春 諦められない気持ち 16
限界だったこともあり、私はメアリアにすべて話した。
――過去から、よくわからない自称神様?、にやり直しの機会を与えてもらったこと。
――それから、目覚めたのが6年生の始業式で、その日からフランツに好きだって伝えようと動き出したこと。
――そして、やり直しの前の世界では誰にもフランツへの恋心は伝えたことはなかったけど、メアリアに伝えたこと。
――その結果、マリアにはずるいと言われたけど、図書係から、フランツのいる魔法研究係になったこと。
――そして、アロイスがいない時に、フランツとマリアが抱き合っていて、しかもマリアがフランツに告白していたこと。
――そのあとは、メアリアに聞かれても教師のフランツが学生のマリアと恋愛をしているなんてバレたら、ペリクレス貴族学院を辞めることになるかもしれないと思って、誰にも話せなかったこと。
――でも、そうは言っても、マリアはどんどん魔法研究室に来るようになってしまうし、私1人では抱えきれなくなってきて、眠れなくなってミスをたくさん重ねてしまったこと。
――昨日マリアから、フランツがミスばかりする私よりマリアに魔法研究係をしてほしいと望んでいる、と聞いたこと。
――そして、フランツからも、私とマリアの魔法研究係と図書係の交換は引き止められもせずに、了承されてしまったこと――
……すべて話した。
「――まぁ、そういうことでしたのね」
「え……メアリア、そういうことでしたのね、って。私の、この荒唐無稽すぎる話を信じてくれるの?!」
私は驚愕に目を見開いた。
(まさか、信じてくれるとは思わなかった。我ながら、タイムスリップとか、自称神様とか、冗談としか思えないしね。)
「当たり前ですわ!ナラノがそんな冗談を言うなんて思いませんし、それに!、わたくしは、ナラノの親友ですのよ?
ナラノを信じるに決まっていますわ!」
メアリアは当然でしょ、という顔だった。そして、私へ軽くウィンクをしながら微笑んでいた。
(私の親友が、最高すぎる……!!)
「わぁあああっ!メアリア〜っ!ありがと〜!!
こんな話、メアリアにしか話せなかったんだけど、信じてくれてありがとう〜っ!」
たまらず私はメアリアをぎゅっと抱きしめた。
「うっ、くるしっ……ナラノ、抱きしめすぎですわっ! もうっ。しょうがない、ナラノですわねっ!」
「うんっ!しょうがないっ! 私、今メアリアに抱きつきたいんだもん!」
「あらあら。下手くそな嘘をやめたと思ったら、急に甘えん坊に戻ってしまいましたわ。」
「え、えへへっ。いいんだもん。メアリアが好きなんだから、いいの〜」
「はいはい。わかりましたわ。」
私がやり直しの世界で仲間を見つけて喜んでいると、メアリアから残酷な一言が落とされた。
「――でも、ナラノ、残念ね。」
「ん?なにが?」
「残念ながら、この部屋にはわたくし以外にも余計な者が2人もいるわ。」
(ん?…………余計な者? 2人?)
煩わしそうな目線でメアリアが、ほら、ごらんなさい、とでも言うように、目線を向けた。
――そこには……いるはずがない人がいた。
「あ、ああ゛ーーっ!! な、なんで、アロイスとクレイグが、ここにいるの〜〜っ!!」
恐ろしいことに、イケメンの2人、アロイスとクレイグがどことなく気まずそうに、壁際に所在なさげに立っていたのだ。
そして、私に見つかったとわかると、2人ともあからさまに『やべぇ、見つかっちまったぜ』、という顔をしていた。
「まぁまぁ、ナラノ。アロイスもクレイグも最初からいましたわよ?」
「へ? ……はっ、そういえば目覚めた時はいたっ!
……いやいや、でも、私かなりやらかしちゃったのでは……? メアリアだけに話すつもりだったのに、もうこれは取り返しがつかないよね? メアリア〜!、知ってたのなら、何で言ってくれないのよ〜!!」
私は、自分のやらかしに気づいて項垂れた。
「まぁ、ナラノが途中からアロイスとクレイグの存在を忘れていることは気づいていましたけど。でも、いいじゃありませんの。どうせ、知れることですわ! 早いか遅いかの違いですわ!
