第66会 聖撃砲
今日も書斎へ。
特に別の夢が始まるわけでもないらしい。
「あら、来たわ。」
「こんばんわ。」
「……流石に陽菜ちゃんいないね。」
「寝てるわね。」
「そっかぁ。」
「ただ、変わったと言えば……。」
「ん?」
奥から人影が。
「あるじさまー!」
「エクスカリバー!?」
「聞いてよー。
ミカエルがナイフみたいに小っちゃい武器に入れるから狭くて!」
「そこまで縮んだの?」
「正確にはもうちょっと大きい。
カトラスくらい。」
「で、抜け出したの?」
「狭いんだもん!」
「まぁ、錆びないならいいか……。
ミカエル様に怒られないようにね。」
「うん。」
と、エクスカリバーの頭を撫でる。
「ふぁっふ!?」
「あ、リーフェの方だった。」
「どんな間違いよ……。」
改めてリーフェの頭を撫でる。
「お紅茶? 珈琲?」
「珈琲をください。」
「はーい。」
リーフェがサイフォンを取り出す。
「ねー、あるじさまー。」
「なんだい。」
「もっかい頭撫でてー。」
「ほいよ。」
「えーへーへー。」
「甘えん坊ねぇ、エクスカリバー。」
「リーフェさんもあるじさまに頭撫でて貰ってるでしょー?
何とも思わないのー?」
「思うから撫でて貰ってるのよ。」
「だよねぇ。」
「僕って、いったい。」
「娘が増えたと思えばいいじゃない。」
「みんな娘なんだが。」
「あなたが歴代想像したのが女の子だったからねぇ。
やむを得ないというか、なんというか。」
「うーむ、男子だったのだなぁ。」
「そういや、あなたの記憶にルゼリー王国に行ったって
あったんだけど、覚えてる?」
「なにそれ。」
「流石に覚えてないわね。」
「夢でも思い出さないな。
ということは、10歳未満の記憶だね。
扉が開いたのかい?」
「いいえ、開かなかったわ。」
「お……、開かない扉もあるんだね。」
「結構開かないわよ?」
「そうなんだ。」
「扉って?」
「エクスは知らないんだっけ、どうだっけ。
記憶の階層を束ねた通路があってね。
あっちの奥なんだけど。
そこに僕の記憶があるんだけど、解放できるものや
出来ないものがあるそうだよ。」
「ふーん。」
「エクスカリバー、ちょっと子供に戻ってない?」
「リフェさん、武器を入れるのにちょっと縮めたからじゃないかなー。」
「あら、そんなことできるのね。」
「エクスって相当容量のある聖霊って聞いてるんだけど。」
「あるじさまよりは力がある……、はずなんだけど
使うところもそもそもないんで、
いくつか機能を削りましょうかってミカエルが。」
「そうなんだ。」
「ただ、機能圧縮?とかいうものらしくて
いざというときには解放できるんだって。」
「ほー。」
「開放も何もあなた帰ってきてから大体外にいるじゃない。」
「いいのー。」
「あどけない20歳くらいってまぁまぁ魅力がありますね。」
「お、浮気の夢かしら今日は。」
「ここに来ている以上はないねー。
エクスは可愛いねってだけの話で
自分がどうこうしようとは思わないかなー。」
「どうこうしていいのに。」
「無知が知恵をひけらかすんじゃないの。
恥を振りまくだけよ、あなた。」
「ぶー。」
口を尖らせて足をぶらぶらさせているエクス。
「そういやエクスって珈琲飲めるの?」
「飲んだことないなー。」
「はい、飲んでみたら。」
「何この黒い水。」
「これが珈琲なんだよ。
熱いから冷まして飲むんだよ。」
「へぇー。
……どうやって冷ますの?」
「こんな感じに、ふーふー。」
「ふーふー。」
無知でも逆切れ的に武器にしないんだよね。
素直なところがエクスのいいところ。
「ずず……、そろそろ飲めるんじゃないかな。」
「ずず? 何したの?」
「ちょっとずつ飲むんだよ、熱いかも知れないからね。」
「ちょび、ちょび。
うわ、にがーい!
