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遊園地でも職業病です

 ハリネズランドはその名のとおり、愛らしいハリネズミがモチーフのため、園内の至るところにチクチクトゲが生えている。ただもちろん、お子さまが怪我をしないように、先端は丸くちょっとした凹凸程度のトゲである。


 紬たちは最初、全員でメインのアトラクションをいくつか回ったあとは、自然と気の合うもの同士で別れて、しばし自由に回ることとなった。

 またみんなで乗りたいものがあったら、誰かが文明の利器で収集をかけるという手筈だ。


 夕方のイベントまでは、このスタイルで各々遊び倒すこととなった。



「んー、私はどっちかというと、満遍なくぜんぶのアトラクションを制覇したいタイプなんだよね。パレードも覗きたいし、キャラのグリーティングも回りたい」

「あ、俺もそんな感じ。特に苦手なものないし、いろんなものを楽しみたいな」

「よし、じゃあ一緒に行こうかカズマくん!」

「俺アズマな!」


 悠由とアズマのオールラウンダー組は、遊園地を端から端まで遊び尽くすプランで。



「ぬるいアトラクションには興味ないわ。乗るとしたら絶叫系オンリーよ。ジェットコースターは全種類二回ずつは行きたいところね」

「お、それなら耐久勝負しようぜ! どっちが先にダウンするか乗りまくるってのはどうだ?」

「体調を崩さない範囲でなら受けて立つわ。いくわよ荻!」

「俺は萩な!」


 凛子とカズマの体育会系組は、とにかく絶叫を中心に攻めるプランで。



 そして紬とジンのコンビはというと……。


「ツムギよ! ここからのアングルが、一番観覧車が細部まで綺麗に見えるぞ! 背景用にパシャッと一枚だ! 角度を変えてあと数枚は撮っておくのがよいと思われるぞ!」

「よしきた。確認OKです! 撮影の方はお任せします!」

「む。いいところに推定高校生くらいのカップルが。デート用の服装の参考になるとみた。身長差、体格差、彼氏の鈍感具合に彼女のツンデレ加減もいい感じだな。モデルとして申し分ない」

「観察OK。メインヒロインにはやっぱり短めのスカート穿かせる方向でいきましょう。風でスカートがめくれる王道ラキスケイベントを挟むのもありですね。いや、いっそ制服で遊園地デートでも……?」

「遊園地だとモブの描き込みが少々骨が折れそうだな……ふむ。ファンシーな耳付きカチューシャや、被り物などをしているキャラが背景にいた方が、それっぽいのではなかろうか」

「提案OK。資料用にそういったものをいくつか購入しましょう」


 ……こちらはジンがカメラを構え、紬はメモ片手に鋭い視線を周囲に走らせて、漫画の参考になりそうな写真集めや人間観察に全力を注いでいた。


 本日はオフとはいえ、紬とジンは漫画家とアシスタント。

 根っからお仕事には真面目な二人は、ついつい職業病をいかんなく発揮させてしまっていた。


「くっ、なんということだ、このデジカメの手振れ補整機能はもはや職人の御技……! 肌艶もこんな美しく取れるとは……シャッターを押す手が止まらぬな! おお、この『はいぱービハダもーど』とはなんだ!?」

「でも制服デートかあ……! 前に下校デート回をサブヒロインちゃんメインで描いたし、新鮮さを求めるなら私服かな。『恋ギガってワンパターン多いですよね』とかアンケに書かれたくないし……!」

「む、ツムギ。我はあそこで売っているチュロスが食べたいぞ」

「じゃあ私はココア味で」

「我はプレーンで」


 お互いがお互いの世界に入り込みつつ、それでもなんとなく互いが好きなときに遊園地を満喫している。紬としてもジン相手に下手な気を遣う必要もなく、気軽に漫画家モードと外行きモードを切り替えられるので、大変気楽だった。


 紬からもらったお小遣い(別名アシスタント代)を入れたがま口財布を携え、ジンは売店に棒状のチュロスを二本仕入れに行く。程なくして、首から掛けた紐付きのカメラを揺らしながら、ジンはベンチで休む紬のもとへと戻ってきた。


「お使いありがとうございます、ジンさん……ってチュロス長ッ! さっきのカップルが食べているのより1.5倍の脅威の長さ!」

「おお、なにやら売店のすたっふさんが、『ブロンドイケメン超タイプ……!』と、特別サービスをしてくれたぞ!」


 イケメン強い……と思いながら、紬は有難くココア味のチュロスを受け取り、持ち手の包み紙の部分から覗く、カリッと揚げられた先端を齧る。表面の小気味のいい食感に反し、中はもちもち。ほんのりココア風味も甘すぎず美味しい。


「美味だな」

「ですねえ」

 

 ベンチにジンと並んで腰かけて、食べかけのチュロス片手に、ほのぼのと園内を見渡す。波乱万丈かと思いきや、今のところ怖いくらい平和だ。

 みんなできゃっきゃっと遊園地もある程度は回れたし、気心の知れているジンと過ごすのも楽しい。ジンも紬の忠告を守ってか、羽目を外し過ぎない程度に満喫している。この後が本番のイベントという懸念材料はまだあるが、案外乗り切れそうである。


「……と、安心したあたりで落とすのが、漫画では常套手段ですよね」

「? なんの話だ、ツムギよ」

「起承転結の話ですよ」


 そんな会話をしながらチュロスを三分の二まで食べたところで、悠由からの連絡が入った。みんなでぜひ体験したいアトラクションがあるということで、一度集合しようというお誘いである。メッセージアプリに踊るそのアトラクションの内容に、紬は「あーこれかあ……」と隣のジンをチラ見する。


「ジンさん、悠由からのお誘いなんですけど……」

「おお、なんだ? 我は紬と二人で遊園地を回るのも好きだが、皆で遊ぶのも嫌いではないぞ! また観覧車か? メリーゴーランドか?」


 無邪気にアメジストの瞳を輝かせるジンに、紬がボソボソと「お化け屋敷です……」と告げれば、ジンの手からポトリと食いかけのチュロスが膝へと落下した。

 


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書籍版が4/17、ファン文庫から発売です!
タイトルがちょっと変更してます~
内容はけっこう改稿しておりますが、ほっこりコメディなところは同じです♪
よろしくお願いいたします!
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