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第48会 最上の手ほどき

「さぁ、いっくよー!」


槍を構えるウリエル。

右手を握って後方へ流す自分。


二人の中間に一人舞い降りる。


「お待ちください。

今のままでは望んだ結果が出ません。」


「あ、ミカエル様……。」


「どうも。」


何かに気づいたようにこちらに歩み寄るミカエル。


「……はて、神聖属性が見えますね。

持っていたんですね、シュライザル。」


「そうですね。」


「あ、それは……。」


「ともなると、ウリエル。

あなたですか。」


「ぎくっ。」


「天使に興味があったので拒否しませんでした。

申し訳ありません。」


「へ?」

「は?」


「くすっ。」


目を丸くする天使達に小さく笑うリーフェ。


「もう。

ウリエルをかばってますね?」


「何のことでしょうか。」


「まったく、シュライザルに免じて赦します。

ウリエル、シュライザルに感謝してください。」


「ありがと、シュライザル。」


「いえいえ。

ミカエル様、望まない結果にならない方法は

ありますか?」


「そうですね。

神聖属性を持っているなら、覚醒したほうがいいでしょう。

えっと……。」


ポケットをごそごそしたミカエルが石を取り出す。


「紅泉の翡翠ですね。」


「知っているんですか?」


「余計なことを言いましたかね。」


「いえ。

これをあなたの額に当てて……。」


すこし温かい。


「胸に当てます。」


「ほうほ……、お?」


体が弱く輝いている。


「転生しているからでしょうか。

あまり強くは属性が出ないようですね。」


「ぴょうみょうとかいうものになりますか?」


「っ。

失明症が出たんですか?」


「掠っただけですけど。」


「なるほど……。

これは看過できませんね。

人の子に天使の魔法を向けたんですか?ウリエル。」


「あいっちゃー……。」


「あ、怒っちゃ嫌です。

ウリエル様はよくしようとしてくださいました。」


「そういえばあなたってそういう方でしたね……。

もう、ウリエルは幸せ者ですね。」


僕の額にミカエル様が触れる。


「覚醒率14%……。

失明症にはなりませんね。」


「シュライザル、全然覚醒しないんだね。」


「そもそもこの属性を持っているほうが珍しいです。

折角です、私と戦いませんか。」


「ミカエル様自ら!?」


「お忙しいのでは?」


「もっと上からの話ですが……、

仕事をしすぎなので休めとも命令されておりましてね。

こちらに機を見て来てもよろしいでしょうか。」


「嬉しいです。」


「よかったです。」


「上って、ヤハウェ様とかですか?」


「そこまで行きませんね。」


「天界の理を知らないんですよね。」


「知らなくても生きていけますよ?」


「あー、天使好きにそういう意地悪しますー?」


「ではこう言いましょう。

私たちだけを見ていてください。」


「面白いこと言いますね……。」


槍を取り出したミカエルが構える。

対する僕は素手。


「フェーパですか?」


「ミカエル様を殴るわけないじゃないですか。

武器を弾くのに使います。」


「エクス……では重いですね。」


「陽菜と双葉でも?」


「陽菜と双葉?」


「ブラムスとノーチェスって言ったほうがいいですね。」


「21の世界の天人の武器ですね。

正直やりづらいです。

下手をしたら滅される可能性すらあります。」


「するわけないですよ。」


「あなたってそういう方ですもんね。」


シャン、と槍についた鈴が鳴る。

一気に飛び出す二人。

ミカエルを通り抜け、急反転。

長剣ノーチェスで斬りかかる。

長い槍で斬りかわされる。

次に短刀ブラムスで突き。

それも弾かれた。


おかしい。


長い槍で弾ける速度ではないはず。

気づいたらミカエルが反対の手で剣を持っていることに気づいた。


「リーフェ。

ミカエル様、本気だよ。」


「ウリエル様、分かるんですか?」


「ミカエル様しかできないんだけどね、斬槍術。

第三の腕があるミカエル様ならできるの。」


「ミカエル様、まさかこんな手を持たれているとは。」


「ふふ、本気になること自体珍しいですね。」


「お辛くないですか。」


「っ。

本当、読めない方ですね。

もう少しギアを上げてもよろしいですか。」


「喜んで。」


カン、カンと武器同士が当たる音が響く。

若干押されている自分。

カーン、と甲高い音がしたと思ったら

ノーチェスが弾かれた。


「やばっ……!」


食らう、と思ったところでミカエルの手がやんだ。


「そんな顔をなさらないでください。

危害は加えません。」


「お強いですね、流石です。」


その言葉にミカエルが不満そうな顔をする。


