告白
それが彼の物語だった。
彼の声はか細くて、それまでに彼が経験してきたすべての苦しみがにじみ出てた。私は自然に泣いてた。彼の気持ちを想像することすらできなかった。
「な……なんで言ってくれなかったの?」
「正直、自分でもよくわかんないんだ。君の目に同情の色を見るのが怖かったのかもしれない。君に気を遣わせたくなかったんだ」
「あのね、このバカ」私は遠慮なく言った。
「えっ?!」
「私があなたを重荷に思うかどうかは、私が決めること。だから、私には何でも話していいんだよ。大丈夫、今までと違う態度で接するつもりはないから」制服の袖で目を拭いながら言った。
「あ……ありがとう」彼は震えながら答えた。
「一つ聞いてもいい?」
「もちろん」
「結局、どうしてこの街に来たの?」
「ああ、いい質問だ。前の街の医者に勧められたんだ。こっちの方が俺の病気をうまく管理できるって言われてね。条件が整えば、癌を摘出する手術もできるかもしれないって。チカさんより二週間くらい先にこっちに来たんだ。まだ家を探してる最中だったから。その間は病院にいた。両親は仕事の整理をしなきゃいけなくて、近いうちにこっちに来ると思う。だから今は姉と二人暮らしなんだ。先に来たのは、医者に状態を診てもらうためだった。でも、閉じ込められるのは嫌いだから、よく抜け出してたんだ」
「抜け出してたの?」
「うん。一度見つかって、こっぴどく叱られたよ。そういえば、君を事故から助けた日も、こっそり抜け出して散歩してたんだ」
「本当?」
「そうだよ」
それで、チカさんが引っ越してくる前の日に彼がこの街にいた理由がわかった。
「ねえ、これからどうなるの?さっき手術の話をしてたよね?」
「うん」
「その手術は安全なの?」
「この件に関しては、何も確かなことは言えない。手術ができるかどうかもわかんないし、できたとしても成功率は……低いとは言いたくないけど、高いとも言えない。もし手術ができなければ、癌は広がり続けて、俺は死ぬ。どちらにしても、追い詰められてるんだ。時々、脳のレントゲン写真とあの小さな黒い点を思い出す。あんな小さなものが、こんなに大きな問題になるなんて、誰が想像しただろうな」
私はゆっくりと彼に近づいて、彼の手を取って指を絡めた。なんでそうしたのか、自分でもわからなかった。ただ、そうしたいと思った。
優しく彼の肩を支えて、私の脚を枕代わりにして横になるように促した。
その優しさの裏で、私は泣き叫びたい衝動を必死に隠してた。この状況を受け入れられなかった。
どうして彼が?彼はこんなことになるべきじゃない。でも、私に何がふさわしいかを決める資格なんてあるのかな?これはひどいことで、誰にだって起きるべきじゃないことだ。
「何してるんだ?」
「わからない。今はただ、あなたの世話をしたいの。誤解しないで。同情してるわけじゃない。ただ……あなたのことが大事なの」
こんなに親密な状況に、私は完全に照れてた。こんな優しくて愛情深い一面を誰かに見せたことは一度もなかった。彼が初めてだった。
「見ないで」赤くなりながら言った。
「照れてるのか?」
「全然」明らかな照れを隠すために、ベッドの枕を取って彼の顔に押し付けた。「見るなって言ったでしょ!」枕を彼の顔にますます強く押し付けながら叫んだ。
「わかったわかった。わかったから、もう外してくれ。息ができない」
ゆっくりと枕を外すと、私たちの視線が絡み合った。
「大丈夫……だからね?」しっかりとした声で言った。
「うん」
面会時間が終わった。
家に向かって歩いてると、突然雨が降り出した。道のりが永遠に感じられた。今日はとても重い一日だった。
苛立ってた。頭の中では、彼が癌だって言った瞬間が繰り返し再生されてた。私の脳は千の疑問で溢れ始めた。
彼に手術ができるかどうかはまだわからない。もし適さなかったら?彼は病院と家の間を行き来する苦しみの日々を、人生の終わりまで続けることになる。それなら、あとどれくらいの日数が残されてるんだろう?きっと多くはない。
もし手術ができたら?