……ん? でもいい香りだね。」
「分かるんだね。
流石は大人。」
「おとななの?」
「あんまり飲むと夜寝れなくなるから気を付けてね。」
「はぁい。
ずず……、もうちょっと甘い方がいいな。」
「はい、エクスにはグラニュー糖を入れるといいわ。」
「何すんの、これ。」
「先を破って中身を入れてそこの棒で混ぜるんだよ。」
「ざざー、ぐるぐる。
……ずず。
もうちょっと甘い方がいいー。」
「エクス結構甘党なんだね。」
「そうかなー?」
二本目のグラニュー糖を入れたところでちょうどよくなったらしい。
「おーいしーい!」
「僕のよく通ってるマスターの珈琲の味だからね。
記憶が薄いこともないし、美味しいと思うよ。」
「通い詰めてるわねぇ。」
「まーね。」
「そういや、いつぞや聖撃砲のテストしたの覚えてる?」
「聖撃砲……、アストテイル君の作ったレールガン?」
「そそ。」
「お、どうなったの?」
「あなたにもう一回放ってほしいって、預かってるわ。」
「いいですよー。」
珈琲を飲み終わり、記憶の回廊を歩く。
「ここに、あるじ様の記憶があるんだね?」
「気になったら開けてもいいよ?
細かいのは中に入ってまた開けなきゃいけないだろうし。」
「へ? あ、そうなんだ……。
自分のこと見られるって恥ずかしくない?」
「ここ以外に漏れると流石に恥ずかしいですな。」
「……ホコリまみれの扉がいっぱい。」
「シュライザルの記憶がだいぶ薄れてきてるのよ。」
「ふーん……、帰りに開けてみようかな。」
「ありがとね。」
「ううん、今は聖撃砲の方が先でしょ?」
「だからさ。」
「うん。」
最奥の部屋。
「太陽がまぶしいねぇ。」
「だねぇ。」
「はい、疑似聖撃砲。」
「でっかくなってない!?」
「あなたの能力が高いからね。」
「ほー。」
赤色と黄色のタンクがチューブでつながっており、
その上に銀の撃鉄がついている……のが、
腰に回してつける方式。
前回は単銃型だったが、今回は左右に銃口があるツインガン。
単純に威力が二倍ってことですよね……?
「前と一緒で星空のローブで緩衝したらいい?」
「今回はショック機構を付けたらしいわ。
だから発射に思いっきり集中していいそうよ。」
「ほう。」
まるでマッサージチェアの肘置きのような……、
もっと大きいな。
腰に回して銀のベルトを腰に当てる。
「では、天に向けまして……。」
服がばたばたはためく。
チュイイイイー……、と機械音がする。
「混ざる感じがしたら、撃つ!」
ドガァン!とレーザーが天に照射される。
「あ、本当にショックがない。」
「すごーい、あるじ様の聖撃砲だぁ。」
カン。
「……ん?」
銀のパーツが落ちている。
「ホアアーッ!
また壊してしまった!」
「今回は壊れない想定で作ったそうよ?」
「撃つことだけに集中していいって聞いたから……。」
「アストテイルもそこを加味して頑丈に作ったんでしょうけど……、
あなたのスペックが高すぎたわね。
まぁ、それ撃てる人はあなた以外地球にいないわけだし仕方ないわね。
ちゃんと動画も撮影したし、アストテイルに報告しておくわ。」
「う、うむぅ。」
「あるじ様ー。」
「なんだい?」
「私で聖撃砲撃ったらどうなるのー?
撃ってほしいなー。」
「エクスで!?」
「あら、アストテイルの作品にヤキモチかしら。」
「私、これでも最上級聖霊なんだよ。」
「じゃ、エクスの武器取ってくるね。」
「はい、これ。」
エクスがカトラスを差し出す。
「本当に縮んだな……。」
「私では入らないサイズだってさ。」
「だろうね。」
カトラスを受け取ると、両手で柄を掴む。
キラキラ刀身が輝いたと思うと大剣に変化する。
「あ、大きくできるんだ……。
あるじ様、私のこと気遣ってくれたんだね……。」
「狭いんでしょ?」
「あるじ様優しいなぁ。」
エクスが剣に吸い込まれていく。
服がはためくと刀身が太陽のように輝く。
「エクス、行くぞ!」
電気ナマズの石とは比べ物にならない光線が天を突き抜ける。
範囲的にはそんなに広い光線ではないのだが、
雲が渦を巻きながら消し飛ばされている。
「エクス、すっげぇ!」
キラキラ輝きながらエクスが隣に現れる。
同時に大剣が手元から消える。
「すごいのはあるじ様だよ。
私を綺麗に使ってくれてありがとう。」
「あら……?
エクスが急に大人っぽく……。」
「ん? あ、機構圧縮が解放されてるからだと思う。
刀身を戻したら私も縮むから。
あはは、あるじ様はどっちの私が好き?」
「エクスであればどっちもいいと思うよ。」
「どっちか!」
「今の方がいい。」
「あるじ様、本当に子供嫌いなんだね。」
「エクスは物分かりがいいから何ともかな?
