リスト
隣の家のドアを十分すぎるほど見つめた後、私は家に戻り、いつも通りみんなと朝食をとった。気分はどん底だった。悲しみはあまりにも大きくて、叔母さんは絶対に気づいてたはずだ。それでも、必死に気づかれないように振る舞った。朝の展開は変わってしまったけど、日常はいつも通りだった。遅刻ギリギリの叔母さん、時間に間に合うように慌てて出ていくヒロと叔母さん。私が家のドアを閉めて学校に向かおうとした瞬間、ユウトくんが隣の家から出てきた。
「おはよう」眠そうな半分だけの笑顔で挨拶された。
「おはよう……ございます」髪を耳の後ろに掛けながら、ためらいがちに言った。挨拶する元気すらなかった。彼の顔を見た瞬間、今朝、胸に開いたあの空洞が再び顔を出した。
「アヤメさん、大丈夫?」彼は首を少し傾けて、疑問そうな表情を浮かべた。
「……」答えられなかった。思考の渦に完全に飲み込まれてた。罪悪感が私を蝕んでた。
「アヤメさん?」彼は眉をひそめてもう一度呼んだ。
「うん?」顔を上げて彼を見た。彼の方が背が高いから、少し見上げる形になった。
「大丈夫? なんか変だよ」いつもの寝癖のついた髪、いつもの顔。なのに、その些細な細部さえ、私はちゃんと見てなかった気がした。
「うん……大丈夫。ちょっと疲れてるだけ」踊り場の明かりが目に染みた。早くここから離れたかった。
「そうか……」彼は怪訝そうに言った。「じゃあ、俺、先に行くわ。遅れるし。学校でな」
その瞬間、彼が歩き出そうとしたとき、私は彼のジャケットの袖を掴んだ。
「待って!」反射的な行動だった。彼は急に振り返り、私たちの目が合った。ユウトくんの顔色が変わるのがわかった。ほんのりピンク色から、もっと濃い、赤みがかった色に。その純粋な反応を見て、私は二つの感情を同時に感じた。一つは気まずさ。ハラダさんとの会話のこともあって。もう一つは、不思議な感覚。いつもとは違う感情。熱が顔に上って、ジャケットを掴んだ手にまで広がっていった。彼を掴んでから、自分がなんて気まずい行動をしたのかに気づいた。慌てて手を離し、自分の頬に手を当てた。彼のそんな素直な一面を見て、胸が高鳴った。
「な、なに?」彼は私が離したばかりのジャケットの袖を触りながら言った。
「あの……一緒に学校に行ってもいい?」必死に自分を抑えて尋ねた。背筋を伸ばした。
「いつもの習慣を変えたくないって言ってなかったっけ?」予想外の申し出に、彼は戸惑ってた。
「えっと……今は変えたくなったの」はっきりと言った。
「いいよ。むしろ、一人で行くより楽しいし」
なんでこんなお願いをしたのか、自分でもわからなかった。ただ、彼と一緒に時間を過ごしたいっていう気持ちがあった。私たちの関係が変わってきたから、こういうお願いをするのも、それほど抵抗がなかった。最初の頃に、こんなふうになるって言われたら、笑ってたと思う。
もうみんな知ってた。私はもう一人じゃないって。彼が学校に来なかった日も、他の人たちが私への攻撃を緩めたわけじゃなかったけど、私は自分に立ち向かおうとしてた。
結局、私がいじめられた本当の理由は、傷つくのを避けるために自分を周りから遠ざけてたからだ。一番「変わった」人だと思われてた。
そう考えると、私にも責任があるのかもしれない。集団に合わせようとしなかったから。でも、個人の振る舞いが、他人がその人に対して取る行動を正当化するわけじゃない。
結局、私の態度が彼らに私を遊び道具にさせることを許してたんだ。本当は、もっとちゃんと反応することを覚えるべきだった。
今はもう、そんなふうには見えてなかった。自然に、彼に一緒に学校に行こうと誘えた。
エレベーターで一階に降りて、アパートを出て学校へ向かった。
道中、私たちは本当に友達同士に見えたはずだ。ずっと学校への道すがら想像してた光景を、ようやく現実のものとして生きてた。叶わないと思ってた願いが、今叶った。でも、その喜びを素直に味わうことができなかった。
今朝の鋭い言葉に、まだ打ちのめされてたからだ。彼の隣を歩ける幸せを感じながらも、ずっと憂鬱な表情を浮かべたまま、何も言えなかった。時々ユウトくんが心配そうに私をチラッと見てた。
「どうしたんだよ?」彼が尋ねた。
「別に……」
「本当に?」
「うん……」
「本当に?」
「だから、大丈夫だって」
「わかったよ」
彼に自分の考えを話したくなかった。きっと彼は「何言ってるんだよ、お前は助けてくれてるだろ」とか「そんなこと言うなよ」って言うに決まってる。それじゃあ何の助けにもならない。むしろ、もっと気分が悪くなるだけだ。一日中、その悲しみを引きずった。
放課後、そんなに落ち込んでる私を見て、ユウトくんは一緒にカラオケに行こうと提案した。迷わず承諾した。
カラオケはいつも若者で賑わってて、楽しい気分転換になる場所だ。歌が上手くなくても、下手な歌声を披露して笑い合える。お互いにバカにし合っても、結局は笑い話になる。そこで二時間ほど過ごした。音楽と、お腹を満たすために買ったスナックと一緒に。
小さな部屋には、歌詞が表示されるスクリーンと、私たちの声を増幅するだけのマイクがあった。デュエットもした。