彼にはもう一つのチャンスが生まれる。
どれくらい安全なんだろう?彼自身、絶対にうまくいくとは限らないって言ってた。でも、もしうまくいったら?
ようやく彼の人生は変わる。少しずつ失った時間を取り戻して、ようやく未来を信じられるようになる。
もし失敗したら?そう……その場合は、彼は死ぬ。
私は死にそうな体を引きずって家に向かった。まるで体内の活力をすべて奪われた生き物のように。こんな思いを話せるのは、たった一人だけだった。アパートの前に着いて、疲れ果てて、自分の家のドアじゃなくて、ユウトくんの家のドアの前に立ち止まった。
「ピンポーン」
インターホンを鳴らすと、彼の姉がドアを開けた。
「アヤメ?」
「入っても……いい?」
「もちろん」
キッチンのテーブルに座った。
「はい、これ使って」彼女はタオルを渡してくれて、温かいお茶を入れてくれた。
「ありがとう」
「どうしたの?大丈夫?」彼女は心配そうに尋ねた。
「ユウトくんの病院に行ってきたの」
「ああ……!」
「これからどうするの?」私は尋ねた。
「どういう意味?」
「何をすればいい?どうやって彼を助ければいい?」
「私たちはもう彼のためにできることは全部やってる。今はただ、彼が手術を受けられることを願うだけよ」
「でも、その間も彼は危険なんでしょ?もっと早く何とかできな……いの?」
「私がわかってないと思ってるの?」彼女は叫ぶように答えた。「私がどんな気持ちだと思ってるの?私の弟がいつ死んでもおかしくないのに、私はほとんど無力なんだよ。私にできる唯一のことは、今まで通り彼の世話をすることだけ。医者も言ってた、手術が彼を救うとは限らないって。だから、お姉さんでいることだけが、私にできる唯一のことなんだ」彼女は泣き始めた。
「彼の病気がわかってから、彼は自分を閉じ込めるようになった。彼を助けるために、少しでも彼の痛みを和らげるために、私はあらゆることをしてきた。そして、何だと思う?一度もできなかったんだよ!でも、あなたはできた。あなたに出会ってから、彼はもっと明るくなって、笑うことが増えたんだ。病気がわかってから初めて、彼が生きてるのを見た気がした」
その言葉に、私はもっと辛くなった。
「そんなことない。私は何もしてない。彼こそが、私の小さな世界を変えたんだ。もっと色鮮やかで、明るくしてくれた。今こうして笑えるのも、彼のおかげ。だから、私が彼の喜びの原因だなんて、間違ってると思う」
「私は、それは素敵なことだと思うよ。二人がお互いを高め合って、一緒にいるときに幸せでいられるなら、それって素晴らしいことじゃない?いつもそうだったらいいのにね。人はもっとお互いを理解できるようになるのに」
「そうだね」
「今あなたにできる唯一のことは、彼の友達でいて、そばにいてあげること。それが一番いいことよ」
「そうだね。ありがとう」
「こちらこそ」
家に帰ると、ベッドに入って、無意識に考え込んでた。ユウトくんがどれだけ強いかを思った。疲れてて、病気に蝕まれてるのに、それでも彼は前に進み続けてる。こんなにデリケートで特別な状況にあるのに、それでも彼は生きてる。
自殺を図った日のことを思い出して、自分の行動が恥ずかしくなった。私は自分を世界で一番不幸な人間だと思い込んでた。彼とは違って、私はただ自分を哀れんでただけだ。彼は戦ってた。ずっとそうだった。
彼は、私がなりたいと思う人の姿だった。私も強くなれるところを見せたかった。




