エピローグ
ダンジョンへと落ちた俺。
しかもこのダンジョンは地面という概念がなく、俺はひたすら落下し続ける。
このダンジョンは少し特殊なダンジョンで、なんと飛行能力を前提としたものになっている。
そのためある意味このダンジョン全てが空の中と言った感じで、モンスターも飛行能力があるものばかり。
ただ俺は自由落下で相当な速度が出ているため、誰も追ってはこない。
いや、性格には追い付けるくらいの速度は出せるのだが、俺がそういう設定にしているから追ってこないだけなんだけどな?
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!????????何なんだよぉぉぉぉ!!!!!!」
そんなことをしつつ、それでも俺は今もまだカメラを持ち続けている。
となれば、恐がっている風に見せておく必要はあるだろ?
ついでに適当にじたばたしておけばもうばっちりだろう。
ちなみに俺が落下し続けるため今回は空のダンジョンを選んだが、現在好井がいるだろうダンジョンは地中のダンジョンだ。
アリの巣のような構造になっていて、たまに穴が小さすぎて掘って広げないと通れないところもあるなんていう作りになっている。
ちなみにそんなダンジョンにした理由は当然好井が攻略に時間がかかるというのもあるし、攻略せずに抜け出したとしてもこの先ダンジョンが地中に埋まったままスタンピードを引き起こしても問題ないからと言うことになる。
ただ詳しいことは割愛するが、しばらくはあのダンジョンだとスタンピードは引き起こせないんだけどな。
将来に期待と言ったところだろう。
「……………全然地面が見えない!でも、見えたら死ぬんだよなぁぁぁ!!!!」
落下しながら叫ぶ俺。
こっちのダンジョンを俺が選んだのは、好井がどうするのかを確かめるためだ。
もし俺を無視したのであれば、知り合いを無視したとして一生叩かれ続けるだろう。もちろん美談とする動きもあるかもしれないが、一部に批判的な人間が残るのは間違いない。
また、近しい関係になったものからいつか見捨てられるのではないかと疑われ続けるのも好井にとっては精神系にきついはずだ。
では逆に俺を助けに来た場合はどうなるかと言うと、単純に時間がかかる。
これでも俺ができるだけ空気抵抗がないように最速で落下しているため、かなり下まで来ているのだ。
となれば、好井がどれだけ早く移動できたとしても相応に時間がかかることになるはずだ。
その分だけスタンピードに関わらせずに済むのだから、俺としては万々歳である。
「ぐぇぇぇ。空気抵抗で全身痛いぃぃ」
こうして俺がふざけてるようにも聞こえる視聴者へのアピールを続けている間にも、スタンピードは進んでいる。
今も大勢の武器を持った人間が、他人を蹴落とす人間が、そして犯罪に手を染めようとする人間が倒れていっている。俺の理想の世界がどんどんと近づいてきているんだ。
こんなところで、好井なんかに邪魔されてはいられない。
が、
「はぁはぁ。結構疲れるねぇ」
「っ!?え?どこから!?」
流石は好井と言うべきか。あっさりと俺の予想を超えてくる。
好井はいつの間にか俺の横に現れて一緒に落下していた。
「い、いつの間に!?」
「いや~。転移で今さっき来たところ。ただ、さすがに結構距離があって魔力消費がきついね……………まあいいや。行くよ」
「え?……………え?」
そんなすっくいが俺の体に触れたかと思うと、突然景色が切り替わる。
というわりには相変わらずの空なのだが、間違いなく何かが変わった気がした。
そしてそれは好井の発言からすると、
「転移?」
「そう、転移」
転移。
一応魔法としては存在していて、俺も知っているだけで使えないようなものだ。だがそれを、好井は使ったらしい。
明らかにおかしいし頭が痛いが、とりあえず好井の手札を1つ見ることができたということで納得しておこう。
発言を信用するのであれば魔力消費が大きいらしいし、ここまでやらせたのだから今後の魔法に制限が出ると考えればさらに納得もできる。
俺のやったことは無駄じゃなかった、とな。体を張ったことの正当化ができるわけだ。
で、そうして転移したわけだが、その転移先と言うのがまた完璧と言ってもいい。
流石は好井と言ったところで、完璧に入り口の真上に転移したのだ。だからこそすぐにダンジョンからの脱出が可能となっていて、
「うおっ!?」
「っ!?嘘でしょ!?」
あと少しで入れる。
そう思った瞬間に、狙いすましたかのように(滅茶苦茶狙いました)ごぅっ!と風が吹いて俺の、というか俺たちの体がそれる。
結構な風であるにもかかわらず突然のもだったため、好井もさすがに対応しきれないようで2人そろってダンジョンから脱出しそびれる。
もちろんすぐにまた転移して今度こそ脱出するのだが、転移には魔力の消費をかなりするという話だったので俺としては万々歳。
「思ったより大変だったね……………」
「悪い。助かった」
「いや、気にしないで。それよりも早く外に出て助けに、」
俺が形だけだが礼を言えば好井は首を振り、すぐにダンジョンの外の被害を抑えに行こうと意識を向ける。
だが、その言葉を俺はすべては言わせない。
さえぎるようにして接近して、
「危ない!」
「え?………あっ!?」
俺はタックルするように近づいて行く。その後ろでは、ダンジョンが崩壊して今にもその崩落が俺たちのいるところまで及びそうにあっていた。
だが、その崩落よりも外のことに意識を向けていた好井は俺がそういう行動に出てくるとは思っていなかったらしく、とっさの行動なのだろうが剣をふるう。
そう。振るってしまうのだ。
俺へとむけて振られたその剣は、体の表面ギリギリで止めようとする力がかかるとともに回転される。
それによて刃は立たずに俺の体へと接触した。
ただそれでも相当な威力があり、俺の体は吹き飛んでいく。それも、崩落していく方向に。
「ごめんっ!」
すぐにマズいと気づいた好井は俺へと手を伸ばしてくる。
このまま俺を転移させる気だろうが、俺の体が吹き飛ばされる勢いの方が強いように調整して対応。
崩落した地面により、俺の姿は好井から完全に見えなくなっていく。
残ったのは逃げるしかない好井だけ。
俺の側は崩落した中でも問題ない俺。そして、好井のとっさの攻撃で壊れてしまったカメラ。壊れて配信もできなくなってしまったみたいだから、今頃配信は終了となっているだろう。
まさか、俺に対して攻撃をし掛けるところで終わるなんて予想外だっただろなぁ。
さて、それじゃあ俺は好井を助けようとしたが殺されてしまった人間として姿を消すか。
これからは魔王として隠れながら生きていく。
今回で相当な被害を地上にですことには成功したし、次はもっとうまくやる。次こそは確実に好井もまとめてこの世界から完全に消滅を、
「……………残念だよ」
「え?」
突然後ろから聞こえて来た声。
ただ、それを知覚した直後俺の体が倒れていくのを感じる。
いや、体じゃない、体にしては、あまりにも軽い。
これはそう、頭だ。俺の頭だけが動いているんだ。
かなり早く動いているはずなのに、それでもゆっくりと動いて行く視界に入ってくるのは、首のなくなった俺の体と、
「……………君は、殺したくなかったのに」
見たことがないほどに険しく思い悩んだ表情で剣を持つ、好井の姿だった。
それを認識した瞬間、ゆっくりと俺の視界は暗転していく。
どうやら俺は、しくじったらしい。