「おや?」


「リーフェの記憶を使いませんでしたね。」


「殺したいわけじゃないんですよ。」


「リーフェ自体は私に及ばないかもしれない。

しかし、天使をはじめとする神族を滅する武器がそれです。

あなたが本気になれば私をやり返すこともできるでしょう。」


「でも、楽しかったですよ。」


「たのし……かった?」


目を丸くするミカエル。


「ぶちのめすだけが戦いじゃないでしょう。

まぁ僕自身は大した戦闘力があるわけでもないですから

説得力はないかもしれませんが、

戦いしか知らない人の会話があってもいいんじゃないですかね。」


「……あぁもう。」


「どうかしました?」


「勘違いしないでほしいんですが、ということを前提に

奥さんが羨ましいですね。」


「やっぱミカエル様もそう思うー?」


「ウリエルもですか?」


「めーっちゃ気遣ってくれるんだよね。

不快なわけない。

もっとも、シュライザル曰く

男女の友情は存在しないそうですが。」


「……そうなんですか?」


「性差がある以上はどちらかは好きになるでしょう。

そういうことです。」


「では、こうして話しているのもあり得ないと?」


「そういうこと言います?

これ妻も見てるんですよ。

立ち居振る舞いは重要ではないかと。」


「シュライザルは浮気しなそうです。」


「あらゆる可能性はつぶしますね。」


「夢ならば、いいのでは?」


「何でもできる夢だからこそ節度を守りたいですね。」


「ふむ。」


「うん?」


「そういうあなただから、天使がついたのでしょう。

大丈夫です、我々は悪意を持って接しません。」


「助かります。」


「問題はウリエルですね。」


「私?」


「あなた、シュライザルに好意を持っているでしょう。」


「な、ななな何の話ですか!?」


「日記帳、読みましたよ?」


「あー……、渡したの失策だったかな……。」


「それでも、手を出しさえしなければ赦します。

あなたにしては珍しいですね。

天使ですら気に入らなかったのに。」


「あいつら無感情で嫌い。」


口を尖らせるウリエル。


「シュライザルは優しいですからねー……。

気持ちはわかります。」


「でしょー!?」


「でも人のものですよ。

取ってはいけません。」


「ぶー。」


「ミカエル様、戦闘の結果は?」


「想像以上でしたね。」


「よかったんですか?」


「今現在、私はウリエルから凍ったグローブを預かっていません。」


「あ、いっけない忘れてた。」


「というと?」


「シュライザルは攻撃力を上昇させていましたが、

私の攻撃力は下がっていませんでした。

よく付いてこられましたね。

明晰夢を持っていることを加味しても

ちょっと能力的には異常でしょうか。」


「現実世界ではぱっぱらぱーですが。」


「ふふ。」


「あら珍しい。

ミカエル様でも笑うんですね。」


「リーフェ、そこを突っ込まないでください。

私、シュライザルのユーモアには弱いようなので。」


「シュライザルー?

珍しいわよー、ミカエル様を笑わせるなんて。」


「そうなんですね……。

いや、実際何もできませんですし。」


「現実世界をあまり見ませんかね、今は。」


「そうですか?」


「夢の彼女ってのも……。」


「ウリエル?」


怖い顔をするミカエル。


「ひーん、すみません控えますー……。」


「幼いエクスならいざ知らず、

天使として確立している審判者ウリエルあろうものが

人になびくなど……。」


「むぅ。

ミカエル様だってシュライザルに

一目置いてるじゃないですかー。」


「ほほう、そういう言い方をしますかウリエル。」


「あ、やば。」


「ミカエル様、おいしいコーヒーでもいかがですか。」


「……。」


「リーフェが淹れてくれるんですよ。」


「……はぁ。

シュライザルもシュライザルです。

ウリエルに甘い。」


「あはは、憧れですからね。」


「シュライザル。」


「はい。」


握りこぶしを作ってミカエルがこちらに向ける。

おや?とは思ったが握り拳を作ってミカエルの拳に突き合わせる。


「忘れないでください。

その心が天使をも惹かせるということを。

ウリエルを褒めるわけではありませんが、

人の身でなかなか出来ることではありません。

なんなら……、こほん。」


「あーっ!ミカエル様ずるい!」


「何も言ってません。」


「言ったようなものでしょう!?」


「あはは。」


本当に平和だなここは。

日が傾くまで進まないような会話を続け、

朝に目が覚めた。

最上の手ほどきだったと思う。

ミカエル様は本当に強かった。

Copyright(C)2025-大餅 おしるこ

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