異80系統 ムグルム高原〜カルコッタ村〜サラスティア湖〜王都北門
2024年9月11日にカクヨムで公開したものです。
『次はラルハイト遺跡。王国騎士団からのお知らせです。最近、冒険者による遺物の無許可持ち出しが増えています。正式な許可無く遺物を遺跡の外に持ち出すのは犯罪です。絶対にやめましょう。また、そのような行為を見かけた際には騎士団まで報告をお願い致します』
次の停留所が近づいてくると、待っているお客さんの姿が見えた。
マルメラーダはブレーキを踏んでバスを停車させると、前扉を開けた。
「お待たせしましたぁ。王都北門行きですぅ」
乗り込んできたのは、ぱっとしない少年と美しい少女の二人組。
カップルにしては不釣り合いな組み合わせに思える。
「二人分、まとめて頼む」
「は〜い。少々お待ちくださいねぇ」
マルメラーダがボタンを押して運賃箱の設定を変更すると、少年が少女の分の運賃も支払った。
後部座席に腰掛けた二人に対してミラー越しに疑りの目を向けながら、前扉を閉める。
それから左右確認をして、バスを発進させた。
『次は自然散策木道入口。モーステン湿原を一望出来る絶景の宿。見晴らし小屋へはこちらが便利です』
しばらくして、後ろから少年と少女の会話が聞こえてきた。
「流石はダイレクター。全て計算通りだったんですね?」
「ん? あ、ああ。もちろんだとも」
「まさかあんな場所で、言霊のヨミと出会うとは。私にはヨミがこの国にいることすら、把握出来ていませんでした」
「ふっ。ジュライの情報網にはまだまだ隙が多い。協力者を増やすことだ」
「承知しました、ダイレクター。今後はより一層、人脈の構築に努めます」
会話の内容から、マルメラーダは彼の正体を推測し、そして得心がいった。
なるほどぉ。あいつが月夜野かける。
闇の組織ムーンサルトを率いる異世界人ですかぁ。
マルメラーダが抱いた違和感は、やはり間違っていなかった。
一年近く探し続けていたターゲットを、ついに発見することに成功。
今日の業務を終えたら、早速先輩に報告しなくては。
大好きなクシーディの役に立てたことが嬉しくて、ついついスピードを出しそうになって、慌ててアクセルを緩める。
ただ。
言霊のヨミこと語部読については、今はまだ先輩に伝えるつもりはなかった。
読もまた異世界人で、ザカリ正教では最高レベルの禁忌として最重要処分対象に指定されている。
しかし、読は千年前に魔王を倒した伝説の勇者だ。
とてもではないが、先輩が戦って殺せるような相手ではない。
ずっと孤独だったマルメラーダにとっては、クシーディだけが唯一信頼できる人間で。
死んでほしく、ないから……。
「マルメラーダは先輩のためなら、神にだって逆らってやりますよ」
エンジン音に紛れるほどの小さな声で、マルメラーダはそんな信徒らしからぬ決意を呟いた。




