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第49会 回転華本と水春巻き

さて、今夜も訪問訪問。

今夜は何があるかな?


「あら、来たわ。」


「おや、リーフェだけかい?」


「少し前までウリエル様とミカエル様がいらしたわ。」


「入れ違ったかー。」


「二人から面白いものを預かってるんだけど。」


「なになに?」


テーブルに備え付けの椅子に座ると

リーフェが大きめの本を取り出す。


「やや、図鑑みたいに大きい本だね。

ちょっと背表紙が変わってるかな?

端っこに鋲が打ってある。

ざっくり言えばルーズリーフ。」


「そそ、これをー。」


両手の人差し指を背表紙の上と下、

打ってある鋲を挟むように持つリーフェ。


「どうするの?」


「はい。」


器用に動かすと、本のページが花のようにくるくると回って開く。


「おもしろい。」


回転華本かいてんかほんって言うものでね。

魔法使いの遊びみたいなものなんだけど。

シュライザルにやらせてみたらー?って。」


「ほう。」


「はい、どうぞ。」


「どうも。」


本をリーフェから受け取ると…。


「お、重くない!?」


「属性図鑑だからね。」


「これ、落としても大丈夫?」


「よく気が回るわねー、大丈夫よ。

あと、中身を見てごらん。」


表紙をめくってみると……、白紙だ。


「まっちろに見えますが。」


「見えないでしょ?

回した人にしか開かない字で書かれてるのよ。」


「面白い。

変わった鍵かけてあるね。」


鋲を両手の指で挟んでみる。

この時点で既に落としそうである。


「お、落としそう……。」


「出来ると思うわよ?」


「よいしょー。」


くるん、と回してみるとページがところどころ束になって回る。


「うわ、地味。」


「魔法で回してごらん?」


「魔法……、魔法。」


自分には風属性が出ていたはずだ。

扇風機にかけるように回してみて……。


ぱらぱら……。


綺麗に回り始める。

重量も指を回るように当たり分散されてそんなに重くない。


「あら、出来たじゃない。」


「はいっ!」


ぱたん、と本を閉じる。


「どうしたのよ。」


「止めるのも思い切りがいるなって。」


「あはは、中を読んでご覧。」


「ほいほい。」


ぱらりとめくると……。


バーカ、と書いてある。


「なっ、なんだこれはー!」


「読めたわね。」


「なにこれ!?」


「ウリエル様の悪戯。」


「あ、ウリエル様の。

じゃ、じゃあしょうがないかなぁ……。」


「あなた本当にウリエル様に甘いわね……。」


「ウリエル様、面白いと思いません?」


「まぁねぇ。

あなた、あぁいう方好きなんだ?」


「好き、好きなのかなぁ。」


「フェチに合ってたりして。」


「どうなんだろう。

ただ僕は妻が一番かわいいんでねー。

ウリエル様みたいに完全に金髪のハイテンションってどうなんだろ。」


「あなた静かな人好きだもんね。」


「まぁ、あまり無言でも困りますが。」


「あ、そうそうー。」


リーフェがごそごそしている。


「よもぎ餅食べるー?」


「あ、いただきたいです。」


「どうぞ。

コーヒーは?」


「のむのむー。」


「ちょっと待っててね。」


サイフォンで淹れてくれるらしい。


「手が込んでますね。」


「ウリエル様、ミカエル様にコーヒーが結構好評でね。

腕を落とさないようにあなたに練習台になってもらおうかなって。」


「あ、よろこんでー。」


コーヒーが出てくるまでよもぎ餅を我慢。


「あら、食べてていいわよ?」


「一緒にいただきたく。」


「そう?」


少し待っているとコーヒーが出てきた。


「ふーふー、あちち。」


「……。」


「どうしたのリーフェ。」


「奥さんが言ってた言葉が気になってね。」


「何のでしょう。」


「あなた、漫画かアニメから出ていたような気質してるわよね。」


「そうでしょうか。」


「バカに丁寧だし……、あとは意外性かな。

ミカエル様が笑われたのも気になってるのよね。」


「笑われないの?」


「鉄面のミカエルと言われるくらいにはね。」


「鉄……、へぇ……。」


「アニメキャラになりたかったとか?」


「いえー?

