここは空気を読んだ方がいいの……? と紬はしばし思案した。ここで紬が代表になってしまえば、『ヒロインがヒーローを支援する図』とやらが崩れてしまう。
いや、己をヒロインというのには抵抗があるし、ジンをヒーローと呼ぶのにはもっと抵抗があるが、単純に性別の♂♀を優先するなら、ここはヒーロー(仮)に見せ場を作るべきなのか。
でもアイツ、さっきのお化け屋敷では確実にヒロイン気取りだったしな……。
「どうした、ツムギ。イケメンなオークに遭遇したときのサキュバスのような、なんとも言えぬ複雑な表情をしているぞ」
「すごい、一ミクロンも想像できない例え。ジンさん、改めて聞きますが代表やりたいですか?」
「やりたい!」
「どうしても?」
「どうしても!」
「はあ……わかりました。仕方ないですから、ここは譲ります。ジンさんが代表をやってもいいですよ」
「ひゃっほう!」
エキゾチック美形は、片足と片腕を上げて、漫画のようなわざとらしさで喜びを表現した。
「さすがはツムギだ。ナイス采配というやつだぞ! 我はあのボタンが押したかったのだ!」
「動機それ……? ジンさん、人の家のピンポンとか、ファミレスの呼びベルとかもいつも押したがりますもんね」
どうやらジンは、回答するときにピンポーンと押す、回答者席に設置されている赤いボタンが押したかったらしい。
紬も押してみたい欲はあったので、まあわからないではないが。
「ただ答えもわかんないのに、ぜったい押しちゃダメですからね。問題がわからなかったら見送るか、私への相談権を使ってください。下手なことはしないように」
「うむ、心得た。まあ我にわからぬ問題など、魔界にも人間界にも存在せぬがな。だってIQ1億だし」
「はいはい一億、はいはい一億」
今回のお題は捨てるか……と紬が冷徹な戦略を立て直したところで、ジンも含めた回答者がそろい、司会者が「それでは問題を読み上げます!」と、問題の書かれているカードを手にする。
早押しなので、皆々が先手必勝を狙った緊張感で包まれていた。
「第一問! 日本昔話の『桃太郎』は、鬼退治に向かうのにきびだんごでお供を集めていきます。そのお供の動物たちは、犬、猿、あともう一匹は……」
ピンポーン! と軽快にボタンが鳴る。
押したのはギャルカップルのチャラ男で、「なんだ簡単じゃーん」とへらへらしている。紬も問題の思ったよりのやさしさに、これならジンさんでもイケるかも? と期待を抱いた。第一問は取られてしまったが、この調子なら次からはなんとか……。
「それではお答えをどうぞ!」
「答えはぁ、キジ!」
「はい残念!」
キジじゃないの!?
ぶぶーっという効果音に、紬はええ!? と驚いた。桃太郎のお供といえば、『犬、猿、キジ』だろう、常識だ。まさか『犬、猿、ジャイアントパンダ』なはずがない。
ちょっとウザキャラで行く方針らしい司会者は、チッチッチと指を振る。





