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ゼンくんと愉快な下僕たち

 黒煙と赤海で満ちている学内で、戦闘音が響き渡る。


 赤海から湧き上がる骸骨の剣士と弓士、けたたましく笑いながら、襲いかかってくるソレらをグールとラインは迎え撃――


「いやいやいや!! 無理無理無理ぃ!!」

「フハハ!! 数が多すぎるわ!! あまりにも、無理筋!!」


 地下へと続く大扉の中へと引き返し、慌てて閉めようとする。


 だが、閉まらない。


 どんどんどんどん、骸骨たちは迫ってくる。焦燥で指が滑って、ふたりの顔に焦りが浮かぶ。飛んできた矢が、頬を掠めて、血が流れ始めた。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! やばいやばいやばい!! 彼女が出来ないうちに死ぬっ!!」

「グール、辞世の句が出来たから聞いてくれ」

「諦めるのが速いんだよ、このバカ!! 頑張れよ、ボクの命のために!!

 ちくしょう!! もう、ココで死――」

「退け、カスども」


 強大な魔力の放出。


 一気に扉が吹き飛んで、骸骨の群れが消し飛んだ。


 前に倒れ込んだふたりをまたいで、前に出たゼン・フェア・アグロシアは、笑いながら魔物たちに向き合う。


「数だけは、一丁前だなァ……揃いも揃って、死後も無能面晒しやがって。つまらねー骨どもは、全部消化して、カルシウムにしてやるよ」


 前髪を掻き上げたゼンは、自身の魔力で、床の上に魔法円を描いた。


「アグロシア家の魔法円……『触れざる者たち』……」


 アグロシア家は、魔法陣だけではなくて魔法円も持つ。


 魔法陣は、魔術師の周囲に張る陣形である。宙空に描いたり、手に巻きつけたり、眼の中に書き込んだりと用途の幅が広い。対して、魔法円は、術者が円内に入ることを強制されるのでその使用用途の幅は狭くなる。


 だが、その縛りをもって、魔法円の威力は絶大に至る。


「失せろ、三下」


 魔法円の円環に刻まれたルーン文字が発光し、魔力による線形によって、基本形である五芒星が描かれる。


「そこもかしこも、オレだけの道だ」


 円の中から――手が伸びる。


 老翁、老婆、男性、女性、女子、男子……ありとあらゆる年齢、性別の手が、円の中から伸び出てきて骸骨たちを掴んだ。


 そして、一気に頭をねじ切る。


 中には、刀剣や弓をもつ手もあって、思い思いに骸骨たちを攻撃していた。よくよく視てみれば、その手群しゅぐんの指には、煌めく指輪がめられている。


「『触れざる者たち』は、歴代のアグロシア家の“手”を呼び出す召喚術式……そうであれば、その真価は……」


 グールの言葉を裏付けるように、ゼンは手のひらを構えた。


「従え、ジジイ、ババア、その他諸々の死んだ雑魚ども。このオレの後に続いて、精々、死後も醜く追従しろ」


 同様に。


 大量の手が、手のひらを構える。


 おびただしい数の手、数百は下らないソレらは、口も脳ももたない。そのため、詠唱による術式形成は不可能。脳内想像による術式演算も出来ない。


 であれば、その数百、術者自身が肩代わりするしかない。


「ゼン・フェア・アグロシアが命じる」


 無詠唱の風刃ウィンドカッター……脳内の想像で行われた演算処理、その数百を肩代わりしつつも、ゼンは高らかに嘲笑わらった。


「吹き飛べ、塵芥ゴミども」


 突風が、一気に吹き付ける。


 強烈な迅風、グールとラインは、両腕で顔を覆った。

 

 骸骨へと襲いかかった刃風は、いとも容易く、硬い骨を叩き切った。廊下の床、壁、天井に、斬撃が走る。幾重にも斬りつけられて、細切れと化した骨たちは、塵となって積もった。


「チッ……さすがに、数百人分の中級魔術スタンダードの肩代わりは無理だな……初級魔術ファーストしか唱えられないのがしゃくに障る……」


 ぽかんと、グールは大口を開ける。


 アレだけいた骸骨の戦士たちは、一瞬で、ただの灰と化した。


 ゼン・フェア・アグロシアの性格はクソの中のクソだったが、悔しいことに、その実力は本物だった。


「おい、雑魚ども」


 座り込んでいたグールたちに、ゼンは舌打ちをする。


「とっとと立て。この扉を突破されたら、下はクソカスザコしかいねぇ。アイツら、戦闘の『せ』も知らねぇんだからココで止めるぞ。このオレが、こんな有象無象骸骨の相手なんてしてられねぇが仕方ねぇ」

「は? なに、君、好き勝手に、突っ込んだりしないの?」

「バカが、貴族をなんだと思ってやがる。踏み台共に死なれたら、俺が上に上がれねぇだろうが。まずは、自分のっている台を倒そうとしてるカスを処理するのが定石だ。そんなことも知らねぇのか、田舎貴族が」


 普段は、クソの塊たるゼンは、大扉の前から動こうとはしなかった。喜び勇んで、戦闘の中心に突っ込んでいくかと思いきや、冷静に状況を判断し、大扉を死守しようとしている。


「貴様、意外と冷静なんだな……というか、いつもの取り巻きはどうした?」

「あぁん? あの腰抜け共は、とうの昔に学院を辞めて逃げやがった。この間、三年の主席に喧嘩売ったら、もうオレには付いていけねぇとか抜かしやがった」

「いや、当たり前でしょ」

「黙ってろ、ボケ。

 つーか、とっとと、構えろ下位カス。まだ、湧いてくるぞ」


 ラウを助けに行こうと、奮い立ったふたりだったが、湧き続ける骸骨を視て覚悟を決める。


「ライン、ラウのことはフロンに任せよう。

 ボクたちは――」

おう、ココを死守する! ラウならば、同じことをするだろうしな! フハハ、この危難、ウェルズベルト家の血がたぎるぞ!」

「チッ……騒ぐな、下位カス

 来るぞ」


 三人は、手のひらを構えて――大量の骸骨たちは、突進を始めた。

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