親には鬱陶しいからやめろってよく言われたんですがね。」


「わかんなかったでしょ、何のことか。」


「そう、全然……。」


「ふふ、まぁいいわ。

今日ちょっと料理してみたんだけど感想聞かせてくれない?」


「何かしていただいてばっかり。」


「そう?

私が好きでやってるんだから気にしないで。」


「ふむ。して?

リーフェの料理って?」


「ちょっと待ってて、温めてくる。」


ブーン……、と音がしている。

この空間に電子レンジがあったんだ。


「はい。」


小皿に乗せられて出てきたのは見たこともない料理。

何だか透明のぷるぷるに具が包まれている……。


「これ本当に僕の夢?

予想もつかないものが出てきたな。」


「回転華本は予想ついたんだ?」


「なるほど……。」


「ほら、食べてみて。」


「ぱくっ。

……むぐむぐ。

歯切れがいいね。

ぷるぷるしてるんだけど纏わりつかない。

味が……、春巻きのような。」


「お。

分かったか。」


「当たった?」


「水春巻きって言うのをちょっと作ってみたくて。」


「へ、へぇ……。

水春巻き……、面白い。

……。」


「露骨にしょんぼりするんじゃないわよ。

まだあるから。」


「あ。ある?

ごめんね、意地汚くて。」


「奥さんが惚れた理由が分かる気がするわ……。

あなた、結構可愛いわよ。」


「よく言われるんだけど、さっぱり分かんなくて。」


「……。

ウリエル様が惹かれるのも分かるかもなぁ。」


「どして?」


「あの方、あなたの奥さんちょっと含んでるから。」


「あー……。」


忘れていた。

そんなこともあったっけ。


「エクスは?

最近見ないけど。」


「再整備になってるけど。」


「あれ!? どうしたの!?」


「ミカエル様にブラムスとノーチェスで戦った最近のこと覚えてる?」


「それはもちろん。」


「ミカエル様がね、エクスをさらに小型化できないかってね。

今エクスは大剣からサーベルくらいまでは縮んだんだけど、

あなたの戦い方が一本刀に向いてないのを気にされててね。」


「何かみんないい人ばっかだなー。

申し訳ない。」


「あなたの夢でしょう?」


「それは言わないお約束。」


「だからウリエル様の事気にするのかしら。」


「あ、どうでしょう。」


「似てると言えば……、似てるわねぇ。」


「妻とウリエル様が?」


「雰囲気が? ちょっとね。」


「ふーむ、やはり夢なのかねぇ。」


「はい、おかわり。」


「すみません。

むぐむぐ、おいしい。」


「夢なのに味分かるのね。」


「起きると薄れるんですが、

夢の中ではわかることは多いですね。

ってか、リーフェも寝るでしょ。」


「概念的には……、そうねぇ。」


「何か引っかかる言い方だけどいいとします。」


「ほら、私の部屋って使ってないじゃない?」


「あるけど、運用はなされてませんね。」


「休むことはあるんだけど、横になってまでは寝ないのよ。

なんだろう。

あなたなら分かってくれると思うんだけど。」


「覚醒状態に近い眠りをしてますね。

疲れません?」


「そうでもないわよ?

あなたからエネルギー貰ってるから。

……謝るわ、ごめんして。」


「いや、いいですけども。」


「いっけなーい、忘れ物したわー。」


「あら、ウリエル様。」


「あ……、ウリエル様。」


「シュライザル、来てたんだ?」


「ウリエル様もお元気そうで。」


「私はいっつもこんな感じ。」


「そうですね。」


「ウリエル様、忘れ物って?」


「天界入界証。」


「めっちゃ大事なもの忘れてますね。」


「あはは、やっぱそう思うー?

