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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第二期中期経営計画

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97/203

異83系統 ヒアコディアテ村〜トゥーヤ湖〜ニアカーマ峠〜モーセッツ氷河展望台

2024年10月9日にカクヨムで公開したものです。

 まだ10月だというのに、すでに雪が舞っている王国北部の峠道。

 道路に積雪は無いものの、路面が凍結している箇所もあって滑りやすくなっている。


『次はニアカーマ峠。バスのすぐ前や後ろの横断は非常に危険です。バスの発車後、左右をよく見て横断しましょう』


 トランセはスリップしないように慎重に運転をしていた。

 今は営業運行中で、回送ではない。お客さんの命を預かっているのだ。

 事故なんて絶対に起こしてはいけない。


 車内にいる乗客は女性が一人だけ。

 女性は物憂げに窓の外の景色を眺めている。


 このバスの行き先は何も無い山奥だ。

 彼女は一人でどこへ行こうとしているのだろうか?


 女性の纏う雰囲気も相まって、少々不安になる。


 と、その時だった。

 カーブに差し掛かったところでハンドルを切ろうとしたらタイヤが空転し、車両が制御を失ってしまった。


「やべぇっ!」


 慌ててブレーキを踏むも、効果は無し。

 勢いそのままに崖の方へと車体は滑り続ける。


「落ちる落ちる!」


 やっちまった。これは終わった。

 もう駄目だと悟り、トランセが覚悟したのと同時。


 車内に凛とした声が響いた。


「道なりに進んで。安全に停まって」


 その命令のような詠唱に、スリップしていたバスがどういう原理か従った。

 コントロール不能だったはずのバスは、なぜかカーブをしっかりと曲がって路肩に停車したのである。


 呆然としたままトランセが固まっていると、乗客の女性が一言。


「大丈夫?」


 運転席を覗き込まれて、そこでトランセはようやく我に返る。


「あっ、すんません。マジ助かったぜ……」


 敬語も忘れて感謝を口にすると、女性はこくりと頷いた。


「わたしは勇者だから。人を助けるのは当たり前」


 そしてすぐに元いた席へと戻っていった。



 トランセは安全確認をしてから、再びバスを発進させる。


 あの乗客の女性は、自分のことを勇者だと名乗っていた。

 その上、先ほど見せた世界の原則すらも捻じ曲げる、詠唱と呼ぶにはあまりに異質な命令調の魔法発動。


 あんなものが使える人間は、まるで。

 千年前に世界を救ったと言われている英雄、言霊《ことだま》のヨミみたいだ。


 冒険者なら誰もが知るその名前。

 魔導士なら誰もが憧れるその力。


 しかし誰も、彼女の姿を知らない。

 だから伝説の、噂の、おとぎ話の存在として扱われている。


 もちろんトランセは実在していると信じているけれど。


 まさか今乗せている女性が、その言霊のヨミ本人であるとは夢にも思っていなかった。

次回からは4話連続で『魔王のリベンジ編』をお送りします

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