イベントスタート!
ハリネズランドのお化け屋敷は、ちょっと洒落にならないくらい怖いことで有名で、まずテーマが『とある廃れたいわくつきの小さな病院』であり、三階建ての建物でそこそこの広さがある。
容赦せずに血糊メイクの看護師さんや、腐敗した死体っぽい人に襲われ、なぜベストを尽くしたのか、仕掛けも盛りだくさんな阿鼻叫喚スポットである。
そんな入り口前には、ペアを組んだ男女がわいわいと何組も集まっていた。
テンション高めのイベントの司会スタッフが、マイクで概要を読み上げる。
「みなさんこんにちは! 本日はハリネズランド特別企画・『わくわくお宝さがし』にご参加頂きありがとうございます! はいここで拍手! 皆様にはこれからこの当遊園地が誇る、悪夢のお化け屋敷にペアで順番に入ってもらい、制限時間内に『お札』を探してもらいます! お札には点数が書かれていて、その合計数が高い上位三組までが、最終決戦会場へと進めるわけです! あーゆーおっけい?」
ノリのいい参加者から「おっけぇい!」と返事が響く。
「つまりお宝がそのお札ってことなんだねー。私こういうの好きだよ、やる気でる!」
「ここからは敵よ、負けないからね、悠由、紬」
合流した悠由と凛子は気合い十分。それぞれのペアであるオギハギコンビも、相変わらずどっちが荻でどっちが萩かは定かではないが、ライバル意識を持って闘志を燃やしているようだ。
紬も皆に合わせて「うん、私もがんばるよ!」と、朗らかな笑顔で拳を握る。
――そんな彼女のペアはというと。
「……ジンさん、さっきからルール説明も聞かずに、はしっこでなにやってるんです?」
「暫し待て。いま遺書をしたためておる」
「遺書ってなに死ぬ気!? お化け屋敷くらいでショック死予定!?」
「紬よ……短い間だったが世話になったな。貴様の作るカレーの味、悪くなかった……」
「すごく儚い微笑みで思い出を語らないで! あんたの作るカレーの方がスパイスからの本格派の癖に!」
「嗚呼、お化け屋敷とはとみにおそろしき、我が命ここで潰えん……」
「辞世の句まで詠まないで!」
どんだけビビってんだこのチキン魔人。
イケメンが台無しなジンを、周囲の参加者はチラチラと物珍しげに見ている。黙っていれば変なTシャツを着ていても極上の美形なのに、ここまで残念を極められるのも才能だなと紬は思った。
「紬、ジンさんってば大丈夫?」
「なんか消え入りそうな様子ね……しかもぶつぶつとお経を唱え出したけど」
「ああ、大丈夫、大丈夫。彼の国では、あれが勝負の前に行う儀式の一貫だから」
ジンを心配してくれる悠由と凛子を誤魔化して、紬は丸まるジンの背をポンと叩く。するとジンは過剰なまでにビックゥ!と肩を跳ねさせた。
こっちがビビる。
「ジンさん、今ちょっと頑張ってくれたら、後でご褒美をあげますよ。……そうですね、ジンさんが前から行きたい行きたいって騒いでいた、回転寿司に連れていってあげます」
「! なに!? あのTVで見たくるくるするお寿司か!?」
紫の目をパッと輝かせ、ジンは勢いよく食い付いた。よしよしと、紬はさらに畳み掛ける。
「ええ、くるくるするお寿司です。すごいですよー永遠に回り続けますよー。他にもそう、スープバーのあるファミレスにも連れていきますよ。何杯飲んでも大丈夫! おかわり自由!」
「おお……! ドリンクだけではなく、スープまで飲み放題という幻の……!?」
「さらにはなんと! ファーストフード店に、立ち食いそばも! 普段は節約して控えている安上がり系外食だけど、ジンさんが好きそうな飯テロの旅にご招待!」
「飯テロとな……!」
~ジンさん脳内劇場~
ダダダダダッ!(と機関銃が火を吹いているように聞こえる、まな板で野菜を切る音)
「こちらB班。街はカレーで制圧した。当分はカレー以外食えないだろう。次はどうする?」
「隣街でパンVS米の炭水化物の内乱が続いているようだ……ご飯側に加勢して、お茶漬けで攻めるか」
「卵かけご飯もいいな」
チュドーン!(と爆発音ぽく聞こえる、鍋が沸騰する音)
「飯テロリストの名にかけて、美味しさの嵐を起こすぞ」
「俺達が参戦すれば、戦いなどすぐに終わる……ご馳走様を言わせてやるさ」
~了~
「…………うむ、悪くないぞ、飯テロ。なかなかにワイルドだ」
「おい、今なんか変な想像していただろ。あーもう、そうこうしている間に、順番決めのクジが始まってますよ!」
紬たちがくだらないコントを繰り広げている間に、宝さがしのルール説明は終わり、運営側はお化け屋敷に入るペアの順番を、簡単なくじ引きで決めようとしていた。
一ペアが終了するごとにお札は補充されるので、順番が先か後かで、お札の枚数的な有利不利はない。それならば、他のペアの様子を見て対策を立てられる、後組の方が戦略的にはまだ有利かもしれない。
またそのことを差し引いても、トップバッターというのは理屈じゃなく緊張する。
紬は悠由たちと顔を見合わせて、「後の方がいいね」と、司会者が順番を発表するのを待つ。
少しは精神の安定を取り戻したジンも、「一番はおばけが気合いを入れてそうで嫌だ」という理由で、なるべく後になるよう念を送っている。
しかし、今日のジンはとことん追い詰められる日のようだ。
「それでは、栄えある一番目のペアは――壬生紬さんと、マジーン=ホンマカイナ=ジンさん! ジンさんは外国の方かな? どうぞ先んじて、恐怖の血みどろ世界をご堪能ください!」
参加者欄に適当に書いた自分の名前が呼ばれたと同時に、ジンは膝から崩れ落ちた。紬は「あー」と頬をやるせなく掻く。
「一番か、頑張ってこいよ!」
「運がないなー。でも案外最初の方がいいこともあるかもだし、検討を祈るぜ」
オギハギコンビに激励をもらい、悠由と凛子に見送られて、紬とジンはついにお化け屋敷の入り口に立った。
背中に突き刺さる、参加者たちの好奇に満ちた視線が痛い。
これだからトップバッターは嫌なのだと思いつつも、紬は切り替えてふうと呼吸を整えた。
隣のジンに「行きますよ」と声を掛けて、ボロボロの病院のガラスドアに手を掛ける。
――どんな恐ろしい目に遇おうと、必ずやお札をたくさん手に入れて決勝に……。
「いやああああああああ!!!」
「うるさっ! ジンさんうるさっ! まだお化け屋敷に入って一歩目でうるさっ! 後ろのドアがちょっと音立てて閉まったくらいで、ガチの悲鳴あげすぎでしょ!? あと本当に乙女も真っ青な悲鳴だな!」
……すでにお札集めどころではなさそうな、前途多難であった。