結構抜けてるのよね、私。」


「シュライザルに言ってもダメですよ、ウリエル様。

シュライザルったら甘いんですから。」


「あ、うーん。」


「あはは、甘やかしてもいいことないよー?」


「そうですよねぇ。

何かしてほしいわけじゃないんですけどねー。」


「パンツでも見せてあげよっか。」


「ななな、なに言ってるんですか!?」


「べっつにいーよ?

ほれほれ。」


スカートの端をつまんで揺らすウリエル。


「今すぐやめてください。」


「真面目だなぁ。

まぁ、そういうところ嫌いじゃないけどー。」


すとんとテーブルにつく。


「あれ? 急ぎじゃないんですか?」


「ん? 帰れってか?」


「いや、居てくださるのは嬉しいですけど……、

怒られるとなるとちょっと嫌だなぁって。」


「……シュライザルさー。」


「なんでしょ。」


「欲って知ってる?」


「知ってますよ、なんですか。」


「あなた人間っぽくないんだよねー。」


「昔よく言われましたねぇ。」


「仙人っぽいって言われたでしょ。」


「ですね。」


「ちょっと昔に比べたらマシになったかな?

痩せて死にそうな顔して。」


「まぁ結婚しましたからね。」


「……ねぇ、本当に欲って知ってる?」


「知ってますよ。」


「私が無抵抗な女の子だったらどうしてた?」


「お綺麗だなーくらいですかね。」


「リーフェ、シュライザルがつまんない。」


「昔からこんな感じですよ?」


「ふぅん。」


すとん、と椅子から立つとウリエルがくるりと回る。


「ほれほれー、美人だぞぅ。」


「何がしたいんですか。」


「どうこうしてやろうって思わないんだねー。」


「妻がいますからね。」


「ふむ。

カナシーなぁ。」


「どうしたんですか。」


「割と私にしては頑張ってるんだけど、

夢でも好きにしないんだねー。」


「どうにもならないときはありますがね。」


「あるんだっ!?」


「私でもそういう夢を見ないわけではありませんね。

ただ、コントロールが効くならやらないだけです。」


「……。」


「おや、幻滅されましたかな。」


「やば。

これ本気のやつだなー……。」


「どうしました。」


「ん-、なんだろ。

そこで気取って見ませんありませんだったら

あー、すましてるなーって思ったんだろうけど

素直に言うんだねー。」


「浮気夢を見ないわけじゃないんで。

これは事実なんで隠したとてしょーもないです。」


「……ねぇ、本当に天界に興味ない?」


「あるにはあるんですがー……。

知らないほうがいいかもしれませんね。」


「もったいないなー。

本当に何か天使っぽい様子も見えるし。

あいつらみたいに無感情でもない。

あなたが天使だったらなー、って最近本当に思うよ。」


「あはは、光栄ですね。

ただ天使にしてはちょいと年を取りすぎましたかね。」


「あのねぇ。

お兄さんお姉さん幼女少年ばっかりじゃないのよ、天使って。」


「そうなんですか?」


「老若男女様々だよ?」


「ふむ。」


「リーフェが止めてるってことない?

天界に興味あるのに何で来ないのよ。」


「天使様に無作為に好きになられたらどうするんですか。

今のシュライザルを見てどう思われます?」


「あ、そっかぁ……。」


「天使ってさみしそうな顔されてるんですってね?」


「さみしそう?

あー……、あれをそう言うならそうなんだろうなぁ。

もう慣れちゃって何とも思わないんだけどさ。」


「ふむ。」


「リーフェ、ちょっと天界連れていきたい。」


「ミカエル様に怒られませんか?」


「怒られてもいいや、ごめんする。

シュライザル、ちょっと来て。

あなたにはいくべき場所だと思う。」


「ほ、ほう……。」


半ば強引に天界に行くことになった。

Copyright(C)2025-大餅 おしるこ

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