表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/53

マジ卍ゲーム

「なんだろう? 胡散臭いゲームだな……と思ったそこのあなた! 大丈夫、あなたの感覚は正常です。『ペアの絆を確かめよう~私たちの愛は以心伝心マジ卍~』ゲームとは、いろんな出題形式のお題をペアでクリアしてもらい、お互いの絆を試していく形になります。一勝負に勝つと、勝負ごとに設定された『絆ポイント』がもらえ、そのポイントの合計がもっとも高かったペアが優勝です。より簡単に説明すると、ペアの以心伝心な絆をマジ卍で確かめようということです卍!」


 なるほどわからん。


 でもなんとなく趣旨を理解した紬は、観覧車前の特設ステージ上に配置された、パイプ椅子へと腰かける。その隣にはジン。


 同じように間を開けて、お化け屋敷の宝探しを勝ち抜いた、上位三組が横一列に並んでいる。右から順位順なので、紬たちは一番右端だ。各挑戦者の前にはボックス型の机もあり、さながらクイズ番組で居並ぶ回答者のようである。


「紬ー! ジンさんー! がんばってー!」

「油断せず勝ちにいくのよ!」

「見届けてやるぜ!」

「見守ってるぜ!」


 ステージ下では、悠由たちを含めた一次敗者組が観客と化している。

 宝探しとは違い、こちらは肉体労働系より頭脳労働系で、おまけにギャラリーにお見せする趣向らしい。


「ふむ。ここからの眺めは悪くないな。マブダチの魔王に魔王ごっこさせてもらったとき、魔王城の最上階から民衆を見下ろしたことがあるが、これめっちゃ気持ちいいと羨ましく思ったものだ。あと玉座にも座らせてもらった。ふかふかだった」

「仲良しかよ。それにしてもペアの絆を確かめるなんて……大丈夫でしょうか。私とジンさんに絆なんてありましたっけ」

「ショック! それはショックだぞ紬! あるじゃん、我々には深い絆あるじゃん! 切っても切れない強い糸で繋がっているじゃん! 漫画家とアシスタントじゃん!」

「想像より業務上の関係!」


 とは言いつつ、紬自身にもジンとの関係は謎である。良好であることは確かだが、改めて絆だなんだ問われると懸念がわく。


 しかも戦うべく他の2組が、お隣はギャルとチャラ男の熱々っぽいカップル。


「ねえねえ、まー君。私たちの絆だってぇ。圧勝? みたいな? 見せつけてやろうよー」

「オレとみきりんの愛の力なら余裕っしょー」

「まー君……」

「みきりん……」



 その隣は、少女漫画している初々しい中学生カップル。


「き、絆とか、照れちゃいますよね、西田先輩。私なんて美奈子の代理で来ただけなのに……」

「……俺はもともと、浅野とペアで出るつもりだったけど」

「えっ」

「あのさ……これに勝てたら俺、お前に言いたいことあるから」



 …………チベットスナギツネの目でそんな二組を見据えた紬は、「とりあえず潰そう、全力で」と心の底から思った。

 端から見れば紬たちも十分にカップルなのだが、彼女に流れるヲタクの血が、リア充は決して許してはならないと細胞レベルで訴えているのだ。


「ジンさん、容赦は無用です。他者を蹴落としてでも、勝つことこそ正義。負け犬に価値などありません」

「ど、どうした紬。急に鬼軍曹みたいなことを……」

「返事は!?」

「イエス、サー!」


 紬の迫力に押されて、ジンはビシッと敬礼する。良し、と紬は大仰に頷いた。

 きっとジンは黒いかっちりした軍服などを着たら、普段の残念さなど忘れるくらいきまってカッコいいのだろうが、紬の前だとどっちにしろ完全に下っぱだった。


 空は陽の落ちた薄闇。

 パッとステージの照明がついて、司会者が第一のお題を発表する。


「それでは! 第一のお題は……『お絵描き』です!」

「お絵描き?」

「だと……?」


 紬(漫画家)とジン(アシスタント)の目が鋭く光る。


「ルールは簡単! こちらから出すテーマをペアの片方に書いてもらい、それがなになのかをもう片方が当てます! 三回勝負で、描く側は一度選んだら変更は利きません。画力がある方がもちろん有利ですが、ペアの描いたものがペア間でちゃんと伝わるかが肝ですね!」


 画力、というワードにも、紬はピクリと反応する。

 司会者が「それでは意気込みを聞いていきましょう!」と、中学生カップルから順にインタビューを行っていった。


「うえー、俺、絵はちょー苦手。美術とか成績死んでたわー」やら、「か、描く方になっても当てる方になっても、先輩には迷惑かけないよう頑張ります」やら。


 無難な回答が続く中で、紬たちにマイクが向けられる。


「一位のペアのお嬢さん。どうですか? 勝てそうですか?」

「『勝てそう』、『勝てそうじゃない』、という次元の話ではありませんね。勝たねばならない。プライドにかけて」

「お、おおう……なにやら獲物を刈るハンターの目をしておりますね! 相当の自信があるようです! 外国人さんの方はいかがですか?」

「これは聖戦だな。我々の誇りを守るための戦いだ」

「一体この二人はなにと戦っているのでしょうか!? 司会者である私にもさっぱりですが、勝つ気満々なことは伝わりました!」


 ステージの下では悠由と凛子も、紬とジンの静かな闘志に当てられ、「あんな真剣な目をした紬、はじめてみたよ!」「白熱した戦いになりそうね……」と息を飲んでいる。

 

 本職の意地で、紬はここはなんとしてでも勝ち取りたかった。

 ジンと顔を突き合わせて、到底遊園地のイベントだとは思えない、マジ過ぎる作戦会議を行なう。 


「いいですか? ジンさん……いや、ジン一等兵。ここからはオフザケなしです。私が絵を描く方に回るので、ジン一等兵は死ぬ気で当ててください。いや当てろ」

「イエス、サー! お任せください長官! 長官の絵を一番近くで現在進行形で見ているのは、この我です! 大人げないと罵られようと、完膚なきまでに敵を叩き潰します!」

「よく言った! 負けることは死と同じ! はい復唱!」

「負けることは死と同じ!」

 

 よっしゃいくぞー! と、紬とジンは拳を突きだす。

 ぶっちゃけそこまでの気合をいれずとも、この『お絵かき』のお題は小手調べで、テーマも単純なら得られる絆ポイントも低いのだが。

 

 司会者が絵描き担当の方は集合するよう呼びかけて、紬は颯爽と立ち上がって歩いていく。

 変なスイッチが入ったままなので、ジンと目配せするとグッと親指を立てた。ジンはそれにまたしても敬礼で答える。


「行ってくる」

「ご武運を」


 こうして明らかに一組だけテンションの浮いた、第一のお題がスタートしたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版が4/17、ファン文庫から発売です!
タイトルがちょっと変更してます~
内容はけっこう改稿しておりますが、ほっこりコメディなところは同じです♪
よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