「戸口」(8)
生命の宿らぬ銀色の手が、ゆっくり横へ動く。
その先端に集中する彼女らの瞳は、すでに血まなこだった。
今宵の饗宴において、この魔女どもこそが、異様な術をもちい、銀色の手を操っているのだ。
すきとおった壁のむこう、銀色の手は、気の狂うような緩慢さで下へ沈んだ。
ああ、なんとおぞましい。周囲の空間から隔絶された檻の底には、ちいさな獣の死体が累々とわだかまっているではないか。
飢えた生唾を飲んだのが、どの魔女だったかはわからない。
銀の手は、選別をおこなった。つぶさんばかりの力でつかんだ一つの影を、屍の山から引きずり出す。
檻の中にゆいいつ穿たれた奈落の穴に、その生贄は、みじんの容赦もなく叩き落された。
同時に、呪われた魔女どもの狂喜は頂点に達している。
「やったやったやったぁ♪」
「星歌、うまい!」
「ちょろいぜ!」
美須賀大学付属高等学校に近い駅前、きょうもショッピングモール内のゲームセンターはさわがしい。
UFOキャッチャーにむらがるのは、制服姿の女子高生たちだ。
とりだし口に落ちてきた戦利品のぬいぐるみを、そのひとりがつかみ、だきしめて頬ずりした。
「かわいい~ふわふわ~」
「ちょ、だめじゃないの、シヅル。それはホシカがとったやつ!」
「イノシシちゃんはうちの子~あったか~……え? あ、あったかい?」
次の瞬間、悪夢は幕をあけた。
まん丸なぬいぐるみが、短い足をいきなりばたつかせたのだ。
阿鼻叫喚する女子高生たち。
「いや!?」「そんな!?」「電動ッ!?」
てのひらサイズのイノシシは、江藤詩鶴の腕をとびだした。そのまま、別の同級生の制服にへばりつく。
ぬいぐるみは、おそろしい声で彼女の名を呼んだ。
「久灯、瑠璃絵……」
「うッ!?」
名指しされた女子高生の顔は、ぎくりと引きつった。
そう。彼女こそは、美須賀大付属の優等生アイドル、久灯瑠璃絵その人である。
とりついたものを、必死にひきはがそうとするルリエだが、子イノシシはなおも続けた。
「フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ・ナグル・フタグン。そうだろ?」
「はいはいはいはいわかったわかった! わかりましたァー! そこまで言うフツー!?」
ぜえぜえ息をしながら毒づくと、ルリエはうしろを見た。目を点にして沈黙する同級生ふたりに、ひたいの汗をぬぐいながら微笑む。
「とんだ大外れね……ちょっと文句言ってくる! またあした!」
全力で走り去るルリエの背中を、ふたりは呆然と見送った。
子イノシシがぶらさがって揺れる場所をながめながら、つぶやいたのはシヅルだ。
「スカートに、スカートに……」




