まごうことなく気の迷い
夜中。
門限ギリギリに寮の部屋に戻ると、俺のベッドにフロンが座っていた。
「あ……」
風呂に入った後なのか、パジャマ姿のフロンの肌は上気していた。ほんのりと、桃色に染まる肌、銀色の髪は水気を帯びて艶めいている。服の着方でも忘れたのか、なぜか、上着のボタンを第二ボタンまで開けていた。
「お、おかえり……」
髪の毛を掻き上げて、フロンは、ちらりと俺を見上げる。
「おう、ただいま」
「お、遅かったね……なにしてたの……?」
「イロナと散歩」
「はぁ!?」
何時になく、お淑やかにしていたフロンは、いきなり叫び声を上げる。
「なんでっ!?」
「え……ダメなの……?」
「いや、だって、ラウ、あの、憶えてないの? 店で、アレ、したでしょ? その、アレ? アレ、したわよね?」
「あぁ、アレか。確かにしたな」
ぽんっと手を打つと、フロンは笑顔になる。
「水のお代わり」
「殺すぞ」
笑顔で、凄まれて、俺は思わず「すいません」と謝る。
「したでしょ!? したよね、ハグ!?」
「うん、した」
「だったら、ねぇ……その、あるでしょ……色々と……男女の間柄というか……今後、考えなければならないこととか……あるでしょ……まぁ、私は、断るつもりだけど……今は、そういう時期じゃないし……勉強とか、集中しなきゃ、だし……?」
いじいじと、両指を突き合わせながら、ブツブツとフロンは言った。
「それに、ねぇ、ラウと私って……どうなのって……正直、異性としては視れなかったというか……でも、抱き締められた時……思ったよりも、力強くて……あれ、ラウって、男の子なんだって思っ――」
「そこ、俺のベッドだぞ、フロン」
「今、喋ってんでしょうが、私がっ!!」
「邪魔なんだが」
ニコニコと笑いながら、フロンは、俺のベッドから立ち上がる。無言で、上着のボタンを閉め直した彼女は、勢い良く、カーテンを引いた。
「……明日、起こさないから」
「うん、わかった」
「……着替えも手伝わない」
「うん」
「……ご飯もひとりで食べてよ」
「わかった」
勢い良く、カーテンが開いて、顔を真っ赤にしたフロンが叫ぶ。
「嘘よ、嘘!! 明日も、起こすし着替えも手伝うしご飯も食べさせる!! でも、キミと私は、ただのパートナー!! 今日のコレは、ただの気の迷い!!
おやすみっ!!」
「おう、おやすみ」
俺は、自分のベッドに横になってから――ふと、気がついた。
カーテンをちょっとだけ開いて、俺は、フロンにささやきかける。
「怖いなら……添い寝くらいしてやるぞ……ふふ……最初から、そう言えば、誤解しなかったのに……そんなに、恥ずかしがるな……その歳になっても、幽霊が怖いだなんて、他のヤツには言わな――」
「うるせーっ!! 寝ろッ!!」
叫び声を返されたので、慌てて、俺は自分のベッドに引っ込む。
数分後には、わざとらしい寝息が聞こえてきて、俺も眠ることにした。




