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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第一期中期経営計画

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異25系統 王都東門〜王城前〜ウィリアニス中央市場〜王都西門

2023年5月31日にカクヨムで公開したものです。

 夜遅くの最終バス。電気が存在しないため街中とはいえ外は真っ暗闇で、バスから漏れるLED蛍光灯の光が周囲を異様なほどに明るく照らし出す。

 その車内には一人だけ乗客がいた。蛍光灯よりも眩しく輝く若い女性だ。


 このめちゃくちゃ可愛い人、誰かに似てるよな? 誰だっけ?


 そんなことを考えつつ車内放送の操作ボックスのボタンを押すと、次の停留所を案内する自動音声が流れる。


『次はモーサラグ通り。あなたの理想の物件がきっと見つかる、ラディック不動産へはこちらが便利です』


「あっ、降りなきゃ」


 呟いた女性がポチッと降車ボタンを押す。


『次、停まります。バスが完全に停車するまで、席を立たないで下さい』


 ああ残念。結局似てる人を思い出せなかった……。


 停留所に到着したので後ろの扉を開ける。


「ありがとっ、運転手さん☆」

「ありがとうございました」


 降り際に挨拶してくれたので、こちらも挨拶を返す。


 にしても、声までその誰かに似てたような?

 思い出せないのモヤモヤする〜!



 それから終点まで無人のままバスを走らせ、私は営業所へと戻った。

 いつもの駐車場所に停めて、車内点検してからバスを降りる。


 すると、並んで停められたバスとバスの隙間から急に人影が現れた。


 はやて? いや違う。はやてなら今は夜行バスの乗務中だ。

 なら所長? ううん、所長は仕事が済んだらさっさと帰宅してるはず。

 じゃあこころ? って、こころがそんないたずらするわけないし。


 そうこうしているうちに、人影がどんどんとこちらへ近付いてくる。

 全身黒い服装をしていてまだよく見えないが、体格からして男性だろうか。


「ど、どちら様ですか?」


 恐る恐る問いかけると、その男が答える。


「嫌だなぁ、もう。僕だよ僕」

「いや、ちょっと分からないのですが……」

「ほら、僕だよ。分かるでしょ?」


 至近距離まで迫られて、ようやく顔が見えた。

 しかし、見えたところで知らない人だった。


「サワヤマちゃん。結婚しよう」

「えっ!? は?」

「僕がバスを降りた後、いつも君はオレンジ色の光を5回点滅させる。あの光の意味は『愛してる』ってことだよね? だから、結婚しよう」


 何なに怖い怖い! この人なんで私の名前知ってるの?

 ウインカーの回数とか完全に無意識だし、勝手にドリカムっぽい解釈しないでほしいし。


「いや、それ、あなたの勘違い……」

「結婚、してくれないの? 僕のこと騙したの?」

「別に騙しては……」

「この裏切り者」


 男が突然、鞄から短剣を取り出した。


「きゃあっ!」


 恐怖のあまり一歩も動けなくなってしまった私に、短剣の切っ先が向けられる。


 殺される……!


 その時だった。

 暗い車庫の一角に、まるでスポットライトを当てられたかのような眩いオーラを感じた。同時に歌うような美しい詠唱が響く。


「ずっともがいてた劣等生、でもやっと届いたよ一等星。掴んだ主演、開いた祝宴、けど待っていたのはあっけない終焉。最上級魔法、豪炎」


 それはほんの一瞬の出来事で。気付いた時には、ストーカー男は跡形もなく消え去っていた。何者かによる魔法の炎に包まれ、燃えて灰になったのだ。


「私の勝ち、かなっ☆」

「た、助かりました……」


 振り向くと、そこに立っていたのはさっき乗せたあの若い女性だ。


「運転手さん、油断しちゃダメだよ? ああいうヤバい奴って、どこにでもいるからさ」

「すみません。ありがとうございます」

「私も一回あれで殺されてるからね。あ〜あ、ドームツアーと連ドラの主役、決まってたんだけどなぁ」


 ドームツアー? 連ドラ主役?

 そこでやっと思い出した。


「あっ! お客様もしかして、日本でアイドルやってたりしました?」

「おっとバレちゃった」

「やっぱり!」


 そうだ。この人は聖橋ひじりばし84(エイトフォー)の不動のセンターにして絶対的なエースの、歌唱力も演技力もずば抜けた才能を持つ超一流アイドル、天川あまかわスピカ。人気絶頂だったある時、ストーカーに刃物で刺されて殺されてしまった悲劇のヒロイン。まさか異世界に転生していたなんて。


 そんな天才アイドルは、銀河の星々のように煌めく瞳で私のことをまじまじと見つめると、不意に微笑みを浮かべた。


「……運転手さんもなかなか面白い人だね。気に入った。また困ったことがあったら呼んでよ。私こっちの世界でもアイドルやってるからさ、出来れば会社宣伝のイメージキャラクターのオファーとかだったら嬉しいな☆」


 それじゃあねと、ステージを去るようにスピカはこの場を後にする。


 歌と芝居に加えて、魔法まで完璧。私と天川さんとでは住む世界が違う。

 それなのに、どうして彼女は私を気に入ったと言ったのだろうか。いくら考えても、理由は全く分からなかった。

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