異23系統 王都北門〜ムグルム高原〜サラスティア湖北自然公園〜ハクサッド天文台
2023年5月17日にカクヨムで公開したものです。
『次はトトブール公営住宅。食品や日用品が毎日お得な、フォルーナ商店はこちらでお降り下さい』
バス停が近づいてくると、待っているお客さんの姿が見えた。
ブレーキを踏んでゆっくり速度を落としていき、ぴたりと停車させる。
「ハクサッド天文台行きです」
車外放送スピーカーでアナウンスしながら扉を開けると、乗り込んできたのは修道服に身を包んだシスターだ。左手には分厚い聖書を持っている。
「へぇ、これがバスね。お金はここに入れればいいのかしら?」
「はい。220ゴールドになります」
物珍しそうに車内を眺めつつ問いかけてきた彼女は、非常に端正な顔立ちをしていて、金貨を支払う所作も上品で美しかった。
『発車致します。お掴まり下さい。本日も埼京交通バスをご利用いただき、誠にありがとうございます。この車は、異23系統ハクサッド天文台行きです。次はザカリ正教修道院前。お降りの方はブザーでお知らせ下さい』
ピンポーン。
降車ボタンが押された。
『次、停まります。バスが完全に停車するまで、席を立たないで下さい』
そして、修道院の目の前にある停留所に到着すると、先ほど乗ってきたばかりのシスターが座席から立ち上がった。こちらの方を軽く一瞥して、バスを降りる。
これだけの距離の移動なら、わざわざバスを待つより歩いた方が早いだろうに。
『次はムグルム高原。ニャラルカ村、ネルタールの泉方面はお乗り換えです』
というかあのシスター。降りる寸前に私のことを睨んでいたような……?
いや、まさか、そんなことはないはず。多分気のせいだろう。
この時の私は、あのシスターに恐ろしい裏の顔があることを知る由も無かった。




