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スウィートカース(Ⅲ):二挺拳銃・染夜名琴の混沌蘇生  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第四話「戸口」
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「戸口」(8)

 生命の宿らぬ銀色の手が、ゆっくり横へ動く。


 その先端に集中する彼女らの瞳は、すでに血まなこだった。


 今宵の饗宴において、この魔女どもこそが、異様な術をもちい、銀色の手を操っているのだ。


 すきとおった壁のむこう、銀色の手は、気の狂うような緩慢さで下へ沈んだ。


 ああ、なんとおぞましい。周囲の空間から隔絶された檻の底には、ちいさな獣の死体が累々とわだかまっているではないか。


 飢えた生唾を飲んだのが、どの魔女だったかはわからない。


 銀の手は、選別をおこなった。つぶさんばかりの力でつかんだ一つの影を、屍の山から引きずり出す。


 檻の中にゆいいつ穿たれた奈落の穴に、その生贄は、みじんの容赦もなく叩き落された。


 同時に、呪われた魔女どもの狂喜は頂点に達している。


「やったやったやったぁ♪」


星歌(ほしか)、うまい!」


「ちょろいぜ!」


 美須賀大学付属高等学校に近い駅前、きょうもショッピングモール内のゲームセンターはさわがしい。


 UFOキャッチャーにむらがるのは、制服姿の女子高生たちだ。


 とりだし口に落ちてきた戦利品のぬいぐるみを、そのひとりがつかみ、だきしめて頬ずりした。


「かわいい~ふわふわ~」


「ちょ、だめじゃないの、シヅル。それはホシカがとったやつ!」


「イノシシちゃんはうちの子~あったか~……え? あ、あったかい?」


 次の瞬間、悪夢は幕をあけた。


 まん丸なぬいぐるみが、短い足をいきなりばたつかせたのだ。


 阿鼻叫喚する女子高生たち。


「いや!?」「そんな!?」「電動ッ!?」


 てのひらサイズのイノシシは、江藤詩鶴(えとうしづる)の腕をとびだした。そのまま、別の同級生の制服にへばりつく。


 ぬいぐるみは、おそろしい声で彼女の名を呼んだ。


久灯(くとう)瑠璃絵(るりえ)……」


「うッ!?」


 名指しされた女子高生の顔は、ぎくりと引きつった。


 そう。彼女こそは、美須賀大付属の優等生アイドル、久灯瑠璃絵その人である。


 とりついたものを、必死にひきはがそうとするルリエだが、子イノシシはなおも続けた。


「フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ・ナグル・フタグン。そうだろ?」


「はいはいはいはいわかったわかった! わかりましたァー! そこまで言うフツー!?」


 ぜえぜえ息をしながら毒づくと、ルリエはうしろを見た。目を点にして沈黙する同級生ふたりに、ひたいの汗をぬぐいながら微笑む。


「とんだ大外れね……ちょっと文句言ってくる! またあした!」


 全力で走り去るルリエの背中を、ふたりは呆然と見送った。


 子イノシシがぶらさがって揺れる場所をながめながら、つぶやいたのはシヅルだ。


「スカートに、スカートに……」

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