異140系統 イーケヴォック楼〜ヌエリ沼〜トゥコー沢〜ハノー村
『次はヒバーガ丘。走行中、止むを得ず急停車する場合があります。お立ちのお客様は、吊り革、手すりにお掴まり下さい。車内事故防止にご協力をお願い致します』
大型連休真っ只中。
バスの車内は行楽へ向かう人で混雑している。
ただ、そんな浮かれた人たちに交じって、剣を携えた少年と少女の姿があった。
彼らは運転席のすぐそばに立っていたため、私の耳にも会話が聞こえてくる。
「僕は魔法が使えない。だからこそ、今がチャンスなんだ。今のうちに、もっと強くならないと……」
「そんなに思い詰めちゃダメよ。世界がこうならなくたって、あなたは元々すごいんだから! 周りがあなたのすごさを分からないバカってだけ。だから、ね」
「ううん、もっと頑張らなきゃ。僕は、絶対に楼の上に行かなきゃいけないんだ。約束、したから……」
二人はどうやら魔導士を育成する学校に通う生徒のようだ。
そして、少年は世界から魔法が消える以前から魔法が使えなかったらしい。
最初は劣等生が逆襲の機会を窺っているのかとも思ったが、そうでもない様子。
「約束……。やっぱり、あの子のこと、忘れられないんだね」
「忘れるわけがないよ。僕は最強の魔導士になって、ちゃんと、迎えにいくんだ」
「そっか……」
少年は楼の上にいる、恐らくは想い人に会うために、強くなろうとしている。
魔法が使えないのに、魔導士として強くなるってどういうことだろう?
この世界のことも魔法のこともよく知らない異世界人にはちょっと意味が分からない。
窓の外、遠くに聳える楼を見上げて、目を細める少年。
そんな彼の横顔を見て、少女が切なそうに呟いた。
「……目の前にいるのに、私のことは、見てくれないんだね」
おっと、お嬢さん。
それはつまりもしかして、彼のことが好きなのかな?
頑張れ、応援してるよ。
恋とは無縁の私が言うのもなんだけど。