キーキー叫ばれると流石にげんなりしますけど。」
「じゃ、どうして今の私を選んだの?」
「出会った時の第一印象のエクスのままだから。
小さくても可愛らしいとは思うんだけど、
冷たい瞳をしてたエクスもいいかなって……。
何言ってるんだろうね、僕。」
「あの時はごめんね?」
「いやいや。」
「今はもう寂しくないし、壊してほしいとは思わないかな。
あるじ様のお陰だね。」
「そう?」
「生きていることの重要さと意味、意義を教えてくれたからね。
……本気で撃ったんでしょ、今。」
「まずかった!?」
「すっきりしたなって。
たまに使わないともぞもぞしちゃって。」
「そういうことなら撃ちましょう。
ここなら何発でも撃てるからね……、っていうのはいかんのか。」
「どうして?」
「聖撃砲って神の兵器なんでしょ?」
「そうだよ?
ただ、あるじ様はどうかな。
陽菜ちゃんと双葉ちゃんが言ってたけど、
神様自体はあるじ様のこと気に入ってるみたいでね?
だから私がこうしてここにいるのもあるよ。」
「まっちろな経歴の人ではないんですが。」
「前科持ちだっけ?」
「そこまではいかないけど、悪いことしてないわけでもなくて。」
「神様が知らないと思うー?」
「だよねぇ。」
「……あるじ様は神様のことどう思う?」
「お会いしたことはないんだけども、
いつも力を貸して下ってるとは思うね。
あまり回数は多い方ではないと思うんだけど、感謝はしてますかね。
つい最近も危ないところを助けていただいたかな。」
「……それ、神様じゃなかったら?」
「それでも感謝かな。
神様を存じ上げないので、まずは感謝かな。
確証ないと感謝しないのも考え物でしょ。
施しは確実に頂戴してると思うんでね。
自分ではどうにもならないところで、
あ、助かったんだなこれ。って思うこと
結構あるんだよ。」
「信じなくても施してくれるのが神様だとして?」
「だったらもう施しを頂戴してませんかね。」
「……こりゃ運命に好かれるわけだ。」
ぎゅーっとエクスが伸びをする。
「??」
「私はあるじ様のそういうところ、好きだよ。」
「そう?
宗教やってるわけじゃないんだけどねぇ。」
「あるじ様、典型的な日本人だもんね。」
「エクスは?エルフ?」
エクスが髪をかき分ける。
「せ・い・れ・い!」
「耳長くなかったんだ、初めて知ったよ。」
帰り。
「どこ開けようかな。」
「鍵のかかっているの扉は開けないであげてね、エクス。
あなた、鍵付きのウリエル様の日記帳開けたでしょ。」
「リーフェさん、知ってるんだ。
なんで開けちゃいけないの?」
「シュライザルも男性だからね。
性的嗜好のある部分には触れられたくないと思うのよ。」
「……リーフェさんは知ってるのに?」
「私はもう年だからねぇ。
そんなことで茶々入れるほど子供じゃないわ。」
「聞いててつらい。」
「シュライザル、ちょっと我慢してね。」
「はぁい。」
「……あ。」
「どうしたの?エクス。」
「あるじ様が私をこういう姿で構成したとして、
あるじ様の趣味なのかは知りたいな。」
「あのー、とあるゲームのキャラがエクスっぽくてね。
ただ真面目に容姿を言いますと著作権的にまずいって言うか。」
「その子、見られる?」
「そこの勇気の扉。」
かちゃりと開いて中をのぞくエクス。
「ふふん、私の方が可愛いな。」
「めっちゃ自信家だな、君。」
「あるじ様の作ってくれた容姿だからね。
私は可愛くて当然。」
「あれ? エクスって昔からいたんじゃないの?」
「いたよ?」
「あれ? じゃあ容姿を作ったって……。」
「私のもとの姿忘れてなーい?
私、アーサーに三度折られたエクスカリバーだよ?」
「あ。エクスって言ってたから忘れてたや。
エクスカリバーだったね。
湖の乙女からアーサーに行ったんだっけ。」
「湖の乙女? ヴィヴィのこと?」
「ヴィヴィアンで合ってるなら。」
「何回も直してはアーサーがいいって渡してさー。
折られる方の身にもなってよって話で。」
「その話、詳しく知りたいね。」
「つまんないよ? 昔話だし。」
「興味ある。」
「……ま、たまにはいいか。
リーフェさん、また珈琲淹れてくれる?」
「いいわよ。」
「楽しみだ。」
ワクワクしながら書斎に戻ることになった。
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