14、食べられないものは頼まない
「と、いう訳で王都デウスに召喚される勇者を見に行くことになった」
「ぱぱより強い?」
「それは分からないな~」
「ぱぱが一番強いの! それに近所のおじさんが『狩りの練習してないって言ってる奴に限って徹夜でしてる』って言ってたもん!」
レインはギルドに併設されている食堂でフランとアリアに今後の予定を話していた。
それは魔王討伐のために呼び出される勇者を見に行き、場合によっては勇者の補佐をする……というものだった。
「(勇者……! まさかそんなものを呼び出そうとしてるなんて……レインと勇者が手を組んだら……大変なことになる! 何とかして止めないと!)」
「アリアはどうする? 背中の黒い羽は魔法で隠せるが……やっぱり元魔王軍だし怖いか?」
「え、えっと……アー、ウン。 勇者と会うのはー、そのー、止めた方が――――」
「じゃあ、俺とフランで行ってく「喜んで行かせてもらいます!!」」
レインとフランだけで行くような雰囲気になる前にアリアは参加を表明する。見事な手のひら返しだった。
「(ハハハ、ドウシヨー。 ボク、カエッテイイカナ?)」
勇者の脅威は魔王である父親に聞かされていたので、堕天使の力も聖女の力も完全に使えないアリアには絶対に会いたくない相手だった。
「アリア、死んだ魚の目になってるぞ」
「近所のオジサンが『雌に隙を見せると何もかも消えるから気を付けな』って言ってる時と同じ目だー」
「(どうしよう! 何か良い作戦を考えないと! そして近所のオジサンに何が起きた!)」
アリアは考えた……どうすれば勇者とレインを遠ざけることが出来るかを……そして一つの考えに至った――――
「(そうだ! 勇者を褒めまくって補佐なんて必要ないって思わせればいいんだ! 僕天才!)」
アリアは『勇者を褒める作戦』で行くことを決意し、その完璧な作戦(?)を考えた自分を称賛した。
「(そうとなれば、今夜中に褒め言葉を考えてノートにまとめよ!)」
アリアは正直に言ってそこまで頭がいいわけではない。しかし考えることが出来た。王都デウスに行くには馬車で数日は掛かるのだ。
そのため、旅の準備で一日は掛かる。それだけあれば、褒め言葉を考えるには十分すぎるのだ。
「さて、食事を済ませたら王都デウスに行くか!」
「うんっ♪」
「…………えっ?」
アリアは準備も済ませてないにも関わらず、『食事が済んだら直行する』と取られる発言に思わず困惑の声を出す。
「た、旅の準備は? 行くのに数日は掛かるんだよ?」
「空間魔法で数年分は食料あるから心配するな」
「馬車の手配とかは!?」
「転移魔法使えば一瞬だからしてない」
「お世話になった人とかに挨拶とか!」
「都市にきて数日だから知り合い数人だし、もうその人達も事情知ってるし」
一通り聞き終わったところでウエイトレスがオーダーを聞きに来る。話に一段落着くのを見計らっていたのだろう。
「ご注文はお決まりですか?」
「俺は日替わりランチでお願いします」
「オムライスがいいー!」
レインとフランが食べたいものを頼んでいると、アリアは再び死んだ目になり食堂の椅子の上で身体を丸めて座っている。
「えっと……ご注文は?」
「…………貴方が最後の晩餐に食べたいものをお願いします」
「…………相談、いつでも乗りますからね。それではご注文を確認します。
『日替わりランチ』、『オムライス』、『絶望定食』で、よろしいですか?」
ウエイトレスの言葉に「はい」とレインは答えると、食堂の方へ注文を伝えに向かった。
「(…………いや、絶望定食って何)」
アリアがそう言っていると、早速ウエイトレスが料理を運んできた。そして――――
「はい、死亡確定クエスト受けた冒険者注文ランキング一位の『食べると絶望する定食』です! 怖いので器には手を触れないようにお願いします!」
「馬鹿なの!? 考えた人馬鹿なの!? っというか怖いから器に触れるなって何!?」
「いや、どうせ死亡確定クエスト行くなら希望持たせるだけ無駄なので逆に絶望に落とそうっていうシェフの考えでして……」
「最悪だ!!」
そして渡された定食は――――全体的に紫だった。器に至っては何故か黒ずんでいて、料理からは謎の煙が漂っていた。
料理、と呼んでいいのか分からないレベルで、形状はロールケーキのようにも見えるが色が明らかにそれではない。
「まぁ、値段はパン一枚ぐらいと同じなのでお財布に優しい程度に思えばいいと思いますよ。それではごゆっくりどうぞ」
「えぇ……って、何で食器がフォークとかじゃなくて竹串なの!? 明らかに一口サイズじゃないよね!?」
アリアの叫びが届いてないのか、もしくは無視しているのか、ウエイトレスは即座に厨房に戻っていった……と、言うより『逃げた』という言葉の方が正しい。
「まあ、アリア……注文したんだから残したら勿体ないぞ」
「オムライスまだかな? 遅いねー」
「絶望定食が来るのに三秒もかからなかったから、オムライスが遅く感じるだけだよ」
「そっかー」
アリアは一応、レインにお金を払ってもらっているわけなので食事は残すのは自分の矜持が許さなかった。
「(お父様にも好き嫌いは良くないって言われてるし……もしかしたらこの絶望定食っての美味しいのかも……? 物は試し! 食べてみよっ!)」
◇
その日、アリアは宿屋で泣いた。レインとフランはアリアを慰めるために王都デウスに行くのを先送りにすることにしたのであった……。
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