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リントヴルムの揺籠(ゆりかご)外伝  作者: 翠山 朔


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外伝:リリアーナの恋(後編)

一ヶ月後。アルヴィンは従兄弟であり、現在は領邦君主となったアルフレートをエルフェンランドに訪ねていた。リリアーナが口にした「あまりに切ないお願い」について相談するためだ。


「お前が女一人にそこまで振り回されるとはな。本当のところ、お前はその娘をどう思っているんだ」 領邦君主アルフレートの問いに、アルヴィンは困ったように答えた。 「成人したとは言っても、まだ子供だから……。けれど、愛しいとは思っているよ。ルピーネの美しさと勇気、ロドルフの明るさと優しさを蜜で固めたような、強くて愛らしい子なんだ」 自覚なく惚気のろけるアルヴィンに、アルフレートはため息を吐きつつも、その背中を押した。 「それで無自覚とは恐れ入る。その娘はお前がいいと言っているんだろう? お前も成人を迎えて随分経つんだ。いい加減覚悟を決めて身を固めろ。もし身分差が障害なら、養子縁組でも何でも手配してやる」


「……いや、彼女を縛るよりも、僕が公爵位を返上した方がいいな」 アルヴィンの心は、すでに決まっていた。 「元々Sランク冒険者は帝国の存亡に関わる存在として、上級貴族の公侯爵相当の待遇を受ける。僕の場合、爵位を捨てても実質的な不利益はないからね」



決意は固めたものの、まだ若い彼女の気持ちが変わるかもしれないと、それから二年もぐずぐずと結論を引き延ばしたアルヴィンだったが、リリアーナが18歳を迎えた時、ついに大切に温めてきた言葉を贈った。 「タイガー・リリー。……私の『唯一』になって欲しい」 リリアーナのヘーゼルの瞳から溢れる喜びの涙が頬を伝う。その涙を、アルヴィンが指で優しく拭った。


母のルピーネは娘の幸せを自分のことのように喜び、涙ぐんだ。父のロドルフは最後まで複雑そうだったが、アルヴィン以上に娘を愛し、守り抜ける男などいないことは、彼自身が一番よく解っていた。


リリアーナが20歳、アルヴィンが94歳(人間換算で23、24歳)の時、二人はついに結ばれた。エルフの谷での壮麗な結婚式、そして狼獣人男爵領での豪華な披露宴。公爵が爵位を捨てて獣人の娘を選んだという物語に、帝国中の民衆が「王冠を賭けたロマンス」だと熱狂した。当の本人は「帝位と王位の継承権は、何十年も前に放棄しているのに……」とぼやいていたが、その横顔はかつてない幸福に輝いていた。



二人に子はできなかった。だが、リリアーナが六十代半ばで穏やかに息を引き取るまで、帝都の「新月ノイモンド宮」で二人は仲睦まじく暮らし、共に濃密な時間を過ごした。 リリアーナが逝った時、アルヴィンは140歳を目前にしていた。エルフとしては、まだ働き盛りの年齢である。


狼獣人領にある、緑豊かなリリアーナの墓所。 そこには、月命日に必ず、一抱えもの鬼百合タイガー・リリーを供え、愛おしげに墓石を撫でる、時を止めたような美貌のエルフの姿があった。 「……また、君の花が咲いたよ。タイガー・リリー」


その声は、風に乗って、かつて彼女と過ごした幸福な記憶の中へと溶けていった。

リントヴルムの揺籠ゆりかご外伝をお読みいただき、ありがとうございました。

本編(https://ncode.syosetu.com/n4031lt/)も併せてお読みくださると嬉しいです。


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