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いつしか至らむ  作者: 銀月


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15/15

 次にラーベが目を覚ますと、傷の手当は完全に終わり、ベッドに寝かされていた。

 枕元にはイグナーツが座り、ラーベが目を覚ましたことにほっとしたのか、柔らかく笑んで、ラーベの顔を見つめていた。

 どうやら、ラーベが寝ている間に後始末も全部終わってしまったようだった。


「──父さまもいなくなって、私、何もなくなってしまった」

 未だに“父”が倒れたことは、信じがたい。けれど、たしかに“父”はイグナーツに斬られて絶命した。カルミナもいない今、もう、自分はひとりなのだ。

「何言ってるんだ、お前にはまだ俺がいるだろう?」

 呆れた顔のイグナーツがことも無げに言ってのけるが、ラーベは、そんな簡単に済まないことを理解している。何と言っても自分はあの“父”の娘で……。

「でも、イグナーツ。私は、たくさん」

「それは無しだ」

「でも」

 泣きそうな顔のラーベに、きっぱりと言ってから、イグナーツは、ふ、と優しく笑った。

「……暗殺者(ラーベ)は死んだ、で、いいだろ」

「そんなの、詭弁だ。欺瞞だ。私はここに生きてるのに」

「心配するなよ。カルミナだって、きっとそうしろって言ってくれるさ。俺も賛成だ」

 くしゃりと頭を撫でて、イグナーツは笑う。

「それで、お前、これからはなんて呼ばれたい? さすがに名前は変えたほうがよさそうだからなあ」

 イグナーツに覗き込まれてラーベは絶句し……それからぷいと顔を背けてしまった。

「お前が決めてくれ」

 イグナーツは少し考えて、「じゃあ、“モルガ”と呼ぶことにしようか」と笑った。

「お前の髪の色は、朝焼けの色(モルゲンロート)だと思ってたんだ。それに、朝は新しい日のはじまりだからな」

「……イグナーツ、お前、意外にロマンチストなんだな」

「悪いか」

「そのくせセンスも微妙だ」

「……俺に何を求めてるんだよ」

 顔を(しか)めるイグナーツに、ラーベ……モルガはぷっと吹き出した。

「──いいよ。私は今から“モルガ”だ」

 イグナーツに貰った名前。それが今日から私を表すものだ。

「それにしても、モルガ、お前のその喋り方は地だったのか」

 イグナーツは、また笑いながら妙なことを言い出す。

「何がだ」

「それだ、それ。もっと、あれだ、女らしい喋り方ってあるだろう? ナントカだわ、とか、ナントカね、とか。この前、魔の森で会った女魔法使いみたいな話し方が」

「……そういうのがいいなら、他を当たれ」

 思ってもみなかったことを言われて憮然とするモルガの頭を、イグナーツは、はは、と笑ってくしゃくしゃ掻き混ぜる。

「これは、俺のセンスがどうこう言ったお返しだ」

 イグナーツはモルガに顔を寄せ、唇を重ね……「これからは、俺とずっと一緒だからな」と囁いた。


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