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異能のコレクター

那古野の経営は順調そのものだ。銭は面白いように集まり、俺直属の兵たちの練度も上がってきた。筋肉と血液は、まあ及第点といったところか。

だが、巨大なプロジェクトを動かすには、それだけじゃ足りない。全てを統括し、俺の構想を具体的な戦術や政策に落とし込むための神経網…つまり、専門分野に特化した「経営幹部」が必要不可欠だった。

(さて、ヘッドハンティングの時間だ)

俺の頭の中には、長谷部聡としての記憶…つまり、この先の歴史を知るという、究極のデータベースがある。そこから、まだ世に出る前の、あるいは不遇をかこっているS級の人材をリストアップしていく。

諜報部隊の長である政を呼び、俺は極秘の指令を下した。

「政。全国に散らばる『逸材』を、俺の元へ連れてくる。まずは甲斐か駿河だ。片目で足が不自由だが、城取りと軍略にかけては当代随一の男がいる。名は山本勘助」

「御意」

「次は駿河。武田に追われた工藤祐長と昌祐の兄弟。兄は数字に、弟は槍に強い。絶対に手に入れろ。それから、大和には島清興という若い槍使いがいるはずだ。こいつは将来、とんでもない化け物になる。何としても口説き落とせ」

そして、俺は最後に、最も重要なターゲットの名を告げた。

「伊賀の名張へ飛べ。伊賀忍びを束ねる三大上忍の一人、**藤林長門守ふじばやし ながとのかみ**と接触しろ。これは、交渉だ。丁重にな」

市は表情一つ変えず、俺の無茶な指令を呑み込むと、闇に消えた。俺の無尽蔵の財力と、黒鍬組の実行力が、この壮大な人材獲得計画の生命線だった。

最初のターゲット、山本勘助との面接は、俺自身が出向いた。

場末の宿で酒に溺れていた勘助の前に、俺はいつものうつけの格好でどかりと座り込む。

「よお、軍学者殿。面白い絵図面を見つけたぞ」

俺が懐から広げたのは、黒鍬組が奴の部屋から盗み出し、写し取らせた城の設計図だ。勘助の顔色が変わる。

「…どこでそれを」

「この城、面白い。だが設計が甘いな。この腰曲輪の配置では、南から攻められたら一刻も持たん」

俺が欠陥を指摘すると、勘助は絶句していた。俺はそこで、うつけの仮面を脱ぎ捨て、本質を突く。

「山本勘助。お前の知識と智謀、腐らせるには惜しい。俺の軍師になれ。俺にお前の力で、天下を獲らせてみせろ」

支度金?そんなものは前菜だ。俺が提示したメインディッシュは、「醜い顔も不自由な足も関係ない、お前の頭脳こそが欲しい」という、彼が人生で一度も受け取ったことのない正当な評価だ。隻眼の軍師が、俺の前に膝を折るのに、時間はかからなかった。

工藤兄弟と島清興は、黒鍬組を通じてスカウトした。

今川家で燻っていた工藤兄弟には、「過去は問わん、実力主義だ」という俺の経営方針と、具体的な役職ポストを提示させた。正当な評価に飢えていた彼らは、すぐに那古Tにやってきた。後に内藤昌豊と名乗ることになる兄には、那古野の財政と行政を任せることにした。

島清興には、一通の手紙を送っただけだ。

『お前の槍、大和で振るうには鋭すぎる。俺の元へ来い。日の本すべてを、お前の働き場所にしてやる』

野心のある若者には、これくらいデカいビジョンを見せてやるのが一番効く。案の定、若き日の島左近は、全てを捨てて俺の元へ馳せ参じてきた。

そして、最大の難関、藤林長門守。

伊賀忍びは、独立不羈の傭兵集団だ。金や権力で簡単に動く連中ではない。俺は政を通じて、極秘の会談をセッティングさせた。

現れた藤林長門守は、農夫にしか見えない、小柄で平凡な男だった。だが、その目の奥に宿る光は、そこらの武将などとは比べ物にならないほど鋭く、冷徹だった。

「伊賀の技、銭で買うとお思いか、若君」

「買う、などと。とんでもない」

俺は笑って首を振った。

「お前たち伊賀忍軍を、俺は『闇の道具』として使うつもりはない。織田家の正式な一部隊、情報戦略と特殊作戦を担う**『月影衆』**として迎え入れたい。もちろん、武士としての身分も保証しよう」

これは賭けだった。忍びを、武士と同等、いやそれ以上の存在として扱う。そんな大名は、この国には一人もいない。

藤林長門守は、しばらく無言で俺の目を見つめていた。やがて、その口元に、わずかな笑みが浮かんだ。

「…面白い。尾張のうつけ殿は、物の価値というものを、誰よりもようご存知と見える。よかろう。この藤林長門守、あんたの器に賭けてみよう」

こうして、俺の最強の経営チームが完成した。

軍略と築城の天才、山本勘助。

行政と財政のプロ、内藤昌豊。

最強の実戦部隊長、島左近。

そして、情報と裏仕事を司る、藤林長門守率いる月影衆。

親父の家臣どもは、俺の周りに集まった素性の知れぬ連中を見て、ますます不信感を募らせているようだが、知ったことか。

俺は、俺のやり方で、この会社(織田家)を日本一の企業(天下人)にしてみせる。

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