つまり、ごく普通の十代の活動。つい最近まで、自分がこんなことをするなんて想像もしてなかった。
カラオケは、頭を重くする考えから一時的に解放してくれた。でも、彼が楽しそうに歌ってるのを見てると、再び思考が渦巻き始め、気分は元に戻った。
帰り道、彼は不満そうに振り返った。
「もう疲れたよ」
「どういう意味?」何を言いたいのかわからなかった。
「一日中、ずっとそんな悲しそうな顔してるんだよ。何があったのか言ってくれよ」
「まだその話? 何でもないって。ただ疲れてるだけ」
しばらく私を見つめた後、彼は予想外の質問をした。
「従姉妹との会話のせいか?」
「……なんで知ってるの?」
「今朝、妙に早く家を出て行くのが聞こえたんだ。寝つきが浅くて、目が覚めたんだよ」
「どこまで聞いたの?」
「全部。ドアの向こうから聞こえてたし、のぞき穴からも見えてた。つまり、彼女が噂の元・友達ってやつか?」
「その話はしたくない」
「肯定と受け取るよ。でも、その話は置いとく。なんで彼女の言葉に惑わされたのか、それが知りたいんだ」
「だって……彼女の言う通りだったから。私はこのことを軽く見すぎてた。ちゃんと向き合ってなかった。あなたの役に立ってない。自分が……すごく無力に感じるの」
「違うよ。退院した時に、俺だけのためにパーティーを開いてくれたのは誰だ? 退院したって聞いて、真っ先に駆けつけてくれたのは誰だ? 俺が病室のベッドに横たわってた時、いつだって全部を放り出して来てくれたのは誰だ? お前は……無力なんかじゃない。そういうことが、俺には、俺を気にかけてくれる人がいるってことを思い出させてくれるんだ。お前の存在が、俺を前に進ませてくれるんだ。わかったか?」
「うん……」
「もう落ち着いたか?」
「うん……」叱られた子供のように答えた。
「よし。じゃあ、今から一つ見せたいものがある」
「何?」
彼はジャケットのポケットから、何度も折りたたまれた小さな紙切れを取り出した。広げると、そこには文字が書かれてた。
・友達(できるだけ多く)と旅行に行く
・絵を描けるようになる
・楽器を習う
・ダイビングをする
・結婚して、自分の家族を持つ
・好きな作家に会う
リストだった。
「やりたいことリストだよ。水族館でお前に言われたんだ。『まだやりたいことをやる時間はたくさんある』って。それで、俺もそう信じ始めたんだ。だからリストを作った。やりたいことが浮かんだら、どんなに些細なことでも書き留めてる。そうすれば、手術が終わった後に、それを叶えられるから」
「手術が……終わった後に……」
「そう、手術が終わった後にな。それに、お前とも一緒にやりたいんだ。だから、今まで通り、そばにいてくれるか?」
「もちろん!」照れくさそうに笑って答えた。
「おい、なんで急に顔が赤くなったんだよ?」
彼はすぐに気づいた。最後の項目と「家族を持つ」っていう言葉を結びつけて、私が赤くなったことを。
「えっと……あれも含めて言ったわけじゃないんだけど……」
私たちは、そのおかしな状況に笑い出した。
「とにかく、最初の項目はもうすぐ叶えられるぞ。数週間後に、クラスで旅行に行くんだ」
「帰ってきたら、チェックするね」
「で、こっちは?」
リストの中に、もう一つ、完全に消されてて読めないものがあった。
「それは……ある意味、無意識に叶えちゃったんだ」
「本当? 何だったの?」
「秘密」
「ええっ!? 教えてよ!!」
「やだ」
家に着くまでずっとそんなやりとりが続いたけど、彼は教えてくれなかった。それを知るのは、もっと後のことになる……
ー ユウトくん視点 ー
「エウイコ!」
家に足を踏み入れるなり、従姉妹の名前を叫んだ。
「ここよ」
声はキッチンから聞こえた。すぐに向かうと、エウイコは冷蔵庫を漁って何か食べ物を探してた。もうすぐチカが彼女を家に送り返すところだった。
「何?」
俺は怒りで頭に血が上ってた。目が飛び出るっていう表現が、大げさじゃないと思えるほどだった。エウイコの顔が青ざめた。
「一度だけ言う。お前が俺を心配してくれてるのはわかる。でも、アヤメに対するその無礼な態度は許せない」
「な……彼女が言ったの? 言わないでって言ったのに。約束も守れないのね」
「違う。俺が聞いたんだ。お前たちの会話は全部聞こえてた。中学が同じだったことも知ってる。過去に何があったかについて、お前に説教するつもりはない。でも、お前が彼女をまた傷つけるのは許さない。お前は従姉妹だけど、だからって俺の人生に好き勝手していいわけじゃない。わかったか?」
「……ええ……」
彼女はジャケットを手に取り、ドアに向かった。
「下でチカさんを待ってるわ。怒らせてごめんなさい……」
夕食後、姉貴の皿洗いを手伝ってると、気まずい質問をされた。
「ねえ、エウイコを家に送った時、すごく悲しそうな顔してたんだけど。何かあったの?」
俺は知らないふりをした。自分が正しいとわかってても、あんなふうにエウイコを叱ったことで、すごく嫌な人間になった気がした。彼女のやり方は確かに問題だったけど、結局は俺のことを心配してたんだから。