そ れ に。」
「?」
「黙っていたナラノへの罰ですわ」
綺麗な微笑みを浮かべるメアリア。
(こわっ! メアリアが、こんな外行き用の綺麗な微笑みを浮かべているなんて、こわすぎだ)
これならば、普段のやや過剰すぎるが、ベタベタと触ってきたり、ニヤけているメアリアの方がよっぽど怖くない。
「え、えぇ、そうだけどっ、そうだけどぉ〜! これは教えてほしかったよ〜」
「あら、ナラノ。わたくしはナラノのためにならないことはしませんわ。ナラノから状況を聞き出すには、あの状況ではああするしかありませんでしたわ。
アロイスとクレイグのような瑣末なことでも、あのときのナラノに告げていたら、ナラノはわたくしに教えてくださらなかったでしょう?」
メアリアはなんてことないみたいと思っていることが、話している口調から伝わってきた。
横から、「お、おいっ!俺たちのことを瑣末だなんて、そんな呼び方はやめろよな〜!」、というアロイスの声があがっていたが、すべて無視されていた。
(あぁ、アロイスとクレイグがいることが瑣末ごとだなんて……メアリア、私には全然そんな瑣末ごとじゃないんだけど〜〜っ!)
「それに、ナラノ。わたくしだけじゃなくって、アロイスとクレイグもナラノの幼馴染ですわ。2人だって、わたくし同様に、ナラノを信じますし、助けあえるはずですわ!」
「おう! そうだぜ、ナラノ! お前に存在を忘れられてたのは癪だが、力になるぜ!」
「そうですね。私も、微力ながらナラノの力になります。」
メアリアの言葉で、さっきまで気まずげにしていたり、文句を言っていたアロイスとクレイグが復活したらしく、私に力強いことを言って励ましてくれる。
「う、うん。元々誰にも話す気はなかったんだけど、でもまぁ3人に話せてよかったかな。気持ちも軽くなったしね!みんな、私の話を信じてくれてありがとう!」
私は、やっと、この孤独なやり直しの世界で、ある意味で仲間ができた。
やり直しと言っても、やり直しの前の世界と存在する人物は一緒だ。
でも、やっぱりやり直し前の記憶を持ってるのは私だけで、私がこのやり直しの世界で前とは違う行動をするほどに、前とはみんなが変わった行動をしていく。
私がやり直し前の世界とは違う行動をしてるのだから、みんなも違う行動をするのは当たり前なのに、ふとした時に前の世界との違いを感じて、寂しさを感じてしまう。
(私が知っている人なはずなのに、別人みたいに感じてしまう。なんだか、私だけがこのやり直しの世界で取り残されたみたいに感じていたけど、少しだけみんなのおかげてマシになったかも)
でも。
――それなのに、フランツだけは変わらずにマリアを愛している。
そこだけは変わらない。
その事実が、フランツとマリアは結ばれるべき運命のようにも思えてしまって悲しかった。
――でも、もう、それでいい。
私には、頼りになる幼馴染達がいてくれる。
フランツにはフランツの、私には私の人生がある。
やり直しの前の世界でもフランツはマリアを選んで、私は実質振られてしまっていたけど、この世界でもフランツはマリアを選んだ。
それが事実だ。
私に与えられたやり直しの機会は今回だけ。
(これはきっと自称神様からしたら、失敗だって思われてしまうかもしれないね。それで、私は罰として、自称神様が選んだ誰かと結ばれることになるかもしれないんだよね)
でも、これでいい。後悔はない。
フランツの答えは受け止めた。
フランツの選択は、やり直しの世界でも私ではなくマリアだったってだけだ。
それを邪魔する気なんてない。
だって、私は大好きなフランツには幸せになってほしい。
――うん、これでいい。私は、この世界でフランツを忘れて新しいナラノとして生きていこう――
ありがとう、フランツ。大好き、だったよ……