マジ卍ゲーム
「なんだろう? 胡散臭いゲームだな……と思ったそこのあなた! 大丈夫、あなたの感覚は正常です。『ペアの絆を確かめよう~私たちの愛は以心伝心マジ卍~』ゲームとは、いろんな出題形式のお題をペアでクリアしてもらい、お互いの絆を試していく形になります。一勝負に勝つと、勝負ごとに設定された『絆ポイント』がもらえ、そのポイントの合計がもっとも高かったペアが優勝です。より簡単に説明すると、ペアの以心伝心な絆をマジ卍で確かめようということです卍!」
なるほどわからん。
でもなんとなく趣旨を理解した紬は、観覧車前の特設ステージ上に配置された、パイプ椅子へと腰かける。その隣にはジン。
同じように間を開けて、お化け屋敷の宝探しを勝ち抜いた、上位三組が横一列に並んでいる。右から順位順なので、紬たちは一番右端だ。各挑戦者の前にはボックス型の机もあり、さながらクイズ番組で居並ぶ回答者のようである。
「紬ー! ジンさんー! がんばってー!」
「油断せず勝ちにいくのよ!」
「見届けてやるぜ!」
「見守ってるぜ!」
ステージ下では、悠由たちを含めた一次敗者組が観客と化している。
宝探しとは違い、こちらは肉体労働系より頭脳労働系で、おまけにギャラリーにお見せする趣向らしい。
「ふむ。ここからの眺めは悪くないな。マブダチの魔王に魔王ごっこさせてもらったとき、魔王城の最上階から民衆を見下ろしたことがあるが、これめっちゃ気持ちいいと羨ましく思ったものだ。あと玉座にも座らせてもらった。ふかふかだった」
「仲良しかよ。それにしてもペアの絆を確かめるなんて……大丈夫でしょうか。私とジンさんに絆なんてありましたっけ」
「ショック! それはショックだぞ紬! あるじゃん、我々には深い絆あるじゃん! 切っても切れない強い糸で繋がっているじゃん! 漫画家とアシスタントじゃん!」
「想像より業務上の関係!」
とは言いつつ、紬自身にもジンとの関係は謎である。良好であることは確かだが、改めて絆だなんだ問われると懸念がわく。
しかも戦うべく他の2組が、お隣はギャルとチャラ男の熱々っぽいカップル。
「ねえねえ、まー君。私たちの絆だってぇ。圧勝? みたいな? 見せつけてやろうよー」
「オレとみきりんの愛の力なら余裕っしょー」
「まー君……」
「みきりん……」
その隣は、少女漫画している初々しい中学生カップル。
「き、絆とか、照れちゃいますよね、西田先輩。私なんて美奈子の代理で来ただけなのに……」
「……俺はもともと、浅野とペアで出るつもりだったけど」
「えっ」
「あのさ……これに勝てたら俺、お前に言いたいことあるから」
…………チベットスナギツネの目でそんな二組を見据えた紬は、「とりあえず潰そう、全力で」と心の底から思った。
端から見れば紬たちも十分にカップルなのだが、彼女に流れるヲタクの血が、リア充は決して許してはならないと細胞レベルで訴えているのだ。
「ジンさん、容赦は無用です。他者を蹴落としてでも、勝つことこそ正義。負け犬に価値などありません」
「ど、どうした紬。急に鬼軍曹みたいなことを……」
「返事は!?」
「イエス、サー!」
紬の迫力に押されて、ジンはビシッと敬礼する。良し、と紬は大仰に頷いた。
きっとジンは黒いかっちりした軍服などを着たら、普段の残念さなど忘れるくらいきまってカッコいいのだろうが、紬の前だとどっちにしろ完全に下っぱだった。
空は陽の落ちた薄闇。
パッとステージの照明がついて、司会者が第一のお題を発表する。
「それでは! 第一のお題は……『お絵描き』です!」
「お絵描き?」
「だと……?」
紬(漫画家)とジン(アシスタント)の目が鋭く光る。
「ルールは簡単! こちらから出すテーマをペアの片方に書いてもらい、それがなになのかをもう片方が当てます! 三回勝負で、描く側は一度選んだら変更は利きません。画力がある方がもちろん有利ですが、ペアの描いたものがペア間でちゃんと伝わるかが肝ですね!」
画力、というワードにも、紬はピクリと反応する。
司会者が「それでは意気込みを聞いていきましょう!」と、中学生カップルから順にインタビューを行っていった。
「うえー、俺、絵はちょー苦手。美術とか成績死んでたわー」やら、「か、描く方になっても当てる方になっても、先輩には迷惑かけないよう頑張ります」やら。
無難な回答が続く中で、紬たちにマイクが向けられる。
「一位のペアのお嬢さん。どうですか? 勝てそうですか?」
「『勝てそう』、『勝てそうじゃない』、という次元の話ではありませんね。勝たねばならない。プライドにかけて」
「お、おおう……なにやら獲物を刈るハンターの目をしておりますね! 相当の自信があるようです! 外国人さんの方はいかがですか?」
「これは聖戦だな。我々の誇りを守るための戦いだ」
「一体この二人はなにと戦っているのでしょうか!? 司会者である私にもさっぱりですが、勝つ気満々なことは伝わりました!」
ステージの下では悠由と凛子も、紬とジンの静かな闘志に当てられ、「あんな真剣な目をした紬、はじめてみたよ!」「白熱した戦いになりそうね……」と息を飲んでいる。
本職の意地で、紬はここはなんとしてでも勝ち取りたかった。
ジンと顔を突き合わせて、到底遊園地のイベントだとは思えない、マジ過ぎる作戦会議を行なう。
「いいですか? ジンさん……いや、ジン一等兵。ここからはオフザケなしです。私が絵を描く方に回るので、ジン一等兵は死ぬ気で当ててください。いや当てろ」
「イエス、サー! お任せください長官! 長官の絵を一番近くで現在進行形で見ているのは、この我です! 大人げないと罵られようと、完膚なきまでに敵を叩き潰します!」
「よく言った! 負けることは死と同じ! はい復唱!」
「負けることは死と同じ!」
よっしゃいくぞー! と、紬とジンは拳を突きだす。
ぶっちゃけそこまでの気合をいれずとも、この『お絵かき』のお題は小手調べで、テーマも単純なら得られる絆ポイントも低いのだが。
司会者が絵描き担当の方は集合するよう呼びかけて、紬は颯爽と立ち上がって歩いていく。
変なスイッチが入ったままなので、ジンと目配せするとグッと親指を立てた。ジンはそれにまたしても敬礼で答える。
「行ってくる」
「ご武運を」
こうして明らかに一組だけテンションの浮いた、第一のお題がスタートしたのである。





